Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

REITI政策シンポジウム@如水会館

2009-03-05 22:48:37 | Weblog
今日は,THIC & APFA7 の関連行事である,REITI政策シンポジウム「大規模業務データから何を学ぶか―経済学と物理学の統合アプローチ」を聴講した。東工大でのイベントはまさに「学会」だったが,今日のはいかにも官庁のセミナーで,先頭の何列かは関係者のためにブロックされている(・・・が空席が多い)。縦長の会場で,その割にはスクリーンが小さいため,聴衆は前から詰めて座っている(大学の教室とは大違いだ)。

最初に一橋大学の渡辺努氏が,昔の計量経済学では考えられなかった,ミクロな業務データを研究に使うようになっている現状を紹介された。金融における分単位の電子取引データはもちろんのこと,物価の研究に価格.comや週刊住宅情報の価格データ,さらには日経のPOSデータを使っているとのこと。どれも「本来なら」マーケティング研究者が取り組むべき領域なのに,経済学者や物理学者が参入してきたということだ。

キーノートスピーチの目玉は,スケールフリー・ネットワークの発見者である Albert-László Barabási だろう。ランダム・ネットワークの紹介から始まり,スモールワールド・ネットワークは飛ばしてスケールフリー・ネットワークの研究を概観し,国際貿易のネットワーク分析へと話が進む。BAモデルを宇宙空間を連想させる3次元CGで示すなど,プレゼンテーションの技術が素晴らしい(そこだけ真似てもしかたないが)。

ついで,Didier Sornette氏。本来は金融を対象とした経済物理学者の方のようだが,今回の講演では YouTube の画像閲覧データの分析を中心に,さまざまな研究を報告。外生的ショックと内生的ショックを区別した分析手法は,広告効果の検証にも使えるということだが,類似の手法は従来の時系列分析にもあったと思われる。それを上回るものなのか,中身がよくわからなかった分だけ,どんなアプローチなのか興味がわく。

東工大の高安美佐子氏は「マーケティングにみられる人間の行動」というテーマで自らの研究を紹介される。スーパーのPOSデータを分析したところ,売上数量の変化が,価格変動のベキ乗になることがわかったという。つまり,値引きに対して需要がかなり鋭敏に反応するということだ。また,電通バズリサーチのクチコミ・データを用いた,ことばを対象とした経済物理学的分析の結果も紹介された。研究は継続中とのこと。

パネルディスカッションでは,東工大の出口弘氏,内閣府経済社会総合研究所の岩田一政氏から,今後の公的統計について興味深い話を聞くことができた。企業の財務会計データや病院のレセプトデータ,小売店鋪のPOSデータなどがそのまま吸い上げられて,公的統計を形成するような仕組みの構築が進んでいるらしい。それと同時に,各省庁のデータがセンターに集められ,個票データの研究利用が容易になる時代が来ると。

民間の立場から,データの公開が個人の顧客に利益を損なう可能性が,マネックス・グループの総帥,松本大氏から表明された。経済危機の今後についての,松本氏の発言も興味深かった。トレーダーとしての経験を踏まえ,松本氏は市場参加者の「気持ち」の重要性を指摘する。彼らは従来の経済学者が考えるほど合理的ではないが,物理学者が考えるほど単純ではない。それなりのロジックで「思考」する存在なのだ。

大規模データは研究者にとって垂涎の的だという気持ちはよくわかる。ただ,20年前,POSデータによってマーケティング情報革命が起きる,といわれていた頃をつい思い出してしまう。確かにPOSデータは業務上大きな革新をもたらしたが,研究上はどうなのか。確かに多くの論文が生まれたし,ぼくもささやかながらその恩恵を被ってきた。だが,手法の発展に比べ,消費者行動の理解はどれだけ深まっただろうか?

何かが欠けていた。そのヒントは,松本大氏の一言にあった気がする。
 

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。