緑陽ギター日記

趣味のクラシック・ギターやピアノ、合唱曲を中心に思いついたことを書いていきます。

ジェルメーヌ・ティッサン=ヴァランタンのフォーレピアノ曲集2023年リマスター録音を聴く

2024-07-06 21:40:04 | ピアノ
昨日の深夜、Youtubeで偶然、ジェルメーヌ・ティッサン=ヴァランタンの2023年にリマスターされたと記載されているフォーレピアノ曲集の録音を見つけた。
早速、夜想曲第1番を聴いてみたら、何と今までCDで聴いていた音の印象と全くと言っていいほど違って聴こえてきて、何度も聴き入ってしまった。

ヴァランタンの録音は今から15年くらい前ではないかと思うのだが、TESTAMENTというレーベルから出ているCDを買ってきいたのが最初である。
夜想曲と舟歌は1956年の録音だった。



音が籠っていて、非常に悪い音質で録音状態は良くなかった。
TESTAMENTの記載には2002年にリマスターされたと書かれていた。
恐らく劣化したマスターテープからリマスターしたと思われるのだが、録音当時のレコードは見かけたことは無い。恐らくあまり流通しなかったのかもしれない。
原盤はEMIのようだ。

しかしYoutubeで見つけたこの2023年リマスターとされる録音はCDの音質よりも明瞭で、CDでは聴こえてこなかった微妙な音も聞こえてくるように感じた。
そのためか、今までヴァランタンの夜想曲の演奏は第13番しか自分にとっては評価できるものでしかないと思いこんでいたのが、この録音で認識が変わってしまった。
最初のインパクトも強かったが、何度も聴いても惹きこまれてくる。

ヴァランタン(1902-1987)はオランダ出身であるが、母親がフランス人で、12歳のときには当時フォーレが院長を務めていたパリ音楽院に入学し、マルグリット=ロンなどの教えを受けたフォーレ直系のピアニストで、その演奏は正攻法にもとづくものであり端正でありながら、随所でかなり強い情熱を感じる独特の演奏を聴かせる。
とくに強靭なタッチから生まれるであろう芯の強い音は現代のピアニストには聴けないものを持っている。

ヴァランタンは22歳で結婚してから5人の子供の育児に専念するために長く演奏活動を中断していたが、48歳のときに活動を再開し、フォーレのピアノ曲集を録音したときは54歳になっていた。
しかし夜想曲第1番を聴いていると、その録音から聴こえてくる感情、30代後半でこの曲を作曲したときの若きフォーレの心情、秘められていた情熱の発露といったものが感じられるのである。とくに以下の箇所である。





そして彼女の顕著な特質である芯のある強い音は下記の箇所で際立っている。



生の音はもっと凄かったに違いない。
録音当時の状態のいい初出盤で再生したものを是非聴いてみたいものだ。

タワーレコードのヴァランタンについてのコメントにこんなことが書かれていた。

「謎の多いピアニストで、その詳しい生涯(生年も不明)ははっきりしていない。仏シャルラン・レーベルからフォーレのピアノ作品全集を最初に録音した人物といわれている。マルグリット・ロンの高弟でもあり、ダルレやデカーヴらを直接指導。彼女のフォーレは繊細で淡く優美で、その弱音は天国的といわれ、シャルラン・レーベルの創始者アンドレ・シャルランは「作曲家の心を弾けるのはロンとフランソワとヴァランタンだけで4人目はありえない」と語ったと言われている。
2012/08/30 (2018/01/19更新) (CDジャーナル)」

また、1993年に発売されたシャルダン・レコードの復刻盤CDの解説(平島正郎氏)には以下の記載があった。

「おしまいに独奏者、ジェルメーヌ・ティッサン=ヴァランタンについて、簡単にしるしておく。簡単にというのは、ぼくらがこのレコードからきき知ったこと以外には、ほとんど何もしらないからで、経歴その他、シャルダン・レコードに問い合わせた結果も、その知識に何も上積みはしてくれなかった。その知識とは、要するに彼女がフォーレのピアノ音楽のぬきんでたスペシャリストだ、ということにつきる。(後略)」。



以下にYoyubeの投稿を貼り付けさせていただく。
この曲は、夜のしじまに聴くのに最もふさわしい音楽だと思っている。まさに素晴らしいピアノ曲だ。

Nocturne No. 1 in E flat minor, Op. 33 No. 1 - Lento (Remastered 2023, Paris 1956)


ついでと言ってはなんだけど、舟歌第1番も貼り付けさせていただく。
この夜想曲第1番とともにこの曲を深夜に何度聴いたであろうか。
転調した後の直後の旋律の音に注目したい。音に包み込むような優しさを感じられる。母性的やさしさが潜在的に表出したと言っていいだろうか。
ジャン・ドワイアンやジャン・フィリップ・コラールとはまた趣の異なる演奏だ。

Barcarolle No. 1 in A minor, Op. 26 (Remastered 2023, Paris 1956)


【追記202407070012】

夜想曲第1番のこの2023リマスター編集による録音を何度も聴いて、ますます惹き込まれた。
ちょっと大げさかもしれないが、殆ど注目されてこなかったにもかかわらず、恐るべき実力、音楽性を持ったピアニストだと感じた。
強靭なタッチから生み出される独特の、心を打つ芯のある音は、マリヤ・グリンベルクの音、そして音楽を思い出させる。
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