晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

船山馨 『石狩平野』

2010-03-20 | 日本人作家 は
この作品は、吉永小百合主演の映画「北の零年」のベースになった
(公式には映画の原作とされてない)もので、明治初期に開拓移民
として北海道に渡った鶴代という女の子が、親子3人で貧しく過酷
な生活を送り、助け合い、時には冷たくもされ、結婚そして子供も
生まれ、時代的には明治末期の伊藤博文暗殺までを描いています。
そして『続・石狩平野』では、大正から昭和、太平洋戦争という激動
の時代とともに歩む鶴代と家族や友人たち、さらに、混沌と陰謀
渦巻くこの時代の政局を詳細に描いていて、いかにして日本が間
違った道を歩むことになったのかがよく分かります。

新潟から開拓移民として北海道に渡り、小樽に住む鶴代と両親。
その後小樽市ほぼ全域の大火により札幌へ移住、鶴代は役人一家の
もとへ奉公に出されます。奉公先の息子、次郎に惹かれるも、身分
違いの片思いと割り切ります。しかし娘の多佳子には見抜かれて
しまい、多佳子は奉公人の鶴代を可愛がり、次郎との恋の応援まで
してくれます。この多佳子とは、後年お互いお婆さんになるまで
鶴代と付き合い、よき相談相手となります。

とうとう一大決心をする鶴代。結婚はできない次郎と一夜の恋で
子供を身ごもります。
この時代は、父親不明で妊娠するなど人間の所業ではないといった
偏見があり、しかし、奉公を斡旋してくれたランプ屋の養子の壮太が、
鶴代との結婚を承諾。明子という女の子が産まれます。
その後、奉公先の役人の主人は時の政治の混迷の煽りを受けて、陰謀
により失脚、事業をしようとするも嵌められて、落ちぶれた挙句の犯罪
で逮捕されてしまいます。

それからは、これでもかというほど鶴代に苦労や悩みが襲いかかり、
次郎が洪水で亡くなり、両親も亡くなり、奉公を斡旋してくれた女将
の再婚相手に金をせびられ、明子は帰還兵に道端で犯され、不幸にも
妊娠してしまい、隠れるように産むも、鶴代が産んだことにします。
壮太との間にできた壮太郎という息子は難しい性格。

やがて時代は大正から昭和へ、軍国主義が日本を覆いはじめ、日露戦争
の勝利から大陸への進出、満州建国から日中戦争そして太平洋戦争へと
進んでゆきます。鶴代の家族も無関係ではなく、息子や孫を兵に取られ
、矛盾と欺瞞に憤り、列島じゅうが閉塞感に包まれます。
後半の『続・石狩平野』では、この大正・昭和史考察にかなり重きを
置いて書かれています。

「風と共に去りぬ」や「ジェーン・エア」といった、力強く生き抜く
女性を描く作品は数多くありますが、『石狩平野』はそれらに匹敵する、
男女関係なく、読む者に勇気を与えてくれる名作です。


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