Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

「激震マスメディア」を見て思ったこと

2010-03-24 09:41:11 | Weblog
月曜の夜にNHKで放映された「激震マスメディア」は,同時並行的に Twitter で盛り上がり(もっともぼくのフォローしている特殊な範囲?),Ustream で「5賢人」によるツッコミが中継されたり,少なくともネットユーザの間では盛り上がりを見せた。全体の印象は,WWW.さとなお.comのコメントに尽きている。つまり,マスメディアを代表する,功成り名を遂げた出演者に対してどうしても感じてしまう残念な感じ。さとなお氏のことばを借りれば,
嗚呼、がんばって成功体験を積み重ねれば積み重ねるほど、過去の成功にがんじがらめになって時代に遅れていくのだなぁ。変化に対応できなくなるのだなぁ。成功体験をどんどん捨てて、次々転身(転進)していくことが必要なのだなぁ。そうでないと知らず知らずに老害的になっていくのだなぁ。とか、テレビを見ながらしみじみ考えてしまった。
・・・なんてことを,広告会社のふつうの社員は書けないよなぁ,とつまらないことをつい考えてしまう。

この番組では,討論に先立って日米のメディア最新事情がいろいろと紹介される。岡田外相の記者会見にニコ動の中継が入っていることが紹介されたが,その前提として記者会見がフルオープンとされたことに触れていたのは,それなりに評価していいのではないか(記者クラブ問題に言及していなかったとしても)。日本のネットジャーナリズムは未熟だという議論がある一方,「ダダ漏れ」的な新しい報道はむしろネットの新たな可能性を示している。

ドワンゴの川上会長が語っていたように,こうした中継を見た人々は,実際に現場で起きていることと新聞記事やテレビニュースで報じられていることの違いに気づくことになる。これまでメディアが一方的に,かつ特定の方向で与えていた解釈に疑問が生じてくる。ネット上にはもっと多様な(玉石混淆の)解釈が流布している。自分もまた,独自の解釈を流布することができる。そうなると,メディアに期待するのは素材としての情報だけになる。

たとえば「激動マスメディア」という番組にしても,メディアの最前線で何が起きているかだけ紹介してくれれば,あとはこちらで考えるので十分だという気がしないでもない。もちろん,多様な有識者から異なる見方を聞くことは有益だが,それならむしろ少数精鋭の論客で討論してもらいたい。順繰りに各自の立場を述べて終わり,というパタンは学会のパネルディスカッションなどでもよくあるが,議論を通じて化学変化が起きることはまずない。

どんな問題にも通じている人はいないので,何がしか他人の解釈に依存せざるを得ない。この点はこれからも変わらない。しかし,これまではせいぜい朝日新聞と読売新聞の論調の違いの範囲で解釈を選ぶしかなかったのが,これからはもっと多様で個性的な解釈を選べるようになる。これらを自由に組み合わせて,自分の見解を形成していく。よくいわれるように編集権・編成権が人々の側に移りつつあるということだ。それは市場化といってもよい。

実際,自分が取材を受けた経験のある人は,自分の意図とはいかに違う内容のものが記事になるかを知っている。自分の専門分野について,メディアでいかに誤った報道がされているか気づいている人も多いはずだ。だが,自分がよく知らない分野となると,報道をそのまま信じてしまう。しかし,前述の自分の経験と照らせば,報道の信憑性についてもっと批判的な態度になっていいはずだ。そうならないのは,人間は基本的に信じやすい存在だからなのか・・・。

では,これからは各分野の専門家たちの意見を直接収集して,各自がそれを編集していけばよいかというと,そう単純な話にはならない。同じイシューについて専門家間で意見が分かれることはよくあることだ。専門をわかりやすく解説できる専門家が増えているといっても限度はある。専門バカはやはり存在する。したがって,ジャーナリストの存在意義があることは事実なのだが,問題は,彼らが従来型のメディア組織に編成されている必要があるかだろう。

番組の冒頭,ジャーナリストの佐々木俊尚氏は,メディアの「激震」は結局のところ,需給の変化によって起きたのだと指摘した。つまり,「市場」がすべて決めるといってよい。また,社会学者の遠藤薫氏は,政権交代のあとに「メディア交代」が起きていると述べていた。その背景には「民意」がある。消費者にできることは,ただし,提供された代替案のなかから,何かを選ぶことだけしかない。それを生み出すイノベーションは,試行錯誤からしか生まれてこない。

だから,いまの段階で,これからのメディアの生態系を予測することは誰にもできない。いま,多くの人々が競いながらそれを作っているところであり,そのあと消費者がどういう選択を示すかは,そのときにならないとわからないだろう。

いずれにしても,放送より3日も経ってブログに感想を書くのは,インターネット時間的にはあり得ないことかもしれないなぁ・・・

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