晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

山本一力 『おたふく』

2017-04-26 | 日本人作家 や
ここ数年ですか、時代小説ばっかり読んでるせいか、
テレビのニュースなどを見てると、この季節なんかは
桜の映像が多いのですが、この前、隅田川が映った
ときに「あ、大川だ」と、昔の呼び名のほうが頭に
出てきてしまって、ちょいと、その、困ったものです。

さて、また時代小説。

時代は天明、寛政。西暦だと1780年から1800年
ぐらい。日本史的にいうと、このころのビッグニュース
といえば「天明の大飢饉」それから「寛政の改革」です
ね。

廻漕問屋の特撰堂は、各地の高級名産品を取り扱うお店。
主人は代々「太兵衛」を襲名するならわしで、この話
は五代目。

地方では餓死者も出るほどの飢饉だというのに、花の
お江戸では、老中、田沼意次の権勢は衰えず、賄賂が
横行しています。
そしてとうとう腐敗がマックス、田沼意次は老中を
辞め、その代わりに権力を掌握したのが、松平定信。

定信はさっそく「テメーらこれから贅沢禁止な」という
寛政の改革を行うことに。
そして、極め付きが、それまでの武士の借金をチャラに
しようという「棄捐令」。

この当時、武士の給金はお米で支給されていました。
よく旗本や御家人の家格を示すのに「○○石○人扶持」
というアレですね。
しかし、この米を当時流通してた貨幣に換金しなければ
ならず、この換金を承っていたのが「札差」と呼ばれる
人たちで、物価が値上がりしても武士の給料は変わらず、
それでも体面は重んじなければならない武士たちは、翌年
翌々年の支給米を担保に借金をすることに。

「武士に金を貸して金儲けするとはけしからん」とした
幕府は、およそ百万両の武士の借金をチャラにします。
それまで毎夜、散財していた札差たちはおとなしくな
ります。飲み食いしたり、高級なものを買ったり、
家を普請しなくなって、町に金が落ちてこなくなり、
江戸は一気に不景気になります。

じつは棄捐令で一番困ったのは、皮肉なことに武士だった
のです。というのも、借金は帳消しになったのですが、給料
は変わらず、結局また米を担保に借金をしなければならない
生活は続きますが、とうの札差が「棄捐令のせいでこちら
もキツイんすわ」と貸し渋りに出ます。

この不景気の波は諸国の高級品を扱う特撰堂にモロに
響きます。
そんな中、五代目主人の弟、祐治郎は独立することに。
とはいっても「のれん分け」するわけでもなく、やり
たいことも見つかりません。が、ある日、職人のための
仕出し弁当を思いつきます。職人は現場に出ると昼休憩
で近くに飯屋が無いと困ってしまうからです。

祐治郎は妻みのりの実家で深川の飯屋に赴き、職人が
食べやすい弁当の中身や値段設定などを相談し、そして
弁当屋「梅屋」がついに開業します。

はじめこそ大工職人に売っていたのですが、そのうち
町火消しにもこの弁当を作ることに。

ところが、この噂を聞いた川向う、つまり大川の東側
のよからぬ連中が「ビッグビジネスの予感」という
ことで「梅屋」の仕出し弁当システムをパクろうと・・・

有名な狂歌で
「白河の 清きに魚も 住みかねて もとの濁りの 田沼恋しき」
というものがありますが、白河というのは松平定信の領藩
である現在の福島県の白河藩で、田沼とは前の老中、意次。

金の流れはいわば人体の血液と同じで、滞れば具合が悪く
なりますが、平和な時代になっても何も生産しない武士
にはそれが理解できなかった、というわけですね。

池波正太郎さんの「剣客商売」では、秋山親子の親しい
存在として田沼意次が登場し、このシリーズの中では
汚職政治家ではなく「まっとうな政治家」として描かれて
います。

人間はそもそもアンバランスで成り立っていて、その人間が
作る社会にバランスを求めるから崩れてしまう。なるほど。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 山本兼一 『利休にたずねよ』 | トップ | 万城目学 『偉大なる、しゅ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

日本人作家 や」カテゴリの最新記事