中国で激しい反日デモが連日繰り返されている。その背景にはいうまでもなく「領土問題」がある。その原因がどこにあるのか,どうすれば解決するのかを概観するため,このコンパクトな解説書を読んでみた。
著者の保阪正康氏は昭和史に数々の著書がある有名なノンフィクション作家である。その立場はいわば「穏健な保守」とでもいえるもので,日本の国益を重視しながら,極論に走らず,相手国の言い分にも耳を傾けている。
保阪氏によれば,領土問題には共通の構図はない。北方四島についてはロシアとの歴史認識の違い,竹島については日韓の条約に対する解釈の違い,尖閣については資源を巡る中国の思惑が最も重要な要素だという。
尖閣諸島の場合,いったん米国の統治下におかれたあと沖縄とともに日本に返還されているが,米国はそのとき尖閣の帰属について明確な表明をしていない。そこに米国の思惑があったのではないかという説も紹介されている。
その真偽はともかく,領土を巡る利害は当事者の二国間にとどまらないことを示唆している。したがって,仮に対峙する二国で調整が行われても(事実上不可能だが),それを妨げる力が別に働く可能性がある。
領土問題での日本政府の立論には正当性があり,今後もそれを堅持すべきだという著者の主張は説得的である。かといってこの問題を解決する画期的な方法は見当たらない。論理を超えた感情の働きが立ちはだかっている。
領土問題の根底には経済的利権があり,その意味で一見理性的に解決が可能に見えるが,そこに感情が絡みついている。自分が損失を被っても,相手に損失を与えることを悦びとする感情が事態を難しくしている。
![]() | 歴史でたどる領土問題の真実 中韓露にどこまで言えるのか (朝日新書) |
保阪正康 | |
朝日新聞出版 |
著者の保阪正康氏は昭和史に数々の著書がある有名なノンフィクション作家である。その立場はいわば「穏健な保守」とでもいえるもので,日本の国益を重視しながら,極論に走らず,相手国の言い分にも耳を傾けている。
保阪氏によれば,領土問題には共通の構図はない。北方四島についてはロシアとの歴史認識の違い,竹島については日韓の条約に対する解釈の違い,尖閣については資源を巡る中国の思惑が最も重要な要素だという。
尖閣諸島の場合,いったん米国の統治下におかれたあと沖縄とともに日本に返還されているが,米国はそのとき尖閣の帰属について明確な表明をしていない。そこに米国の思惑があったのではないかという説も紹介されている。
その真偽はともかく,領土を巡る利害は当事者の二国間にとどまらないことを示唆している。したがって,仮に対峙する二国で調整が行われても(事実上不可能だが),それを妨げる力が別に働く可能性がある。
領土問題での日本政府の立論には正当性があり,今後もそれを堅持すべきだという著者の主張は説得的である。かといってこの問題を解決する画期的な方法は見当たらない。論理を超えた感情の働きが立ちはだかっている。
領土問題の根底には経済的利権があり,その意味で一見理性的に解決が可能に見えるが,そこに感情が絡みついている。自分が損失を被っても,相手に損失を与えることを悦びとする感情が事態を難しくしている。