晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

フレデリック・フォーサイス 『神の拳』

2010-09-15 | 海外作家 ハ
アフガニスタンで誘拐されていた日本人ジャーナリストが開放
されて、帰国しましたが、そのジャーナリストが、じつは犯行
グループは政府側なのではないか、やたらと「グループはタリバン
だと言え」と強制された、などと、なにやらきな臭い証言をされ
ていました。

2001年9月11日、同時多発テロから9年、頭のアレなアメリカ人
が、その日にイスラムの経典「コーラン」を燃やす、などといった愚行
を予告しました。

政府が腐敗しているのはなにもアラブ・イスラム諸国だけではありませ
んし、さらに、非道な犯罪は大小問わずどこでも起きます。
かんたんにアラブ人あるいはイスラム教を悪魔視することこそ、心に
悪魔が入り込んでいる人のなせる行為なのではないでしょうか。

『神の拳』は、1990年にイラクがクウェートに侵攻し、国連軍が
撤退させる「湾岸戦争」の史実をもとに書かれていて、しかしそこには
歴史の事実には書かれていなかった、イラクは大量破壊兵器をすでに
持っていたのでは・・・そして、なぜ湾岸戦争のさいに、サダム・フセイン
政権を崩壊させなかったのか・・・というフォーサイスの「隠し味」が
加わって、スリル満点の作品に仕上がっています。

ベルギーで、兵器(砲弾)開発の権威である博士が暗殺されます。
この博士は、イラクのロケット兵器開発の技術協力をしていて、
博士の暗殺された前後、ヨーロッパ各地で、イラクに向けてさまざま
な「製品」が輸出されていますが、はたしてそれが何に使われるかは
各国情報機関が調べても「ぴん」とはこなかったのです。

そして、イラクはサダム・フセイン大統領の命令により、産油割当量の問題、
、借金の棒引き、そして、「もともとクウェートはイラクの19番目の
州であった」という大義のもとに、侵攻をはじめます。
あっという間にクウェートはイラク軍の手に落ち、支配がはじまります。

当然、それを黙って見過ごすはずはないのがアメリカ、イギリス。
ただちに国連で平和維持軍の派遣を要請、イラクに、期限をもうけさせて、
クウェートから撤退しないと、こちらも本気で行くぞ、と。
しかし、米英両国は、サダムの真の狙いがよくわからず、また、むやみに
一般市民の犠牲も出したくなく、イギリス政府はアラブに精通する学者に
相談、そして、その学者の兄に、ある「任務」のためにクウェートに潜入
せよ、と白羽の矢が立てられました。

この兄とは、イギリス軍の特殊部隊に所属する少佐、マイク・マーチン。
マイクと弟テリー兄弟はイラク生まれで、幼いころからアラビア語を話し、
そして何より、兄マイクの「顔」は、肉親の血の影響でアラブ人の特徴が
色濃く出ていたのです。

多国籍軍はじわじわとサウジアラビアのクウェート国境に集結、軍備を
整えはじめている中、マイクは一人、クウェートに潜入するのです。

べドウィンという流浪民族に扮装し、クウェート人の富豪や若者を味方
につけ、小規模なレジスタンス運動をはじめます。

そのうち、イラクには「奥の手」があるのではないのか、フセインの余裕
はそれではないのかとの疑問が米英の情報機関または有識者による分析で
分かってきます。
そしてそれは、イラクが所有する「神の拳」という“何か”であるのです
が、一体「神の拳」とは何か・・・

ただちに、マイクはクウェートでの任務を終え、サウジアラビアに帰還、
すぐさま、こんどはイラクに潜入、「神の拳」とは何かを突き止めるべく、
かつてイスラエルがコンタクトしていたスパイで、イラクの政府高官、
あるいは軍部中枢と思われる「ジェリコ」から情報を得るために、バグダッド
へ向かうのですが・・・

この「ジェリコ」は、フセインの会議に出席できる十数名の、イラク政府内
のトップ中のトップで、内部情報はいずれも信用のおけるもので、中には
衝撃的な内容もあり、それと引き換えにアメリカのCIAは大金をオーストリア
のある銀行口座に振り込みます。
その口座から「ジェリコ」は何者なのか、イスラエルの諜報機関「モサド」は
調べようとして・・・

相変わらず、ハラハラドキドキ、衝撃のクライマックス、肉厚な物語構成、
登場人物の個性が際立ち、情景描写も素晴らしく、そして「湾岸戦争」という
じっさいの出来事に沿って進行していくので、リアル感が増します。

湾岸戦争の後、同時多発テロがあり、アメリカはアフガンと戦争、さらに
イラク戦争、ついにサダム・フセインは捕われます。
しかし、そもそもイラク戦争は「大量破壊兵器の保持」のためにアメリカは
戦争をしかけたのに、ふたを開けてみたら、大量破壊兵器は無かったのです。
「持ってるぞ」とはったりで脅しをかけるほうが悪い、査察を認めていれば
よかった、という意見もありますが、では戦争の大義とは何か。それによって
死んでいった兵士、一般市民は何のために命を落としたのか。

終章に書かれた、フォーサイスの言葉が胸をうちます。


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