晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

宮本輝 『螢川』

2010-08-16 | 日本人作家 ま
よく、宮本輝の本の裏表紙にあるプロフィールに、代表作が挙げられて
いて、「泥の川」で太宰治賞、「螢川」で芥川賞、そのご「道頓堀川」
で川の3部作完了・・・とあり、これら初期の作品にようやく手をつけ
てみようかと。

文庫で購入。表題『螢川』と「泥の川」も収録されていて、あと「道頓堀川」
も買い、いちおう書棚には川の3部作が揃ったカタチにはなりました。

まずは「泥の川」。
終戦から10年経った昭和30年の大阪、堂島川と土佐堀川が合流して安治川
となり大阪湾に注ぎ込む、その安治川にかかる昭和橋のたもとでうどん屋を営む
夫婦と、子どもの信雄を中心に、川沿いでのごみごみとした雑多な空気感の日常
が描かれています。
そこにある日、うどん屋近くに舟が停泊します。信雄と同年代くらいの男の子
と、姉らしき女の子がどうやらこの舟の住人。
男の子は喜一といい、喜一は橋の上で事故死した馬車引きの商人の荷車を、雨の中、
眺めています。それを目撃する信雄。荷車の鉄を盗もうとしていると思ったので
声をかけてみます。
しかし喜一は「これ、馬車のおっさんのやろ」と、知っている様子。
話は途絶え、川を見下ろしていた少年が突然、大きな鯉を見つけます。
「お化け鯉」と呼び、その全長は信雄の背丈ほどはあろうかというほど大きく、
しかし、喜一は、この鯉を見たことは内緒だと言うのです。
不思議に思う信雄。そして喜一はぱっと振り返ると走り去ってしまいます。

ここから、信雄と喜一のちょっとした交流があり、姉の銀子は信雄の母に気に入られ、
ちょくちょくうどん屋に遊びにきます。
しかし、信雄はあるショッキングな事を耳にします。喜一の住んでいる舟は
「廓舟」と呼ばれていて、川沿いの住人、とくに男たちのあいだでは知られていた
のです・・・

つづいて『螢川』。
こちらは、昭和30年代中ごろから後半あたりの、富山での話。
中学生の竜夫には、還暦を過ぎた父重竜、それよりだいぶ若い母千代という両親
があり、重竜は、戦後復興期には商売で成功したものの、その後陰りが見えて、螢川
今では日がな家でラジオを聴いています。
重竜と千代は再婚同士で、重竜は前妻とは子どもがおらず、千代は男の子がいた
ものの、前夫に愛想を尽かし、子どもを置いてきます。
そんなふたりが出会ったのは、まだ重竜が羽振りの良かったころに、千代は料理屋
の番頭補助として働いていて、やがて千代は重竜の子を身ごもり、重竜は離婚し、
千代と再婚、そして竜夫が生まれます。が、その時点で重竜は52歳。

ある日、重竜が家の中で突然倒れます。脳溢血で、持病の糖尿病も悪化していて、
何がしか障害は残るだろうと医者に告げられます。

竜夫は4月に中学3年生に進級、受験生となります。
クラスメイトで仲良しの関根は、竜夫の幼馴染みの英子と同じ高校に行きたいが
ために猛勉強をはじめます。以前から関根は英子が好きだ好きだと公言していて、
竜夫はどうかというと、子どもの頃こそよく遊んだものの、中学に入ってからは
ほとんど口もきいていません。

4月に入って、大雪が降ります。
季節はずれの大雪の年は、富山市内を流れる川の上流にいくと、ホタルが大量発生
する、という話を竜夫は祖父から聞かされていて、今年はまさに4月の大雪、子ども
のころに、英子にこの話をしていて、英子も誘おうかと迷います。

重竜の入院が長引きそうで、竜夫は父の持っていた手形を換金してもらいに使いに
出かけます。
そして千代は、新聞社の食堂の賄い婦として働き出し・・・

両作品とも、戦後の話なのですが、作品の雰囲気は、どことなく明治時代を思わせます。
タッチが古風、とは水上勉さんのあとがき解説にあったのですが、確かに、セピア色
をしているような描写といいましょうか。
「泥の川」は、大阪の下町の、湿ってゴミゴミした雰囲気を、『螢川』は、富山の
街並みや自然を、こちらはアッサリと描いています。

この2作とも、そんなにハッピーな話ではありません。どことなく物悲しげというか、
それはどちらも、主人公の近辺に訪れる「死」が物語に絡んでくるからでしょうか。
しかし、その死を大々的に描いていないというか、どちらも主人公が少年なので、
若さあふれるエネルギッシュや甘酸っぱさがありつつも、身近なところに死はある、
そういった部分が古風なイメージを思わせたのでしょうね。


コメント
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