晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

鈴木光司 『シーズ・ザ・デイ』

2010-08-30 | 日本人作家 さ
鈴木光司といえば、「リング」「らせん」「仄暗い水の底から」で、
日本のホラー小説レベルの高さを内外に知らしめた功労者的
な作家とみなしていて、そんな鈴木光司の書く、帯によれば
「感動の大作!」とは、これはもう期待値も高いってものです。

突然、妻から離婚を切り出された、船舶メーカー社員の船越達哉。
大学時代にヨット部に入り、たちまち海と船の楽しさに魅了され、
船に対する情熱のために、融通のきく公務員になり、退職してまで
行きたかった念願のヨットでの太平洋横断で事故に遭い、同乗クルー
を亡くすという悲劇に見舞われながらも、その後も海とかかりあって
きて家庭をかえりみなかったことで、妻が去ってしまいます。

そんな中、ヨット仲間の岡崎の所有しているヨットが売りに出ている
という情報を聞き、船越はそのヨット「リアクター3世号」を、離婚
して新居を売ったお金の一部で買い、船上暮らしをはじめるのです。

ヨット購入の契約を取り交わすときに、岡崎は代理の女性を寄越します。
稲森裕子と名乗る女性は、面白いものを船越に渡します。
それは、16年前、フィジー沖で転覆した、船越の乗っていた「ブルー
ラグーン3世号」の、海底に沈んだ位置を示す海図だったのです。
稲森はダイビングショップを経営しており、フィジーでダイビングを
していて、この船を発見。
それを岡崎に話したところ、この件を船越から聞いて知っていた岡崎は
稲森を代理に寄越した、というわけだったのです。

忌まわしい記憶がよみがえる船越。すると、一本の電話が。かけてきた
相手は、月子。かつての船越の恋人で、「ブルーラグーン3世号」が
フィジー沖で転覆した時に生き残った同乗クルー。

電話の内容は、晴天の霹靂。月子は16年前、転覆事故に遭って帰国して、
船越の子を妊娠していることがわかり、しかし月子の兄に説得されて実家
に戻り堕胎することになり、船越との仲はそれで終わっていたもの、と
思っていたのですが、じつは月子は、そのときの子を出産していたのです。
そして、陽子と名づけられた船越の娘が、家出をしたというのです。

中学3年生の陽子はなんと妊娠していて、年齢と妊娠を隠して、伊豆の旅館
でアルバイトをしていることが判り、船越は月子に、自分にまかせてくれと
伊豆まで自分の船で向かいます。
いろいろあって岡崎と稲森も同乗することになって、陽子を見つけ出します。
しかし、子供は生みたい、母のもとには帰りたくないという陽子。
船越はわかる気がしました。自己中心的、虚栄心のかたまり、他人を利用する
ことしか考えない、心と頭のネジが数本“いかれてる”月子のもとに、船越
としても返すのはしのびなく、稲森にひとまず預かってもらうことに。

船越と月子の交際したては、はじめこそワガママも可愛い範疇に見えていて、
船越は月子をクルーに育てようと船と海の知識を教えて、ある日、念願だった
ヨットでの太平洋横断をするクルーを探しているという情報を耳にし、船長は
知り合いだったので、船越は採用されます。そして、長い航海で、すこしでも
華やかさが欲しいと思い、月子もクルーとして紹介したことが、悲劇のはじまり
だったのです・・・

16年前の航海の途中にパラオに寄り、船越はある男の消息を探します。
それは、自分の父親。船越がまだ母のお腹にいる時に、船大工をしていた父親は
突然蒸発してしまいます。それまでも、たびたび「南洋へ行く」といっては、
一ヶ月ほど家を空けていたという父親。母から聞いた数少ない情報によると、
どうやらパラオであろうということで、この島に長く住む日本人に聞いてまわり
ますが、まったく掴めません。

父親は南洋に行くといって家庭を捨てて、パラオで何をしていたのか。
そして物語は、「ブルーラグーン3世号」の転覆までの経緯、このとき、クルー
たちの間でどんな軋轢が起こっていたかが描かれていきます。
さらに、登場人物たちの「血」と「運命」に翻弄されてゆくさまがとても面白く、
「運命のいたずら」といっても、ご都合主義的なところはあまり感じさせず、そこに
畏敬の念をおぼえるほどです。

ただ、ちょっとどうしても気になったところは、月子と、船越の母の設定。
あれ、それで終わりにしていいの?という置いてけぼり感があったかな。
コメント
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