Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

カレシの元カノの元カレ

2006-07-08 14:11:40 | Weblog
社会ネットワーク分析(SNA)の第一人者,安田雪さんをお招きしての研究会。いつもより参加者が多い。まずはウェブ上で収集された共起関係の分析例。これらは「関心の共通性」という社会的な側面があるものの,SNAが本来の対象領域を超えて,データ解析手法として一般化し,クラスタリングやMDSと同列になることを予感させる。

次いで紹介された Krackhardt の Structual Leverage Model は友人関係を利用したサンプリング(試供品配布)の効率性を扱っている。Networks in Marketing (1996) はざっと眺めたつもりだったが,こんな論文が出ていたとは…。ただ,単純な仮定に基づく数理モデルであり,すぐ意思決定に使えるというより,洞察を与えるタイプの研究だ。

最後に現在研究中の「カレシの元カノの元カレ」モデル。人間関係をたどっていって,何人目でHIV感染者に到達するかという問題。これが面白いのは,一般のSNAのように特定の関係を所与として分析するのでなく,ある(潜在的な)関係が成立し得る確率を扱っていることだ。マーケティングでは未知の関係を扱うことが重要になると思っていただけに,我が意を得た感じ。

ただ,数理的に解くためにかなり制約的な仮定が置かれており,ぼくならもう少し plausible な仮定を置いて,シミュレーションするほうを好む。まあこれは,好みの問題。数理モデルのほうが美しいのは確か。

蛇足だが,Q&Aで「構造」と「機能」,「関係」と「行為」に関する議論があった。社会学者にとってはうんざりするトピックだと思うが,ぼく自身,SNAに満足しきれない思いが,このあたりにあると感じた。ただ,安田さんの答えは,SNAですべて答えを出す必要はない,というもの。それはそうだ。ただ,一つのモデルで全部統合したいという,身の程知らずな欲望を持つのも事実。

ということで,お忙しいなか来ていただいた安田先生に感謝。残念ながら,こちらからお返しになるようなフィードバックができたとは思えない。もっと精進せねば…と思いつつネットにアクセスしたら,「広告の短期効果」校正原稿が届いている…