Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

進化ゲームはマーケティングに使えるか

2010-03-30 17:29:12 | Weblog
昨日の午後,田町のキャンパス・イノベーションセンター東京で開かれた「知識ベースシステム研究会」(SIG-KBS) を聴講。進化ゲーム理論の研究動向を学ぶ。ぼくが聴講した発表は以下の4つである:

吉川満 (明治大学): 実証分析のための進化ゲーム理論
岩田学,秋山英三 (筑波大学): 異なる戦略が混在する集団における,相手の協力度を考慮する戦略の進化
米納弘渡,秋山英三 (筑波大学): マルチレベル選択モデルにおける集団の分裂条件の変化による影響
大浦宏邦 (帝京大学): 弱い集団選択によるサンクションの進化

最後の発表は招待講演である。進化ゲーム理論に関して以下の本格的なテキストを著された方だ:

社会科学者のための進化ゲーム理論―基礎から応用まで,
大浦 宏邦,
勁草書房


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さて,進化ゲーム理論は社会において協力行動が生じるのはなぜかを,個人に強い合理性を仮定することなく説明してきた。では,マーケティングや消費者行動にも適用できるだろうか。協力とか社会秩序の形成という点では,企業行動への適用が考えられる。ただ,多くの市場は寡占的なので,従来の進化ゲーム理論の設定があてはまるかどうか。ファッションのような同調行動はどうだろう。そこに裏切りへの誘惑のような,社会ジレンマを起こす利得構造があるだろうか。そう考えると,進化ゲームの既存モデルをほとんどそのまま転用すればよい,というわけではなさそうだ。

進化論的な論理に適しているのは,長期にわたって安定的に観察される行動パタンである。そこで,以前ルディー和子さんの新著『売り方は類人猿が知っている』に対するコメントで書いたように,個々の消費者行動の根底に潜む認知バイアスや感情の分析に進化ゲームを使うのが有望だと思う。消費者の行動パタンに進化心理学的な解釈を試みることは,しばしばよくできた寓話で終わっている。進化ゲームを適用することで,少しは厳密性が増すだろう。それは単に研究として面白い以上に,実務家に洞察を与える研究になるだろうか。意外とその可能性はあると推測している。

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