Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

広告業界のピカレスク

2018-12-19 11:42:17 | Weblog
鷹匠裕『帝王の誤算』は、広告業界に君臨したある剛腕経営者を描いたビジネスノベルである。この業界に多少知識があれば、登場する企業はもちろん主要な登場人物についても、あの人か…という推測ができるはず。背景として描かれる業界の出来事もほぼ事実に沿っていると思う。

帝王の誤算
小説 世界最大の広告代理店を創った男
鷹匠 裕
KADOKAWA

この小説が主に扱う1980年代から2000年初頭の時期は、私もまたこの業界の末端にいた。したがって、バブルの絶頂期、夜の六本木でタクシーを拾うべく走り回る広告会社の若手社員の描写には懐かしさを感じる。もっともこの小説の主な舞台、役員たちの世界は想像の外にある。

最大手代理店の頂点に登りつめる主人公は、私が垣間見たこの業界のやり手たちを遥かに凌ぐモンスターである。だが(彼に敵とされない限り)憎めない面もある。広告会社で活躍してきた著者からは両義的な気持ちが汲み取れる。業界に身を置いた人の多くはそうではないかと思う。

主人公が尊敬する先達が提唱した「鬼十則」、最近は不興を買いつつも不思議な魅力を放つ。そう思うのは、やはり自分が生きてきた時代と、そこに適応した嗜好のせいかもしれない。主人公はこの小説のタイトルが暗示する結末を迎えるし、広告業界も新たな価値を模索している。

そういう時期にあって、本書は広告の全盛時代を懐かしむ世代だけでなく、現役の広告業界の人々にも読まれている(汐留の書店では売上1位になったという)。私は著者との縁もあって読み始めたが、ぐんぐん引き込まれて一気に読み終えることができた。羨むべき筆力である。

では、現代の若者は、本書に描かれた「悪漢」たちが活躍した広告会社の黄金時代をどう感じるだろうか。鬼十則的な働き方の価値観は、広告業界に限られる話ではない。その意味で、これから就職を迎える学生たちにも一読を勧めたい。本書は Kindle 他電子書籍でも購入できる。
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