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Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

3日後のキス

2006-12-07 23:24:25 | Weblog
10年後の100万円より,明日もらう100万円の現在価値のほうが高い,というのが時間選好というものだ。だが行動経済学が示したのは,目の前に積まれた100万円は,標準的な時間選好理論から予測される以上に強く選好されるということだ。このような現在志向のバイアスのおかげで,本来なら将来をにらんで合理的に行動する人でさえ,「つい出来心で」賄賂を受け取ってしまうことを説明できる。

・・・と,ここまでは知っていたが,友野典男『行動経済学』は,さらに面白い研究をいくつか紹介している。たとえば,時間選好研究の第一人者,Loewenstein の行なった実験。憧れの映画スターといますぐキスできるのと,3日後にキスできるのとどちらを選ぶかと聞くと,多くの被験者は後者を選んだという。つまり,憧れの人とキスすることを想像して,期待に胸をふくらませる時間の効用もまた存在すると。人間にとって現在志向がすべてではなく,未来を夢想することを志向する文脈もあるのだ。

これまで,時間選好の研究にはさほど関心がなかったが,よく考えると,消費にとって時間というものは,きわめて重要である。人はみな,現在と未来の狭間に生きているのだから。この本は新書ながら,行動経済学の既存研究を幅広く紹介しており,大変勉強になった(ただ個々の実験を理解しながら読むためには,ふつうの新書以上に時間がかかる)。

巻末の文献リストも役に立ちそうだが,そこに日本人の論文がほとんどないのが残念に思える。しかし,心理学には世界的に活躍している研究者がいるし,最近では実験経済学を志す経済学者も増えてきているので,こうした状況は今後変わるかもしれない。

で,自分にとって「3日後のキス」とは何かを考えると・・・という話はいずれまた。

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