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京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

メディア・ポリティクスとメディア・リテラシー

2006-09-30 07:07:52 | 新たな検討課題

今の大阪市政改革について、この間の青少年会館「廃止」方針の出し方などから見て、「こんな手法が使われている」と私は思っています。

  1. 先にマスメディアなどで、何らかの大阪市政関係の諸問題が報じられる。
  2. そのマスメディアで伝えられた市政上の諸問題に対して、一部の「市民」から批判・非難の声があがる。
  3. その一部「市民」からの批判・非難の声を受ける形で、市長などが市職員よりも先に、市政改革の方針をマスメディアに伝える。
  4. マスメディアで先に出された市政改革の方針に沿った案がでるような、外部委員をまじえた各種の委員会・会合が作られる。(しかも、その委員会などは、できるだけ外部に対して非公開の形をとったりする=「市政への透明性」を高めるとかいうわりには、なぜかここは透明性がない。)
  5. その各種委員会・会合の方針をマスメディアで発表し、それを「既定の方針」のように認識させ、あとで市役所内をその方向に持っていく。
  6. さらに、その方針に従わないような市職員に、マスメディアが「守旧派」や「反対派の手先」「抵抗勢力」のようなイメージ形成ができれば、市政改革のプランを作った側にとっては「思惑通り」ということになる。
  7. しかし、その市政改革を推進した結果生じた市政の混乱状況や、その結果生まれてきた市政の矛盾、市民生活の逼迫状況などは、なるべく情報を表に出さない(というよりも、もしかしたら、市政改革のプランづくりをする側には、そういうことへの配慮や関心自体があまりないのかもしれない)。

簡単に言えば、市政改革を推進する市の上層部が、先に自分たちの方針を広く流布する形で、マスメディアを使って世論形成をした上で、そのマスメディアによって増幅された「市民」の声を「外圧」にしつつ、大阪市職員に改革案を飲ませる、という構図でしょうか。

ところで、このような手法が用いられるということは、マスメディアのニュースバリューがあって、「市民」の注目度が高い短期間のうちに、自分たちのすすめたい市政改革の方針を「既成事実化」してしまうことが目的、という風にも見えます。このように、この間の市政改革の経過からは、いわば、メディア戦略を組み込んだ政治手法といいますか、「メディア・ポリティクス」(メディア政治)といいますか、そういう側面が見えてきます。

そこから考えると、実は、市役所内で市政改革を推進している人たちのなかには、自分たちが市職員の間で「浮いている」ことや、この市政改革案にはさまざまな反対意見や矛盾、問題点があるということなどを知っている人もいるようにも見受けられます。だからこそあえて、市政改革を推進する市政トップ層が、市職員と内部で話し合うのではなく、「外圧」としてマスメディアと一部「市民」の声を活用する、という道を選んでいるのでしょうか。

一方、こういう手法が使われているという構図が見えてくると、市政改革についてマスメディアが伝えている情報のなかには、実は市政改革を推進している側にとって都合のいい情報が多いこと、また、市政のトップ層は、それ以外の情報がマスメディアなどを通じて流布されることをかなり恐れている、というようにも見受けられます。もしもそうだとすると、そこからまた逆に、大阪市政のトップ層は、実は自分たちの作っている市政改革案の中身について、「問題点の指摘や批判などがいろいろ出てくる前に、とにかくさっさと既成事実化して、通してしまいたい」という思惑を持っているのではないか、と推測されます。

したがって、こういった大阪市政改革のあり方を批判的に考えるためには、まずは「メディア・リテラシー」論的観点から、現在、マスメディアを通じて伝えられている情報を一度「相対化」してみることが必要かと思われます。マスメディアの伝える内容と、一部「市民」の動きと、市政改革を推進するトップ層の意向とが一致する、この現実がどのような「情報」を媒介にして作られているのか、そこを問う必要があるわけですね。

例えば、青少年会館など、一連の「廃止」方針が出た施設等の利用者のいる場から、昨今のマスメディアが伝えている大阪市政改革関連の情報を読み直してみること。そうすると、何がマスメディア経由で伝えられていて、何が伝えられていないかが見えてきます。と同時に、マスメディアの側がどこを情報源にして各種の市政改革関係の情報を発信しているのかも、こういった利用者が実際にいる場を見て考えると、よく見えてきますね。こんな感じで、今、マスメディアが報道している観点とは異なる観点から、今、報道されている内容を見つめなおしてみることが、大阪市政改革に対する批判的な認識を強めていくように思われますね。

そして、「善意」でいろいろやっているのかもしれませんが、大阪市政改革の動向を伝えるマスメディアと、マスメディアを通じて誘導・増幅された「市民」の声は、市政改革を推進する行政トップ層に、うまく「利用」されてしまっている、という構図も、ここから見えてくるのではないでしょうか。小さいかもしれませんが、本当に各施設を利用している人々の「反対」の声だってあるわけですからね。

ついでにいうと、インターネット空間上で、大阪市政改革関連のマスメディアの伝える内容などをもとに、大阪市職員や、関係する諸団体へのバッシングを繰り広げている人々は、見事にこの構図の形成に「動員」されている、といえばいいでしょうか。


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