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Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

ビッグデータからディープデータへ

2018-01-27 09:46:48 | Weblog
JIMS「マーケティングの計算社会科学」研究部会では、NTTデータ経営研究所の高山文博さん、茨木拓也さんから、同社の最先端の実践について伺った。高山さんからは同社が構築している2万人、約1,500の変数からなる「人間情報データベース」が紹介された。その特徴は心理学や行動経済学に基づく個人特性情報を含む点にある。



すでに多くの会社が数万人規模の消費者データベースを商用化している。デモグラフィクスは基本として、購買履歴データやメディア接触データ、価値観やライフスタイルなど、各社がそれぞれの品揃えを競っている。それらに対してNTTデータ経営研究所は、人間心理の「深い」変数を、研究者の協力のもと収集することで差別化を図る。

行動履歴から観察される「相関」に基づいてデータを活用しようとするのが主流だが、行動の背景にある心理特性を把握することで Why? の問いに答えようというのが、その戦略である。その点で、ビッグデータ×機械学習だけでは満足できないという、少なからぬマーケティング研究者とも近い立場である。今後の発展を見守りたい。

後半は、同研究所で神経科学的な研究と企業へのコンサルテーションを行っている茨木さんの発表。脳情報通信技術の「恐るべき」発展の現況をまず伺い、同社が行っている実践例の紹介を受けた。たとえばテレビ広告に対する fMRI で測定される血流反応と、画像を言語化したアノテーションデータの関係が機械学習を用いて分析される。

その延長には、望ましい感情に対して最適な CM を作成することも視野に入っている。現状では測定にかなりのコストが掛かるので、個人差を扱えるような分析にはいっそうのイノベーションが必要とされる。ニューロ・マーケティングそのものは10年以上前から話題になっているが、現時点でさらに高いステージに進んでいるようだ。

今後、データを握るものが市場を支配する、ともいわれている。コンサルティング会社が広告業界に進出するだけでなく、従来にはない発想で大規模データを構築するのがひとつの潮流だろう。そこに解析手法だけでなく収集すべき情報という観点でもアカデミズムの成果が生かされる。それは研究者にとっての好機であり、試練でもある。

「社会記号」と市場の進化

2018-01-06 17:54:56 | Weblog
『欲望する「ことば」』は、広告ビジネスの最前線にいる実務家と気鋭のマーケティング研究者がタッグを組み、「社会記号」という切り口から、市場がどう創造されるかをわかりやすく述べた本である。社会記号とは消費者の隠れた欲望に与えられた「ことば」で、それが社会に伝播することで、最終的に人々の意識や行動を変えていく。

その一例が「加齢臭」だ。このことばが生み出されたことで、新たな市場が創造された。これは 1920 年代の米国で、口臭を意味するハトリシスということばが流布されたことと符合する。「女子」ということばも、意味がいろいろ変容した挙句「女子会」市場を生み出すに至った。私にとって馴染み深い「カープ女子」もその延長にある。

 欲望する「ことば」
 「社会記号」とマーケティング
 (集英社新書)
 嶋浩一郎,松井剛
 集英社


本書は豊富な事例を挙げ、社会学や言語学の理論との関連も議論し、非常に説得的である。これまで数量データを中心に「市場の進化」(とりわけ新製品の普及)を研究しようとしてきた自分も、大きな反省を迫られた。市場の進化には社会記号を通じた知覚の変化もまた重要なはずで、それをどう観測し、モデルに組み込むべきか。

社会記号はメディアや広告代理店が一方的に作り出せるものではなく、消費者との(あるいはメディア間での)複雑なインタラクションから生まれてくる。それはまさに複雑系で、ソーシャルメディア上のビッグデータを分析できれば、そのダイナミクスを解明できるかもしれない。計算社会科学にとって格好の研究対象ではないか。

もっとも著者たちは、ビッグデータや AI が発展しても、消費者の隠れた欲望の予兆を探り出せるのは人間だけだと述べる。私も AI の限界には同意するが、人間が計算機の力を借りてソーシャルメディア等のビッグデータから欲望の予兆を読み取ることは可能だと思いたい。その意味で、AI や計算社会科学の研究者にも薦めたい本だ。

なお、著者の一人、松井剛さんは以下の研究書をすでに出版されている(このブログでも一度紹介している)。松井さんの研究における一貫性を自分も見習いたいが、もうすでに手遅れかもしれない…。

 ことばとマーケティング
 ―「癒し」ブームの消費社会史
  (碩学叢書)
 松井剛
 碩学舎



2018年の年頭にあたり

2018-01-04 15:51:52 | Weblog


2018 年の年頭にあたり、抱負を書いてみたい。今年は私にとって、2年間の在外研究を終えて平常営業に戻るプロセスを終え、新たなステージに入ったことを示す1年にしたい。そのためには、在外研究を機会に生まれた研究の種を開花に向かわせることが重要になる。そうした研究を結ぶキーワードは「市場の進化」になるかと思う。

最初の一歩は、新製品に関する「普及の失敗」の研究だ。進化が淘汰によって起きるとしたら、多くの普及モデルが「失敗」の可能性を無視してきたのは問題だ。オンラインレビューやファッションのデータ分析も「進化」の研究と呼べそうだ。消費者側に着目することから、これらは「顧客の進化」といったほうが正確かもしれないが。

もう1つの重要目標は、エージェントベース・モデリング(ABM)による理論志向の研究へ回帰することである。まずは懸案の "Complexity Modeling of Consumer Behavior" が、出版社のサイトに記されているように2019年に刊行されるよう頑張りたい。なお、この本と連動するよう大学院の講義を体系化することも課題である。

