晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

宮本輝 『彗星物語』

2010-07-19 | 日本人作家 ま
これで、書棚に残る未読の宮本輝作品は1冊となり、補充するか、
ひとまず間を置こうか考え中なのですが、いずれにしても、本気で
この作家の作品をコンプリートしたいと思ったのです。

大阪と神戸の中間に位置する、兵庫県伊丹市の北側に住む、城田一家。
主人の晋太郎、妻の敦子、長男の幸一、長女の真由美、次女の紀代美、
末っ子の恭太、晋太郎の父福造、そして、晋太郎の妹で、離婚して
(出戻り)のかたちとなっためぐみが、4人の子を連れて実家に帰って
きて、これで総勢12人。
さらに、この家には、フックというビーグル犬がいて、城田家の年長者
福造の座る定位置がお好みのようで、しょっちゅうポジション争い。

なんとそこに、晋太郎がかつて知り合ったハンガリー人の青年が日本の
大学に留学することになり、ただでさえ家計の苦しい中、その青年の身元
保証人となって城田家に住まわせ、さらに学費まで出すことになったのです。

しかし、それは父晋太郎が貿易会社を経営していて羽振りのよかった時に、
日本に行って勉強したいという夢を持つ青年に一肌脱ごうと思ったわけで、
晋太郎はその貿易会社を倒産させ、現在は知り合いの会社で肩身の狭い「窓際」
社員といった状態。

そんなこんなで、ハンガリー人ボラージュが城田家に来ることになり・・・

この作品は平成四(1992)年に刊行されたということで、すでに冷戦は終結、
89年にハンガリーは国外旅行の自由化を制定、オーストリア国境の鉄条網が撤去
され、大勢の東ドイツ人がハンガリー経由で西側に堂々と入国できることになった、
いわゆる「ヨーロピアン・ピクニック」があり、東西ドイツの壁も撤廃のきっかけ
となったわけですが、作品中でボラージュは母国ハンガリーの実情を嘆き、この先
50年も100年も変わらないのではないかと諦めていたりします。

国から正式に留学許可が下りたとはいえ、ボラージュは3年間という期間は絶対
に守らなければならず、それを過ぎれば強制帰国させられるので、日本語の勉強
でノイローゼ寸前にまで追い込まれます。
ボラージュはもともと語学の才能があるようで、みるみる日本語が上達、しかし、
それにより、互いの文化の違いや価値観の違いなどが表面化してきて、城田家と
ぶつかります。
加えて、家族間の問題も多くあり、家庭を一手に引き受ける敦子は静まるヒマも
ないほどで・・・

「NOと言えない日本人」という言葉はまさに日本人を表すのに適しているのですが、
しかしこれこそが日本人の美徳でもあり、逆に、自分が悪くても絶対に謝らないという
文化もあり、それはそれで見苦しくも感じます。
ところが、外国人との交流となると、自分の気持ち、特にしてほしくないことだったり
を我慢していると、相手のペースに流されるままになってしまい、言葉は悪いですが、
「いてもいなくてもどっちでもいい」立場にされてしまいます。

生まれ育った環境が違えば、考え方が違うのは当たり前の話で、人間に限ったことで
はなく、あらゆる種類の動物も、その環境に適した体つき、知能を持つことになって、
それが、「人間に近い」ことが利口かそうでないかの線引きとなるのは、人間側の
傲慢にほかなりません。

昔のイギリスの議会で、ある議員が「きみの意見には死ぬまで賛成しないが、きみの
意見は死ぬまで尊重する」という言葉を残したというエピソードがあります。
これこそが、真の国際化のカギとなる考え方なのではないか、と。

そんなことを考えさせられました。

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