晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

横山秀夫 『出口のない海』

2010-03-27 | 日本人作家 や
第二次大戦末期、日本の敗戦は濃厚だという中、愚かな大本営は
「最後の一人まで戦う」と、いわば国民に向かって「死ね」と命令
したも同然の、軍人が国を国民を守ることを放棄したわけで、それ
だけにとどまらず、戦闘機に片道だけの燃料しか入れずに敵の船に
当たって来いという命令を出す始末。
『出口のない海』では、海軍が考えた人間魚雷「回天」に乗ること
になった、大学で野球に青春を燃やしていた若者たちのうちのひとり
にまつわる話です。

大日本帝国は、昭和16年12月、アメリカのハワイに停泊中の戦艦を
急襲、大損害を与えて、これによりアメリカ・イギリスに宣戦布告。
当初は破竹の勢いで太平洋南方、インドシナを次々と攻め落としますが、
ミッドウェー海戦での敗北をきっかけに日本軍は連敗街道を進むことに
なります。
国内では未来ある若者が徴収されてゆき、大学生は徴収免除されていた
のですが、そうもいってはいられない状況で、ついに大学生も徴収され
ることに。いわゆる「学徒出陣」です。

A大学の野球部では、敵国のスポーツということで、試合ができなくなり、
寮の食事も満足なものは出せず、野球どころではありません。
そんな中、かつて甲子園を沸かせたピッチャー並木が肘のケガを克服、
魔球を考えたとキャッチャー剛原に告げます。
そんな魔球も完成する前に、とうとう大学生にも召集令状が届きます。

並木が海軍兵学校に入るとそこには、同じ大学の陸上部だった北という
男がいて、彼は一足先に軍に入り上官という立場。
北はオリンピックも狙えるほどの逸材でしたが、戦争でオリンピックが
中止となることで断念、北と並木は戦争や将来に対する思いをぶつけ合い、
そして、人間魚雷「回天」の訓練が始まり・・・

「回天」とは、人間ひとりがかろうじて入ることのできる小型の潜水艇で、
中に基本的な操縦システムがあるのみで、それで敵の船に当たって爆発
するというもの。
こんなことしか思いつかない時点で日本の負けは決定だったのですが、
その回天に乗ることになる若者たちは、故郷にいる家族や愛する人たち
を守るために敵の上陸を防ぐべく、訓練をするのです。

実話で映画にもなった「最後の早慶戦」という話があり、学徒出陣の
前に最後に野球がやりたいと、非公式で早稲田大学と慶応大学の野球部
が試合をします。大学側にかけあう学生たち、最後には熱意に負けて
了承する学長。その思い出を胸に戦地に赴く学生たち・・・
『出口のない海』では、最後の試合で、学生行きつけの喫茶店のマスター
が商店街の寄せ集めで野球チームを作って、そこと試合をします。
もはや勝ち負けなんて関係ありません。ただ白球を投げて打って、それ
だけでいいのです。

年なのでしょうかね、この手の話は涙腺崩壊してしまいます。

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