緑陽ギター日記

趣味のクラシック・ギターやピアノ、合唱曲を中心に思いついたことを書いていきます。

チャールズ・ローゼン演奏 ベートーヴェン ピアノソナタ第31番を聴く

2016-07-30 23:36:02 | ピアノ
チャールズ・ローゼン(Charles Rosen 1927~2012)というアメリカのピアニストの演奏を初めて聴いた。
打鍵はそう強くないが、芯のある透明な音。
おのおのの音、各声部の音が明瞭に分離されて聴こえてくるのが第一印象だった。
聴いたのは、私の最も好きなピアノ曲の一つである、ベートーヴェンのピアノソナタ第31番。
録音:1970年。

この曲も様々な奏者の演奏を数えきれないほど聴いてきたが、当たりもあれば外れもあった。
テクニック的には申し分なくても、要求される深淵な感情表現が達成されていない演奏が多いと、正直感じる。

チャールズ・ローゼンというピアニストの演奏はとても正統的な演奏で、細かい部分もあいまいにせず、明確、明瞭に表現する。
第32番の演奏も聴いたが、今まで聴いたベートーヴェンノピアノソナタの演奏での技巧力はトップクラスだ。
第32番のあの長いトリルの随所での切れ目でも決して切れたり乱れたりしない。
恐ろしいほどのテクニックであるが、ポリーニのような冷たい精巧さというものはなく、もっと人間的なものを感じた。

冒頭に打鍵はそう強くないと書いたが、第31番第3楽章の「嘆きの歌」で聴こえてくる旋律の音は芯が強く、感情も強い。
しかし、「嘆きの歌」はとても悲しいのだが、同時にとても美しい。
この「悲しさ」を「美しさ」にまで感じさせる作曲者の創作能力の高さにも驚愕するが、この2つの要素を同時に表現できる奏者は、今までたくさん聴いてきた演奏の中ではごくわずかしかいない。
今日この演奏を聴いて、チャールズ・ローゼンはこの2つの要素を表現できていると感じた。

最後のフーガに入る前の強い和音の響きも重厚だ。
最後のフーガの速度は遅い。
人によってはもどかしく感じるかもしれない。
しかしこのフーガの各声部の表現は今まで聴いたことのないものを感じさせる。
このフーガをテクニックの見せ所ととらえてやたら速く弾く奏者もいるが、それと対極にある演奏で、このような演奏は初めてだ。
ローゼンほどの技巧の持ち主であれば、この部分を誰よりも速く完璧に力強く弾けるであろうが、そうしないところが、この奏者が自分の解釈に確信を持っていることを感じさせる。

最後の下降・上昇音階は速度を緩めることなく、強く弾き切った。
これが絶対正解だ。

HMVのCD全集の紹介によると、チャールズ・ローゼンは、知る人ぞ知る名ピアニストであり、録音はかなり多いが、1970年代前半まで。
その後は、著述家、音楽学者としての活動が主体となっていたようだ。
ベートーヴェンのピアノソナタの解釈本や、『音楽と感情』、『ピアノ・ノート』などの優れた著作があるという。

彼の演奏を聴くと、学究肌のように感じないでもないが、地味ながら感情表現はかなり強く感じる。
このような演奏を聴いたのは初めてであり、今後もっと彼の演奏を聴いてみたい気持ちに駆られると共に、ピアノ界の幅の広さ、奥の深さに驚かざるを得ない。

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2 コメント

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Unknown (Tommy)
2016-07-31 08:33:40
いつも素晴らしい演奏のご紹介ありがとうございます。

今回は同じものはヒットしませんでしたが下記の演奏を
聴かせていただきました。ありがとうございます。

https://www.youtube.com/watch?v=T12Dl0rB12E
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Unknown (緑陽)
2016-07-31 21:52:36
Tommyさん、こんにちは。いつもコメントありがとうございます。
Youtubeの演奏、聴かせていただきました。
ありがとうございます。
ベートーヴェンのピアノソナタ第28番、第4楽章の演奏でした。
チャールズ・ローゼンは、とても堅実で正統的な演奏をするのですが、平板ではなく、熱い感情が流れています。
こんな凄いピアニストがいたことに驚きますし、また楽しみが増えました。
紹介下さったYoutubeの動画の関連で、チャールズ・ローゼンの死の1年前(2011年)のライブ演奏を聴くことができました。
彼が84歳の時の演奏ですが、信じられないほどしっかりした素晴らしい演奏です。
彼の円熟期、晩年の録音が無いだけに貴重です。
下記にYoutubeのリンクを貼っておきます。
曲はショパンです。
もしよろしければお聴き下さい。

https://youtu.be/gBPc8Ihb3r4
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