Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

ブログスフィアの物理法則

2012-09-01 17:51:30 | Weblog
ソーシャルメディアの登場は,コミュニケーションの研究に大きなインパクトを与えた。これまで不可能とされた大規模な対話データが集積され始めたからだ。そのことはとりわけマーケティングにとっても大きな影響を持つ。

しかし,あまりに膨大なデータをどう扱えばいいのか・・・従来の統計学やデータマイニング以外に何かないか・・・そう考えたであろう電通の秋山隆平氏が東京工業大学の経済物理学者・高安美佐子氏を尋ねるところから本書は始まる。

秋山氏はいった―「単に『風が吹けば桶屋が儲かる』というような相関関係をデータから抽出するにとどまらず,人間の基本的な行動に起因するブームの発生や衰退を科学的に記述する数理モデルを共同で開発できないだろうか」...

そこでホットリンクを加えた5年に及ぶ共同研究がスタートした。本書にはその成果が紹介されている。前半はデータの収集や分析に関する情報工学的な話題,後半は物理学的なデータ記述やモデリングが取り上げられている。

ソーシャルメディアの経済物理学 ウェブから読み解く人間行動
高安美佐子(編著)
日本評論社

この研究によって実現した応用例として,金融,マクロ経済,マーケティングにおける予測が取り上げられている。ブログの発言総量が様々な社会現象と高い相関を持つことは,同じく物理学者の石井晃氏によっても明らかにされている。

経済物理学の最大の強みは,膨大なデータに基づき,繰り返し観察される規則性を見出すことだと思う。物理学など畏れ多いと感じるマーケターにとっても,本書に示された様々なマクロ的な規則性は興味深いはずである。

もちろんマーケターにとっては,よりミクロな,あるいは個別的なレベルでの問題に関心がある。マーケティングの研究者はそこを分析するわけだが,うかうかしているとそこでもまた出番がなくなってしまうかもしれない。

そうなると,高安研究室を訪ねた秋山隆平氏の直観はやはり正しかったということになる。

本書をご恵投いただいた著者に感謝いたします。