昨日は JIMS 部会を明大駿河台キャンパスで行った。講師としてお招きしたのは,産総研・サービス工学研究センターの本村陽一氏,宮下和雄氏のお二人である。まず本村さんから「コミュニティ参加型サービス工学の実践:気仙沼~絆~プロジェクト」の発表があった。
本村さんはこれまで,大規模データにベイジアンネット等のモデリングを施し,リコメンデーションなどの応用を図るという研究と実践を積み重ねてこられた。これを東日本大震災の被災地復興に活用するためには,まずは,データを収集するところから始めなくてはならない。
いうまでもなく被災地にデータが自然に集まる仕組みがあるわけではない。産総研が気仙沼に設置したトレラーハウスを拠点に,地元コミュニティに入り,交流を深めながら iPad を使ったライフログ情報の収集が始められている。コミュニティ参加型アプローチと呼ぶ所以である。
これらを使ってどんなサービスを実現するかが最初に定まっているというより,現場に飛び込み,そこで人々と交流しながら作っていく。こういうアプローチは「社会実証」ではなく「社会実装」であると本村さんはいう。一般的にはアクションリサーチという言い方もできる。
被災地では何もしないと事態が悪化していく。そこでダイナミクスに目を向けることが平時のサービス工学以上に重要になるという。それは,モデリングに時間変化を入れるというだけでなく,コミュニティ参加型アプローチ自体のダイナミクスを保証するということでもあるだろう。
宮下さんのご発表は「新たな水産物取引市場の創出をめざして」というものだが,これもまさに優れた社会実装の見本であった。日本の水産業は衰退の一途をたどっているが,世界的には水産物市場は急成長している。このギャップを埋めることが,このプロジェクトの課題である。
日本の水産物市場は青果市場以上に複雑な形態をとっている。それには歴史的事情があるにせよ,このままでは生産者も流通業者も皆が低収益に甘んじることになる。いずれの関係者にとっても現状以上に利益が得られるようなマーケットメカニズムの設計を宮下さんは目指している。
マーケットデザイン,メカニズムデザインと呼ばれる経済学の分野では理論研究が進んでいるが,そのままでは複雑な現実に適用できない。そのために宮下さんは理論的に解けない部分をヒューリスティクスに置き換え,その妥当性をエージェントシミュレーションや被験者実験で検証する。
そしてこのシステムの実証実験を被災地の漁業者とともに実施されようとしている。それが成功し,この技術が普及すれば,被災や風評被害に苦しむ東北地方の水産業を始め,日本の水産業の復活に貢献する。広義の社会科学が産業の振興に役だった例として歴史に名を残すことになろう。
マーケティングサイエンスとはマーケティングの現場で有用な知識を目指すものであり,アクションリサーチとしての性質を持つ。実際,企業と共同研究したり,コンサルティングをしたりしている研究者は少なくない。次の課題は,よりソーシャルな視点に立った実践であろう。
新たに興隆してきた「マーケットデザイン」とマーケティングサイエンスの関係についても考える価値がある。経済学では価格やインセンティブに目を向け,マーケティングでは製品差別化やコミュニケーションに目を向けがちである。両者に実りある対話・協業が可能かどうか。
いずれにしろ,いろいろ大きな宿題をいただいた,刺激の多いセミナーだった。そのあと講師をお招きして行ったお茶の水界隈での懇親会がそれをより印象づけた。そろそろ次回のスピーカーを手配しなくては・・・。
本村さんはこれまで,大規模データにベイジアンネット等のモデリングを施し,リコメンデーションなどの応用を図るという研究と実践を積み重ねてこられた。これを東日本大震災の被災地復興に活用するためには,まずは,データを収集するところから始めなくてはならない。
いうまでもなく被災地にデータが自然に集まる仕組みがあるわけではない。産総研が気仙沼に設置したトレラーハウスを拠点に,地元コミュニティに入り,交流を深めながら iPad を使ったライフログ情報の収集が始められている。コミュニティ参加型アプローチと呼ぶ所以である。
これらを使ってどんなサービスを実現するかが最初に定まっているというより,現場に飛び込み,そこで人々と交流しながら作っていく。こういうアプローチは「社会実証」ではなく「社会実装」であると本村さんはいう。一般的にはアクションリサーチという言い方もできる。
被災地では何もしないと事態が悪化していく。そこでダイナミクスに目を向けることが平時のサービス工学以上に重要になるという。それは,モデリングに時間変化を入れるというだけでなく,コミュニティ参加型アプローチ自体のダイナミクスを保証するということでもあるだろう。
宮下さんのご発表は「新たな水産物取引市場の創出をめざして」というものだが,これもまさに優れた社会実装の見本であった。日本の水産業は衰退の一途をたどっているが,世界的には水産物市場は急成長している。このギャップを埋めることが,このプロジェクトの課題である。
日本の水産物市場は青果市場以上に複雑な形態をとっている。それには歴史的事情があるにせよ,このままでは生産者も流通業者も皆が低収益に甘んじることになる。いずれの関係者にとっても現状以上に利益が得られるようなマーケットメカニズムの設計を宮下さんは目指している。
マーケットデザイン,メカニズムデザインと呼ばれる経済学の分野では理論研究が進んでいるが,そのままでは複雑な現実に適用できない。そのために宮下さんは理論的に解けない部分をヒューリスティクスに置き換え,その妥当性をエージェントシミュレーションや被験者実験で検証する。
そしてこのシステムの実証実験を被災地の漁業者とともに実施されようとしている。それが成功し,この技術が普及すれば,被災や風評被害に苦しむ東北地方の水産業を始め,日本の水産業の復活に貢献する。広義の社会科学が産業の振興に役だった例として歴史に名を残すことになろう。
マーケティングサイエンスとはマーケティングの現場で有用な知識を目指すものであり,アクションリサーチとしての性質を持つ。実際,企業と共同研究したり,コンサルティングをしたりしている研究者は少なくない。次の課題は,よりソーシャルな視点に立った実践であろう。
新たに興隆してきた「マーケットデザイン」とマーケティングサイエンスの関係についても考える価値がある。経済学では価格やインセンティブに目を向け,マーケティングでは製品差別化やコミュニケーションに目を向けがちである。両者に実りある対話・協業が可能かどうか。
いずれにしろ,いろいろ大きな宿題をいただいた,刺激の多いセミナーだった。そのあと講師をお招きして行ったお茶の水界隈での懇親会がそれをより印象づけた。そろそろ次回のスピーカーを手配しなくては・・・。