Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

進化経済学の棚卸し

2012-09-22 16:13:37 | Weblog
ちょうど1週間前になるが16日(土),中央大学多摩キャンパスで開かれた進化経済学会オータム・コンファレンスを聴講した。塩沢由典先生の基調講演のあと,江頭進,有賀裕二,横川信治,吉田雅明の各先生が報告するという形式。

塩沢先生の基調講演は「進化経済学を棚卸しする/何ができ何ができなかったのか」と題されている。クルーグマンの「進化経済学」批判を念頭に置きつつ,進化経済学の成果と残された課題を包括的に論じられた。

様々な論点のうち,特にその後の議論を喚起したのが「経済学の中核で勝負する」ためには,最近出版された進化経済学の教科書において「価格理論」が(大きく)取り上げられていないのは問題だという指摘であった。

これについては,著者の方々からの反論もあり,それを巡る議論は懇親会のあとの二次会まで続いた。研究者がお互いのキャリアを超えて,妥協することなく対等に議論し続ける・・・これぞ学会のあるべき姿だと感銘を受けた。

進化経済学 基礎
(進化経済学にチャレンジ)
西部忠,吉田雅明(編著)
日本経済評論社

ぼくが理解した限りでは,この教科書を執筆された先生方は,価格はもちろん経済システムの重要な変数だが,もはや特権的なものではない,標準的な経済学の教科書のように大きく扱う必要はない,と考えておられるようだ。

それはマーケティングの考え方にも近い。価格は消費者に選択に影響を与える手段の一つにすぎない。もちろん,マーケティングでは,価格はマークアップ(コスト上乗せ)原理で決まる,といって済ますわけにはいかない。

一方,塩沢先生が考えておられるのは,過去の(古典派の時代からの)経済学の知的遺産を継承することであり,新しい正統派を目指す教科書が担うべき戦略的役割だろうと思う。両者の視点はそう簡単には折り合わない。

もちろん塩沢先生は藤本隆宏先生(進化経済学会の現会長)とともに経営学や会計学と連携する研究プログラムを進められており,進化経済学を伝統的な経済学の枠組みのなかに閉じ込めようとしているわけではない。

塩沢先生の講演の最後のメッセージは「経済成長・発展」の研究のススメであった。そこに含まれる「製品多様化」「製品イノベーション」といった話題は,マーケティング研究者にとっても無関心ではいられない。

とはいえマーケティングは「進化」という枠組みが妥当する時間的視野をあまり持たない傾向にある。また藤本先生の強調する「産業」という視点も欠いている。したがって簡単には接点を見出しにくいのも確かだ。

・・・などということを考え,自分の立ち位置をいまひとつ見出せない半日であった。なお,上述の「教科書問題」とは別に,有賀先生や横川先生の現代社会・市場への洞察に関わる発表も興味深かったことを付け加えておく。