Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

「茶坊主」の組織論

2009-10-22 21:08:07 | Weblog
山崎元氏が DIAMOND online でまたまた興味深い論考を披露されている:

ミスター年金・長妻厚労相の苦悩をどう解決すべきか

民主党の掲げたマニフェストの多くが厚生労働省マターであり,世論調査でも最も期待されているのが,長妻厚労相なのだが,官僚の抵抗のみならず官邸の妨害もあって大変だと山崎氏は見ている。民間企業にたとえると,
長妻氏は、敵対的買収で獲得した子会社に社長として送り込まれて経営を任されたような立場だが、親会社の役員達に意地悪をされて仕事の邪魔をされているような状態に見える。民主党として、何を実現しようとしているのかを今一度整理して徹底すべきだし、調整が必要だ。企業なら、社是や経営方針の徹底が必要だし、社長(鳩山首相)ないし、実力オーナー(小沢幹事長)が組織を引き締める必要がある。
乗り込んだ先があれこれ抵抗するのは不思議ではないが,親会社の古株役員にじゃまされるのはなぜだろう。山崎氏は,問題の中心に官房長官がいるとにらんでいる。そして「民間会社でいうと、「社長室長」あるいは「経営企画室長」あたり(何れにしても社長に寄り沿う「経営茶坊主」)が、社長の威を借りて、社内に権力をふるうような構図」だと事態を描写する。

こうした状態は,トップがリーダーシップを発揮して解決すべきことである。ところが,トップが「経営茶坊主」に取り込まれ,山崎氏の言葉を借りれば「企業で言うなら、社長が、最も重要な事業部門の意見を聞かずに、経営企画室の話だけを聞いて、来年の事業計画を決めているような状態」は,一般に広く存在するのではないだろうか。側近と重臣の対立というのは,歴史小説でもよくあるテーマである。

トップの威を借りて自分の下位にある部下を指揮することは,組織の原理として当然である。問題は,公式には上位にないはずの側近が,事業部門の幹部の上を事実上支配しようとすることである(ただし,官房長官の場合,副総理を除く閣僚よりは上位にいるらしい)。それがトップの意向に忠実で,組織のビジョンにかなっていればまだいいが,そうでない場合(それがない場合)問題が深くなる。

側近の強みは,トップに助言する機会が多いだけでなく,トップが誰に会うか,どういう情報を見るかをコントロールできる点である。そして,トップと直接会う機会が少ない幹部に「トップは実はこうお考えです」と情報操作し,「私からうまく言っておきます」と恩を売る。それは裏を返せば,私を敵に回すと,トップから信頼されませんよ,という脅しである。そうして自らの影響力を着々と高めていくわけだ。

側近が横行するのは,基本的にはトップのリーダーシップが不足しているからだろう。現代社会のように管理すべきことが過多で複雑な状況では,トップが側近を持つことは必須だが,それがトップと重要幹部の間で情報を遮断したり歪曲したりするのを防がなくてはならない。そのために,情報技術が使えないだろうか。そこで,トップも幹部も twitter でつぶやき合う・・・とまではいかないまでも。

やっぱりそういうことじゃなくて,トップが人を見る目をちゃんと持っているかどうかじゃないか,などと結論は平凡なところに落ち着きそうだ。それにしても,君主-側近-重臣の不幸なトライアッドは大昔から繰り返されてきたはず。組織論では,どう扱われているのか興味がある。その意味で,上杉隆氏の『官邸崩壊』は,実は普遍的な組織論のための,有力な事例研究書なのかもしれない。

官邸崩壊 安倍政権迷走の一年
上杉 隆
新潮社

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