Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

内閣支持率のダイナミクス

2010-03-15 22:11:15 | Weblog
surveyml の管理人・萩原雅之氏の昨日のつぶやきでも引用されていた「鳩山内閣:支持率続落43%…不支持が逆転 本社世論調査」に掲載されたグラフが大変興味深い。そこには,細川,小泉,安倍,福田,鳩山の各内閣で,発足後6ヶ月に内閣支持率(毎日新聞社の世論調査)がどう推移したかが描かれている。それを眺めることで,次のような傾向を読み取ることができる:
1)小泉内閣を除き,最初の6ヶ月に,最初は高い内閣支持率が急激に下落していく。
2)この下落はある水準で底を打つ(ゼロになることはない)。
こうした非線形の変化で思いつくのが,指数曲線のあてはめだ。マーケティングサイエンスでは,映画の観客動員数の時間的推移や,製品の購買間隔のモデル化に使われることがある。初期の支持者がいずれ不支持に回る確率は政権発足後に最も高く,その後逓減していくとしたら,このモデルがあてはまる(細かく見ると初期の低下は直線的なので,微妙に違う感じもするが・・・)。
3)内閣支持率の初期値は,小泉~麻生内閣に至る過程で段階的に低下した。
4)鳩山内閣で初期値は再び上昇したが,下落の傾きはほぼ同じである。
鳩山内閣の支持率が一定の下限を持つ指数曲線にしたがうとして,その下限がどこかはまだ見えていない。なぜなら,支持率の動きに下げ止まり感が見られないからだ。毎日新聞社の世論調査の数字を見る限り,現段階では,安倍~麻生内閣の政権発足6ヶ月後の水準よりは上である。ただし,それに近づいているのは確かで,決して安泰な状態ではない。

数ヶ月間支持率が低落したのに,急に再上昇したのが細川内閣である。これは,与野党が合意して選挙制度内閣を成し遂げたからである。だが,まもなく細川首相は辞任する。1つの背景に,高くなった支持率を背景に唐突に国民福祉税構想を打ち出すなどして,連立にヒビが入ったことが指摘されている。支持率が上がれば何でもうまくいくわけではないのが政治の恐ろしいところだ。

さて,このグラフを見て驚くのが,小泉内閣の支持率が最初の半年,80% 台で高止まりしていることだ。これは最近にないことだが,このグラフの時間軸をあと数ヶ月先に延ばすと,話は変わる。田中眞紀子外相の解任を機に,小泉内閣の支持率は一気に低下する。このあたりのデータを,本来は同じ毎日の調査で見るべきだが,ネットでは時事通信社の世論調査しか見つからなかった。
時事世論調査に見る小泉内閣の特徴
毎日の数字と少し違うが,最初の半年間で 70% 前後の水準にあった支持率が,40% になる。その後,小泉首相が北朝鮮を電撃訪問するなど,サプライズによって一時的に支持率を浮揚させたが,それでもせいぜい 50% どまり。放っておくと 40% あたりに低下する。こうした状態が続いたあと,2005年の郵政選挙で大勝するが,それでも内閣支持率は数ヶ月間 50% を超えただけであった。
最近の時事世論調査における・・・内閣支持率
つまり,長期政権となった小泉内閣にしても,支持率は基本的に 40~50% に留まっていた。もちろんこれが容易でないことは,他の多くの政権の事例が示している。どこまで意図されたことかわからないが,北朝鮮訪問,郵政民営化といった切り札を,適切なタイミングで切ってきた。それによって支持率を少し回復させることで,長期間安定した支持率を維持できたのだろう。

これは,パルシング(pulsing)といわれる広告出稿パタンと似ている。つまり,コンスタントに刺激するのではなく,間欠的に刺激することで,効果を一定の水準に保つという考え方だ。鳩山政権の場合,発足早々あまりに多くのことに着手しすぎたかもしれない。過大な期待は失望に変わりやすい。つまり,期待のマネジメントに失敗したといえなくないか・・・。

期待と失望,緊張とやすらぎを適切に交錯させる技術は,音楽にもドラマにもあるはずだ。オペラを愛するという小泉元首相は,それを自然と身につけていたのかもしれない。蛇足だが「小泉劇場」が成功した背景に,それに相応しい「異形の」出演者たちの存在があったことも見逃せない。以下のルポルタージュに描かれた小泉純一郎氏を取り巻く人々,特に飯島秘書官の物語は凄まじい。

小泉政権―非情の歳月 (文春文庫),
佐野 眞一,
文藝春秋,


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