Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

脳科学ブームに「乗る」

2008-12-02 20:54:00 | Weblog
『宣伝会議』12/1月号で「最先端の脳科学が広告を進化させる」という特集が組まれている。主役は研究者というより企業,特に広告会社や調査会社である。記事では博報堂,ニールセン,NTTデータ経営研究所のほか,ニューロマーケティングに特化した専門コンサルタント企業の動きを紹介している。そのフットワークのよさには感心させられる一方で,ブーム→期待の肥大化→バブル崩壊,ということにならないか心配だ。ぜひ長く続けてもらいたい。

宣伝会議 2008年 12/1号 [雑誌]

宣伝会議

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『経済セミナー』12月号でも,「行動健康経済学」の連載のなかで,ニューロエコノミクスが要領よく紹介されている。著者たちがみんな関西の大学に属していることからも,関西において行動経済学やニューロエコノミクスの研究が活発であることがうかがえる。東京は既成の権威に縛られている,というありきたりの理由以外に何かあるのかどうか。たとえば,関西では研究組織間の垣根が低く,経済学者と神経学者たちが共同研究しやすいとか…。

経済セミナー 2008年 12月号 [雑誌]

日本評論社

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昨日午前中は,3時間かけて行動実験の打ち合わせを行った。その先には,脳科学的な実験も予定されている。これは,人間の選択行動の根源を問うという意味で,ぼくにとってD論以来の問題意識と通底する。しかし,周囲からは単に「脳科学ブーム」に乗っていると見られてもやむを得ない。実際,ぼくは新しいもの好きである。しかしながら,脳神経科学と連携することで研究が進み,幸せになれると単純に信じているわけではない。

それによって,消費者行動研究はかえって沈滞することだってあり得る。厳密な科学的研究の作法が持ち込まれることで,煩雑な手続きを積み重ねた割には,わずかな知見しか得られなくなるからだ。その結果,研究速度が落ちても不思議ではない。また,従来定説とされてきた理論に疑問符が投げかけられることもあるだろう。これまで小さなコミュニティで幸せに暮らしてきたのに,急に不幸になる人が続出するかもしれない。

しかし,長い目で見ると,それが消費者行動研究を進歩させることは間違いない。神経科学,心理学,行動経済学等の研究者が消費者行動に注目し,参入してくることで,研究の量と質が向上する。なぜなら,消費者行動には,人間行動として一般化できる面白い研究課題がふんだんにあるからだ。それらは「行動マーケティング」とも呼べる消費者行動研究がそれなりに整理してきた。ファイナンスほど儲からないが,研究材料は身の回りにごろごろ転がっている。

もちろん,脳神経科学が全てを席巻するのではなく,むしろ検証すべき仮説を提供する行動実験や理論研究の重要性がいっそう高まるだろう。観測事実という制約を離れて理論的な可能性を探るためには,シミュレーション研究も欠かせない。ぼく自身の究極の関心は当然そちらにあるが,実験や観測という泥臭い戦いを避けるわけにはいかない。いまは3人のプロジェクトだが,いずれネットワークがどんどん拡大していくだろう。
 

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