Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

(続き)MSC at Cologne メモ

2010-06-22 10:37:18 | Weblog
前のエントリの補足として,INFORMS Marketing Science Conference で印象深かった発表をメモしておく。振り返ると,初日の朝一に聴講したセッションが最も充実していたかもしれない。長老の一人,Don Lehman の司会のもと,User Generated Content: Word-of-Mouth というタイトルで以下の3件の発表があった:
Jonah Berger, Eric Schwartz: What Do People Talk About and Why? How Product and Buzzmarketing Campaign Characteristics Drive Word-of-Mouth

Andrew Stephen, Yaniv Dover, Jacob Goldenberg: Comparing the Roles of Connectivity and Activity in Driving Information Diffusion in Online Social Networks

William Rand, Wei Guo, Wolfgang Jank: Using Agent-Based Models and Functional Data Analysis to Understand Auction Behavior
最初の報告は,クチコミマーケティングの事例を300件ほど分析して,どういうときにクチコミが起きやすいかを探っている。消費者行動(CB)的な仮説が検証される。2番目は,正統的なデータ解析とエージェントベース・モデリング(ABM)を併用した研究。データと直接結びつけるのでなく,データ解析→ABM→さらなるデータ解析,という段階的接近法は参考になる。一方,最後の研究は,関数主成分分析(functional PCA)で縮約したうえでデータへのフィットを検証する方法を提案する。

実はこのセッションでは,Lehman による"Complexity in Marketing: Future Theoretical and Methodological Directions, New Questions Worth Answering, and an Application to Research on Disadoption"という発表も予定されていたが,キャンセルされた(本人は司会をしていたので,分析が間に合わなかったということだろうか)。多様な研究者との共著論文があり,マーケティングサイエンス界のケビン・ベーコンといわれる人なので,どんな話か興味があったのだが・・・。一方,ABM へのマーケティングの適用として,以下のような発表があった。
Sebastiano A. Delre: Micro Consumer Decisions and Macro Diffusion Patterns: Using Indirect Inference to Validate Agent-based Models
この研究では,ABM を用いた普及モデルである Delre-Jager-Janseen,Toubia-Goldenberg-Garcia, Watts-Dodds の3モデルと正統派 Bass モデルがどれほど実データに適合するかが比較される。マクロな挙動に合うパラメタ設定を indirect inference と呼んでいる。ぼく自身の発表(Dynamic Interactions Between WOM and Preference Formation: A Case of Diffusion of a Really New Product)もその点では同じである。

今回 ABM を用いた発表は,北中さんたちのものを含め,あと数件あったようだが聞き逃した。以前に比べて,増えているという感じはない。ただ,上の Stephen のように,1つのパーツとして使い,タイトルやアブストラクトにそれがワードとして出てこない例もあったかもしれない。社会的影響,クチコミといった話に飽きてきて,ふと CB のセッションに入ってみた。いくつか選択の文脈効果に関する発表があったからである。
Subimal Chatterjee, Ashwin Malshe, Rajat Roy: The Role of Regulatory Fit on the Attraction Effect

Nico Neumann, Ashish Sinha: Extremeness Aversion: A Critical Review and Research Agenda
regulatory fit とか regulatory focus といった用語を最近よく聞く。それで魅力効果(囮効果)がよく説明されるという。実証分析では,CB では珍しく階層ベイズ法を用いている。その点に質問があったとき,それは(その場にいない)共著者の院生に聞いてくれという率直な返答。オーバーアクションのプレゼンが疲れを癒してくれた。さらに刺激を求めて,マルチチャネルのセッションに行く。
Venky Shankar, Tarun Kushwaha: Are Cross-channel Effects Complementary or Competitive? An Empirical Analysis

Sara Valentini, Elisa Montaguti, Scott A. Neslin: The Impact of Customer Multichannel Choices on Revenues and Retention

Sonja Gensle, Martin Boehm, Peter Leeflang, Bernd Skiera: Influence of Online Channel Use on Customer-based Metrics and Consequences for Customer Channel Migration Strategies

Umut Konus, Scott A. Neslin, Peter Verhoef: The Effect of Channel Elimination on Customer Behavior: Transition from Catalog Retailers to E-tailers
最初はベクトル自己回帰を使って,チャネル間の補完的 vs. 競争的関係を推定している。2番目は2段階の選択モデルで tobit。3番目は消費者の評価の選択バイスを除去するためにマッチング(傾向スコア法の一種のそれだろう)。4番目が面白くて,通販会社が顧客を無作為抽出して紙のカタログを廃止した場合の分析。この場合,メディアの有無は外生的なので,バイアス云々の話は出ない。

最終日は気を取り直して「社会ネットワーク」というセッションに行く。だが,その内容は,このことばから一般に想像されるものとは大きく違う。
Zsolt Katona, Endogenous Homophily in Social Networks

Christophe Van den Bulte: Tricked by Truncation: Another Source of Spurious Social Contagion in New Product Adoption

Olivier Toubia, Andrew Stephen: Why are People using Twitter?
最初の発表は,人々の間の類同性(homophily)と選好の同時決定関係を扱うためにゲーム論的な均衡分析を行なう。2番目は,普及モデル研究の若手第一人者による,打ち切りデータがもたらすバイアスに関する研究。あまりの高速ぶりについていけない。3番目は,幅広い分野で活躍する若手の星が,Twitter を用いる動機を「動的離散選択モデル」で分析する。動的計画法などが登場し,最近の計量経済学の発展を踏まえているものと想像される。こういった研究が,よくも悪くも?マーケティングサイエンスの「最先端」なのだ。

最後に,前回のエントリでも触れた,マーケティングサイエンス発祥の地ともいえる MIT の大物たちの話を聴いた。最終日の最後の時間なのに,人が集まっている。前日のパーティで「神」と呼ばれていた John Little の姿もある。
John R. Hauser, Guilherme (Gui) Liberali, Glen L. Urban: Do Competitive Test Drives and Product Brochures Improve Sales?

Glen L. Urban: Developing Consideration Rules for Durable Goods Markets
Hauser の報告は,GM の車の品質が高いことを示すレポートがいくら発表されても,米国の消費者は信じなかった。ところが,競合車も含めて試乗させると,評価がちゃんと上がったというもの。オチは,それがわかったとき GM はすでに破綻していた・・・というもの。高度な手法は登場しないが,マーケティング的に面白い話だ。天下の Hauser のみに許された発表だったもしれない。Urban の話も然り。非補償型選好の話は,以前に比べかなり減っている印象。だが,彼らがいまそれを実務的応用に使っていることが注目される。

最後に,各発表の概要はこのページから検索できる。

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