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京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

授業料不徴収は「教育費無償化」の「重要だけど一部分」にしかすぎない。なぜ大阪では、誰もそれを言わないのか?

2023-08-05 08:56:17 | 受験・学校

例の大阪の私立高校の授業料無償化に関して、最近、いろんな動きがでてきたようです。少なくとも昨日だけで、次のようなネット配信の記事がでました。

大阪府支出増で私学合意へ 高校無償化、反発受け譲歩(2023年8月4日、産経新聞配信記事)

https://www.iza.ne.jp/article/20230804-ANOSAXL45BODBGQMNBNLCOQ7OM/

生徒1人当たりの補助金最大5万円引き上げ 吉村知事が「授業料無償化」修正案を発表 私立高校の負担軽減 (2023年8月4日、朝日放送=ABC配信ニュース)

https://www.asahi.co.jp/webnews/pages/abc_21160.html

しかし、これらのニュース配信記事を読んでも、「あかんなー。議論の前提がそもそもまちがっているんじゃないか?」と思っています。それは、これまでの議論において、「授業料無償化」は「教育費無償化」のなかの「重要だけど一部分にすぎない」ということが、全然理解されていないということ。そのことを強く感じます。「こういう教育費無償化に関する原則論的な部分の確認がおろそかになっていて、選挙対策的な<高校授業料無償化完全実施>パフォーマンスが優先されている感が強い」ところに、大阪のこの議論の「いかがわしさ」を感じてしまいます。

それこそ義務教育段階においても今日、教材費や修学旅行費、給食費等々、保護者の費用負担が授業料以外の部分でいろいろと発生しています。憲法に定める義務教育の無償という理念を、教育基本法の方で「授業料不徴収」原則に狭めているので、このような費用負担が生じる。ただ、義務教育段階では経済的な困難に直面する子どもと保護者に対しては、就学援助制度を適用することもできる。また、かつては教科書無償配布制度をつくり、最近では各自治体で給食費無償化に取り組むなど、「教育費無償」の範囲を義務教育段階では拡大してきた歴史的経過もあります。

そう考えると、本来、高校段階での「教育費無償化」についても義務教育段階を参照しつつ、たとえば「授業料不徴収」原則の適用だけでなく、たとえば通学定期代の補助、教科書代やワークブック・参考書、さらにはひとり一台のパソコン・タブレット使用を含めた教材費の負担軽減、学校での昼食代の補助等々、その無償化を適用する範囲を広げていく議論をしていかなければいけない。

ところが、いま大阪で「私学を含めた高校無償化」と称してやっている議論は、まだまだ「授業料不徴収」原則をどう適用するかという話にしかすぎない。また、その「授業料不徴収」原則が公立・私立に関係なく、所得制限なしに適用されても、他の子どもと保護者の費用負担は残り続ける。

なおかつ、昨日あたりに大阪府側・私学側の妥協案みたいなものが出されて、授業料不徴収の範囲を当初案のひとり年額60万円から63万円に拡大(3万円増)した上で、ひとりあたりの学校運営費の補助を2万円増(両方合わせて5万円増)にしたところで、上記の記事によると、授業料不徴収を完全に実施できる私学は7割程度。逆にいうと残り3割は、「それでは足りない」ってことですよね。そう考えると、この妥協案、「教育費無償化の重要な一部分である授業料不徴収原則すら、不十分な適用しかできない制度設計だ」ということになります。

ちなみに、下記はツイッター上で見つけた画像ですが(@japasiaearthさんのアカウントより)、いままで大阪府知事で日本維新の会共同代表の吉村さんは、大阪で「私立高校無償で行ける」と、あちこちで言ってきたようですね。「今後も3割の私立高校で、授業料を徴収せざるをえない制度設計していて、ほんと、<私立高校無償でいける>なんて、よく言うよ」と私などは思います。

そして、「なぜマスコミ報道も含めて、<教育費無償化は授業料不徴収だけにとどまらない。授業料不徴収は教育費無償化の重要だけど一部分にしかすぎない>という話を、大阪では誰もしないのか?」と、私などは言いたくなってしまいます。

※以下、@japasiaearthさんのアカウントで見つけた画像。

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