9月5日から7日まで台北で開かれた World Congress on Social Simulation 2012 (WCSS2012) に参加した。会場となった國立政治大學は台北の南方にあり,宿泊した大安から地下鉄とバスを乗り継いで40分ぐらい。元々は国民党が設立したエリート養成学校とのこと。
この大学には,Shu-Heng Chen 教授や山本竜市教授のように,エージェントベースモデルを用いた経済学・ファイナンスの研究者がいる。日本ではそうした経済学は主に人工知能や経済物理学の研究者によって担われている印象がある。少なくとも今回の会議の参加者を見る限りそうだ。
初日のチュートリアルでは,シカゴ大学の Sallach 教授の Categorical Analysis of Social Processes を聴講。「圏論」に基づく議論であったようだが超難解。防衛大学・生天目章教授の Simulation Models on Systemic Risks と題する講義では,現在最もホットな研究領域の1つが概観された。
Systemic Risks とは,大規模な経済危機のもとで金融機関が連鎖倒産していく現象を指す。大規模かつ複雑なネットワークが前提となり,そこにバランスシートを維持するという制度的に定型化された行動が埋め込まれている。そうしたシステムの分析には複雑系的なアプローチが力を発揮する。
基調講演を行ったキール大学の Thomas Lux 教授もまたそうした研究の第一人者である。一方,基調講演では,エクスマルセイユ大学の Alan Kirman 教授の話も面白かった。昨年の WEHIA での講演ともダブっていた気がするが,こういう深い話は何度も聴いて反省すべきだろう。
Kirman 教授は人間の行動は「する・しない」の二項であり,それを決めるのは閾値だという。蟻や蜂の行動はそうしたモデルで記述される。いわば二項選択モデルを基礎にするということで,そうなるとマーケティング・サイエンスで多用される多項選択モデルをどう考えればいいのか・・・。
基調講演の冒頭で Kirman 教授を紹介したのは,エクスマルセイユ大学の花木伸行教授であった。コロンビア大学では Watts らと共同研究され,筑波大学でも勤務経験がおありである。花木先生,山本先生といった世界を舞台に活躍されている研究者にお会いできたのも収穫であった。
さて,自分は創価大学の岡田勇先生が組織された,社会情報学会後援の Social Media and Simulation in Social Informatics" というワークショップに参加した。日本でふだんお会いすることが多い研究者が多数参加されていた。換言すれば新たな出会いは少なかったといえる。
自分自身の発表は "How Consumer-Generated Advertising Media Works: Agent-based Simulation" と題するもので,INFORMS Marketing Science Conference や JIMS での発表に比べ,異種の戦略が混合するというモデル上の発展はある。だが,研究の含意は変わっていない。
すなわち,アフィリエイトのなかにランダムウォーカー的な行動をとる者が一定数いたほうが,アフィリエイト広告市場は全体として成長するというもの。それはそれで悪くない結果だと思うが,今後,それを超えてどのように研究を拡張していくかを考えなくてはならない。
それにしても,エージェントベースモデルの学会でマーケティングに関する発表は非常に少ないし,マーケティングの学会でエージェントベースモデルを用いる研究も少ない。このあたりも,自分に何ができるか考えねばならない課題であろう。まあ,稀少性があっていい,ともいえるが・・・。
この大学には,Shu-Heng Chen 教授や山本竜市教授のように,エージェントベースモデルを用いた経済学・ファイナンスの研究者がいる。日本ではそうした経済学は主に人工知能や経済物理学の研究者によって担われている印象がある。少なくとも今回の会議の参加者を見る限りそうだ。
初日のチュートリアルでは,シカゴ大学の Sallach 教授の Categorical Analysis of Social Processes を聴講。「圏論」に基づく議論であったようだが超難解。防衛大学・生天目章教授の Simulation Models on Systemic Risks と題する講義では,現在最もホットな研究領域の1つが概観された。
Systemic Risks とは,大規模な経済危機のもとで金融機関が連鎖倒産していく現象を指す。大規模かつ複雑なネットワークが前提となり,そこにバランスシートを維持するという制度的に定型化された行動が埋め込まれている。そうしたシステムの分析には複雑系的なアプローチが力を発揮する。
基調講演を行ったキール大学の Thomas Lux 教授もまたそうした研究の第一人者である。一方,基調講演では,エクスマルセイユ大学の Alan Kirman 教授の話も面白かった。昨年の WEHIA での講演ともダブっていた気がするが,こういう深い話は何度も聴いて反省すべきだろう。
Kirman 教授は人間の行動は「する・しない」の二項であり,それを決めるのは閾値だという。蟻や蜂の行動はそうしたモデルで記述される。いわば二項選択モデルを基礎にするということで,そうなるとマーケティング・サイエンスで多用される多項選択モデルをどう考えればいいのか・・・。
基調講演の冒頭で Kirman 教授を紹介したのは,エクスマルセイユ大学の花木伸行教授であった。コロンビア大学では Watts らと共同研究され,筑波大学でも勤務経験がおありである。花木先生,山本先生といった世界を舞台に活躍されている研究者にお会いできたのも収穫であった。
さて,自分は創価大学の岡田勇先生が組織された,社会情報学会後援の Social Media and Simulation in Social Informatics" というワークショップに参加した。日本でふだんお会いすることが多い研究者が多数参加されていた。換言すれば新たな出会いは少なかったといえる。
自分自身の発表は "How Consumer-Generated Advertising Media Works: Agent-based Simulation" と題するもので,INFORMS Marketing Science Conference や JIMS での発表に比べ,異種の戦略が混合するというモデル上の発展はある。だが,研究の含意は変わっていない。
すなわち,アフィリエイトのなかにランダムウォーカー的な行動をとる者が一定数いたほうが,アフィリエイト広告市場は全体として成長するというもの。それはそれで悪くない結果だと思うが,今後,それを超えてどのように研究を拡張していくかを考えなくてはならない。
それにしても,エージェントベースモデルの学会でマーケティングに関する発表は非常に少ないし,マーケティングの学会でエージェントベースモデルを用いる研究も少ない。このあたりも,自分に何ができるか考えねばならない課題であろう。まあ,稀少性があっていい,ともいえるが・・・。