晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

井上ひさし 『東慶寺花だより』

2023-03-12 | 日本人作家 あ

今年の桜の開花予想が関東では三月の半ばぐらいだとか。もう入学式シーズンで桜というセットはもっと北へ行かないと無理なんですかね。ようやく寒さが収まってきたと思ったら次は花粉症。今年は目のほうは今のところ大丈夫なのですが、鼻の方はマスクをしててもダメですねえ。

春なのに ためいきまたひとつ。

 

さて、井上ひさしさん。「手鎖心中」を読んですっかりハマってしまいました。

滑稽本を一冊出したことのある戯作者の信次郎は、新作の原稿を書くために鎌倉の東慶寺の御用宿「柏屋」に逗留しますが、なかなか書けません。この東慶寺とは「縁切り寺、駆け込み寺」として有名で、現代で言うところの家庭裁判所。当時は離縁はそう簡単にはできず、ましてや離縁なんてバツイチなどといった気軽さではなくもっと深刻で重大で、特に男性は妻から離縁したいと申し出されても承知しないケースが多く、女性側の保護そして離婚調停としてこの東慶寺は機能していました。ここでは本人が敷地内に入るか身に付けているもの(簪など)を敷地内に投げ込めばたとえ追手がいてもそれ以上手出しはできず、寺の中で二年間過ごした後に正式に離縁が成立します。で、調停があるのですが、その人たちの宿泊場所が東慶寺の御用宿で、柏屋、松本屋、仙台屋の三軒。夫側と妻側は別々の宿に泊まらなければなりません。

柏屋には主の源兵衛、おかみさん、娘のお美代、番頭の利平、飯炊きのお勝といった人たちがいて、さまざまな事情を抱えた女性たちが東慶寺にやって来ます。信次郎は若かりし頃に江戸で医者の付き人をしていたことがあります。

砂糖の商人の夫にはなんの不満もないけど離縁したがって・・・という「梅の章 おせん」。

寺内で病人が出たので、東慶寺御用医の代理で信次郎が診察に・・・という「桜の章 おぎん」。

製鉄の職人の妻が東慶寺の畑作業中に地元の漁師に見初められ・・・という「花菖蒲の章 おきん」。

東慶寺に駆け込んだのはじつは替え玉なのでは・・・という「岩莨の章 おみつ」。

女房と離縁したいと駆け込んできたのですが男子禁制で・・・という「花槐の章 惣右衛門」。

信次郎の幼なじみの女房が東慶寺に向かうと家出をし・・・という「柳の章 おせつ」。

妻の実家に金を都合してもらうかわるに離縁したいといっても夫は承知せず・・・という「蛍袋の章 おけい」。

あまりにドケチな姑が嫌になって・・・という「鬼五加の章 おこう」。

親孝行で話題の夫に嫌気ださして東慶寺へ・・・という「白萩の章 おはま」。

江ノ島で芝居の興行をやっている一座の看板役者が柏屋に・・・という「竹の章 菊次」。

去年、二年間のお勤めを終えたのに、また駆け込みにやって来て・・・という「石蕗の章 おゆう」。

柏屋の客の米屋の夫婦と夫の仲間の二人。ところが妻は離縁状を・・・という「落葉の章 珠江」

急病人の診察をした信次郎。しかし男子禁制の寺内にいるのに子を宿して・・・という「黄檗の章 おゆき」。

寿司職人の女房がなぜかその夫から東慶寺に行って二年間入ってきなさいと・・・という「蓼の章 おそめ」。

剣術道場の娘が道場破りをして勝手に父の道場を継いだ男に勝手に結婚させられて・・・という「藪椿の章 おゆう」

 

ホロリときてしまう人情話あり、笑ってしまう話もあり、まるで名人の小咄を聴いているよう。この時代の演芸に関わってる人の素養として落語や浪曲、講談などはあったはずですからそういう印象を持ちますよね。青島幸男さんの書く小説もそうですし。


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