Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

BOSS & 角

2009-09-30 23:33:14 | Weblog
昨夜は MBF で,サントリー全社の広告宣伝を統括する久保田部長のお話を伺う。サントリーの持つ,いくつもの「定番ブランド」から,17年の歴史を持つ缶コーヒーの「BOSS」と71年の歴史を持つウイスキー「角」について,これまでの主要な CM を見ながら,広告戦略をレビューしていただく。試行錯誤しながらも強固な地位を築いていった BOSS と,黄金時代と低迷時代を経験し,いま再生を目指す角。マーケターとして面白くないはずがない。

BOSS のコンセプトは「働く男の相棒コーヒー」。これは初期の矢沢永吉を起用したCMから,最近の「宇宙人ジョーンズ」まで,さまざまにテーマやトーンを変えながらも,基本的に変わっていない。また,ユーモアを用いて強い表現上のインパクトを生み出すという点も一貫している。したがって,GRP に比した広告認知度は,つねに業界平均を上回ってきた。日本の広告クリエティブをリードしてきたサントリーの強さを示す,典型的な事例といえる。

一方,栄光の時代からどん底に落ち,苦難の道を歩んできたのがウイスキー,その代表格である「角」である。開高健や山口瞳が登場する,いわばサントリーウイスキー黄金時代の CM は,フォーラムに参加していた中高年をおおいに懐かしがらせた。個人的には,三宅一生や井上陽水が登場する80年代前半の CM が思い出深い。当時,角に限らずサントリーウイスキーの CMが紡ぎ出すイメージが,何がしか人生のロールモデルになっていた気がする。

しかし,1984年をピークに,国産ウイスキー市場は坂道を転がるように縮小してしまう。酒税改正があった 1989 年,角は一時的に売上を伸ばすが,その後売上は低下する。こうした劇的で非連続な変化は,それに直面したマーケターの方々には申し訳ないが,マーケティングの研究対象として,非常に面白いのである。この市場は衰退期へと向かう,と切り捨てることなく,サントリーは30代をターゲットにした「ハイボール」キャンペーンを開始する。

SAYURI(石川さゆり)の「ウイスキーは,お好きでしょ」という懐かしい CM ソングと,年上とおぼしき男性に小雪が甘えてる映像に,中年男たちは秒殺される(・・・私のことです)。しかし,ターゲットはあくまで30代だということから,同じ歌をゴスペラーズに歌わせ,30代の男性たちがバーテンダー小雪を囲むという設定に進化する。他のさまざまな施策も練られているが,コアにエモーショナルなイメージがどんとあるのがさすがである。

では,ハイボールは売れるのだろうか(少なくともぼくたちは,この日二次会に「響」に行ってハイボールを飲みまくった)。角は復活するだろうか。ウイスキー市場は再び上向くのか。そんなことは,誰にもわからない。しかし,ウイスキーを愛する人々がいて,顧客のインサイトを探りながら,懸命に自分たちの愛するものを顧客にも愛してもらおうと努力している。そこに立脚して,マーケティングの「科学」の可能性について考える必要がある。

最後に,ハイボールを飲みながら,久保田さんの「さらに深い」話を聞いて感じたことを少し。ぼく(ら)はつい,「黄金時代」のサントリーの CM を懐かしみ,あの夢をもう一度,と思いがちだ。だが,ウイスキー市場がその後,劇的に縮小したことを考えると,もはや市場の生態系がすっかり変わったと認識したほうがよい。そこには,消費者とメディアとの関わりも含まれる。それ次第で,クリエイティブ戦略のあり方も大きく変わる。

さらに個人的なことをいえば,「クリエイティブ・マーケティング」におけるマスメディアの位置づけを,より「クリエイティブ」に考えなくてはならない,ということ。
  

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