先週のことになるが,8月29日から31日まで,立正大学大崎キャンパスで開かれた JWEIN2012(ネットワークが創発する知能研究会)について参加したので記録を残しておきたい。なお,立正大学を訪れたのは初めてだ。
この研究会は 2005 年に発足,「ネットワークダイナミクス、ネットワークが創発する知能」をキーワードに活動を続けてきたという。類似の団体に「ネットワーク生態学研究会」がある。両者の違いについて,ぼくはよく分かっていない。
それはともかく,今回の研究会の目玉の1つは「東日本大震災におけるデマの分析」という企画セッションで,栗原聡(阪大),安田雪(関大),市川芳治氏(NHK),風間一洋(NTT)の各氏が登壇された。
安田先生がインフルエンサーの役割について会場の意見を聴いたところ,重視しない派のほうが多かった。それは会場の多数を占める理工系研究者が,エージェントの異質性を認めたくないからだというがぼくの解釈だ。
しかし,栗原・安田先生の分析はいずれも,デマの伝播や収束にハブの役割が大きいことを示している。もちろん,それは「成功した」情報伝播の特徴であっても,原因とはまでは即断できない。必要条件と十分条件は違う。
また,工学系研究者が「制御」を志向するのに対して、社会学者である安田先生がデマが収束した背景に「社会」の働きがあることを見出して安堵されていたのは好対照だった。こうした溝は深いが,対話の妨げにはならない。
JWEIN2012 のもう1つの目玉は,CALTEC の下條信輔先生の「意識の主観経験と行動~「クオリア」を巡って」と題する講演である。いうまでもなく「人々は赤いものを見てなぜ共通に赤と感じるのか」という大問題だ。
それは、現代の科学では解決不能なハードプロブレムとされてきたが,最近の神経科学の進展によって、少なくともその一部分は解明されつつある(裂け目が生じてきた)と下條先生はいう。その証拠が次々高速で開示される。
クオリアが科学の対象になるということは,人間の主観経験が身体や環境から独立しているという特権性を奪うことになる。そのことは自己言及によって,科学の特権性をも脅かすかもしれない。深く難しい議論が避けられない。
興奮を覚えながら講演を拝聴するが,正直いってある時点で脳が飽和状態になったことを告白しておこう。ただ,これは「社会脳」に関する議論を通じて,ソーシャルメディアの問題と深いところでつながっていくことに注意したい。
したがって,そこを見抜いてこの企画を立てた栗原先生の慧眼には感服する。ソーシャルメディアやクチコミの研究は外在化されたネットワークの研究であると同時に,内面化されたネットワークの研究でもあるのだろう。
そのことを噛み締めると「ネットワークが創発する知能」というキーワードの意味が、想像以上に奥深いことに気づかされる。
この研究会は 2005 年に発足,「ネットワークダイナミクス、ネットワークが創発する知能」をキーワードに活動を続けてきたという。類似の団体に「ネットワーク生態学研究会」がある。両者の違いについて,ぼくはよく分かっていない。
それはともかく,今回の研究会の目玉の1つは「東日本大震災におけるデマの分析」という企画セッションで,栗原聡(阪大),安田雪(関大),市川芳治氏(NHK),風間一洋(NTT)の各氏が登壇された。
安田先生がインフルエンサーの役割について会場の意見を聴いたところ,重視しない派のほうが多かった。それは会場の多数を占める理工系研究者が,エージェントの異質性を認めたくないからだというがぼくの解釈だ。
しかし,栗原・安田先生の分析はいずれも,デマの伝播や収束にハブの役割が大きいことを示している。もちろん,それは「成功した」情報伝播の特徴であっても,原因とはまでは即断できない。必要条件と十分条件は違う。
また,工学系研究者が「制御」を志向するのに対して、社会学者である安田先生がデマが収束した背景に「社会」の働きがあることを見出して安堵されていたのは好対照だった。こうした溝は深いが,対話の妨げにはならない。
JWEIN2012 のもう1つの目玉は,CALTEC の下條信輔先生の「意識の主観経験と行動~「クオリア」を巡って」と題する講演である。いうまでもなく「人々は赤いものを見てなぜ共通に赤と感じるのか」という大問題だ。
それは、現代の科学では解決不能なハードプロブレムとされてきたが,最近の神経科学の進展によって、少なくともその一部分は解明されつつある(裂け目が生じてきた)と下條先生はいう。その証拠が次々高速で開示される。
クオリアが科学の対象になるということは,人間の主観経験が身体や環境から独立しているという特権性を奪うことになる。そのことは自己言及によって,科学の特権性をも脅かすかもしれない。深く難しい議論が避けられない。
興奮を覚えながら講演を拝聴するが,正直いってある時点で脳が飽和状態になったことを告白しておこう。ただ,これは「社会脳」に関する議論を通じて,ソーシャルメディアの問題と深いところでつながっていくことに注意したい。
したがって,そこを見抜いてこの企画を立てた栗原先生の慧眼には感服する。ソーシャルメディアやクチコミの研究は外在化されたネットワークの研究であると同時に,内面化されたネットワークの研究でもあるのだろう。
そのことを噛み締めると「ネットワークが創発する知能」というキーワードの意味が、想像以上に奥深いことに気づかされる。