晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

宮本輝 『花の降る午後』

2010-09-18 | 日本人作家 ま
去年の終わりごろか今年のはじめごろに、はじめて宮本輝の本を
読んでから、たぶん最初に手にしたのは「優駿」だったと思うの
ですが、それから本屋へ行くたびに買うようになり、そして書棚
の1段は宮本輝の作品で埋まるまでになりました。

なにがそんなに面白いのかというと、やたらめったらリアリティを
出そうとして人間の汚い部分だったり、残酷な描写をしたりとする
のではなく、基本、宮本輝の本に登場する人物に、そんなに悪人は
出てきません。
じゃあだからといって不自然なのかというとそうではなく、そこは
筆の力で違和感を思わせないのです。それが「物語」なんだと。

『花の降る午後』は、神戸にある老舗のフランス料理レストランの
オーナー、典子という女性の話。
典子は、若くして癌で夫をなくし、籍を外して実家に戻ることも
考えたのですが、老齢の義母とは良好な関係だったし、そしてなに
より、亡夫の実家であうレストラン「アヴィニョン」が好きだった
こともあって、典子はオーナーとなり、飲食店の経営など素人だった
にもかかわらず、料理長や給仕長の指導や鞭撻で、夫の死後から四年、
なんとかオーナーとして“かたち”にはなってきました。

「アヴィニョン」に飾ってある一枚の絵――(白い家)というタイトル
のその絵は、夫の死期がせまったときに、夫婦で旅行へ出かけたさいに、
立ち寄った喫茶店に飾ってあったのです。
それを見て典子は気に入って、夫にせがんで購入。

この絵の作者を名乗る男から「アヴィニョン」に電話がかかってきます。
なんでも、個展を開きたいのだけれど、作品が少ないので、過去に売った
絵も展示したいとのことで、典子はしぶしぶ、1週間だけならと了承します。

すぐに、画家から電話が。絵を額からはずすと、「典子へ」という題の
手紙が絵の裏から出てきたというのです。その手紙の内容は、夫は典子と
出会う前の学生時代、交際していた女性との間に、ひょっとしたら子供が
できていたのではないか、死期も近くなってきたので、それが確信に変わ
ったのだ、というもので、典子はショックを受けます。

この後の物語の展開としては、未亡人の典子が売れない画家と恋に・・・
といきたいところですが、それはそれとして、「アヴィニョン」の周辺で
なにやらきな臭い動きが起こりはじめます。

得意客の女性とレストランの給仕が不倫をしているという噂が立ち、さらに
それを耳にした別の従業員が、なんとその得意客の夫に金を脅迫するという
事件が。はじめは、内輪もめ程度で収束すると思われていたのですが、その
背後には、「アヴィニョン」乗っ取り買収の計画があったのです・・・

「アヴィニョン」の隣の帽子屋さんでイギリス人のリードさんは典子のよき
相談相手なのですが、そのリードさん家族もこの不穏な計画に関わっている
ようで・・・

そして、神戸在住の華僑の大物が出てきたり、夫の家族の親戚とやらのチンピラ
まがいな男がでてきたり、不気味な謎の夫婦があらわれたり、そんな中、典子は
若い画家との逢瀬を・・・

話の本筋も、別筋もどちらも面白く、読み終わったときには、2本の短編を読んだ
ような気になりました。
「アヴィニョン」の料理長は、けっこう昔気質な人で、料理人たるもの、料理の
ことだけを考えずに、さまざまな娯楽や芸術などの良いものからインスパイア
されるべきで、若い後輩たちには常に本を読め、映画を見ろ、美術館へ行けと
いって煙たがられます。
じっさい料理長の言い分はその通りで、素晴らしい風景でも人口の芸術でも、
それに感化されたりすれば、そのときその人の立ってる位置は前とは違って、
見える景色も変わってるはずなのです。

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