研究とティーチングの連動という点では、学部の講義で教科書として用いている『マーケティングは進化する』を改訂する準備を進めたい。マーケティング環境は急速に変化している。もちろん、ファッドを追いかけてもすぐ陳腐化するので、ある程度は持続するトレンドを捉え、理想をいうならさらに不変の「真理」に迫りたいところ。

もちろん、仕掛品の論文投稿も進める。ゴール(or 締切)が間近に迫っているのは以下の3つだろう:

・Twitter 上のインフルエンサーの研究 w/ 阿部誠 …昨年8月のネットワーク生態学シンポジウムなどで発表

・複素ヒルベルト主成分分析によるカスタマージャーニーの分析 w/ 青山秀明、藤原義久 …昨年12月、JIMS研究大会経済物理学2017で発表

・デジタル・メディア環境でのマーケティング・コミュニケーションに関するレビューワークショップ w/ 大西浩志、澁谷覚、山本晶 … 昨年6月の JIMS研究大会で発表

次に論文投稿が課題となるのが以下の2点:

・期間限定が購買に与える影響の研究 w/ 石原昌和 … 昨年12月、行動経済学会大会で水野が発表

・購買行動の潜在オケージョン分析 w/ 石原昌和, Jessica An … 昨年8月の INFORMS Marketing Science Conference で第一著者である石原さんが発表

昨年5月に発表した「クリエイティブ-文化資本」の研究については、理論面の考察を深める必要がある。「熱狂」「イデオロギー」に関する研究もそうだが、テーマが狭義のマーケティングを超えて広がるほど、諸学問に立脚した理論武装が必須になる。自分の研究がそちらに向かうにつれ、文献を読むことがかつてなく重要になりそうだ。

ブランド戦略研究の金字塔

2017-12-27 13:15:00 | Weblog
田中洋『ブランド戦略論』は500ページを超えようとする大著である。したがって、簡単に読み通すことはできないが、拾い読みするだけでもその価値が伝わってくる。嘘だと思う人は本屋で本書を手にとってパラパラめくってほしい。この本を一言で評するなら、ブランド戦略に関して現時点で最も包括的で、かつ挑戦的な本だということになる。

ブランド戦略論
田中洋
有斐閣


本書がどれほど包括的かは、ブランド戦略に関する話題を何か思い浮かべ、本書でどう扱われているかを調べればわかる。私の見た限り、その守備範囲はかなり広い。定番的な話題に加えて、一般によく知られていない(もちろん私も知らない)最近の話題が多数紹介されている。それらを深く知るための参考文献のリストも、かなり充実している。

その意味で、本書はブランドに関して何らかの研究を行うとき、まず当たってみるべき百科全書的な本といえる。しかし、それだけではない。本書の後半には、日本で活動する企業の事例がなんと30も掲載されている。理論より事実に興味がある実務家にとって、あるいは実務的な教育を目指す教員にとっても、本書は役に立つ情報源となる。

一方、本書が挑戦的だと私が思ったのは、最初の数章がブランドについての原理的考察に当てられていることにある。そこでは交換という概念をめぐってマルクスが参照され、沈黙交易についての文化人類学の議論が参照されるなど、著者の教養の深さが示される。先史時代から現代に至るブランドの歴史が概観される章も、純粋に読んで面白い。

本書を「著者の永年のブランド研究の集大成」と呼ぶのは、いまなお精力的に研究中の著者に対して不適切だろう。長年の研究成果を体系的な書物として残したいと願う研究者は少なくないはずだが、本書を一瞥すれば、それがそう簡単ではないことも実感できる。その意味で、本書はマーケティング研究者に1つの模範を示したといえるだろう。


わが内なるポピュリズム

2017-12-25 17:03:03 | Weblog
ポピュリズムということばが世界的に話題になったのは、昨年の冬頃である。その背景にどのような政治的事件があったかは、いまさら説明するまでもないだろう。Google Trends を見ると、昨年の冬を除くと、このことばは一定の周期を持って話題になっていることがわかる。それはまるで、社会がバイオリズムを刻むようでもある。



ポピュリズムとは何かを議論する上で難しいのは、自分の政治思想はポピュリズムであると自認している人が、ほとんどいないことである。したがって、何がポピュリズムなのかは、それはポピュリズムだと一定の範囲で合意できる政治運動から帰納的に分析されるしかない。しかし、ポピュリズムの基準が曖昧なので、それはそう簡単ではない。

水島治郎『ポピュリズムとは何か』は昨年の今頃出版され、石橋湛山賞を受賞するなど、ポピュリズムに関する書籍として高い評価を得てきた。南北アメリカからヨーロッパに至る、「ポピュリズム」とみなし得るさまざまな政治運動が紹介されているが、それらは決して同じではないことも丁寧に説明される。ただし、いくつかの共通点がある。

ポピュリズムとは何か
- 民主主義の敵か、改革の希望か (中公新書)
水島治郎
中央公論新社


本書の副題「民主主義の敵か、改革の希望か」が示唆するように、ポピュリズムは民主主義とは切り離せない関係にある。それはしばしばエリート(すなわち既存の政党や官僚)から民衆への権力移行を主張する。国民投票のような直接民主制的手続きを好む。そこで推進しようとする政策が右翼的か左翼的かは、置かれた状況によって変わる。

ポピュリズムは「大衆迎合主義」と訳されることもある。有権者の欲求に適合することを目指すのは、民主政治においては当然のことである。マーケティングのことばを使えば、ポピュリズムは政治における顧客志向だということもできる。どんな政党・政治家であっても、大なり小なりポピュリストにならなければ、選挙で選ばれることはない。

ポピュリズムが危険であり、抑制すべきものであるとしたら、エリートによる大衆の善導という思想を受け入れるべきなのだろうか。あるいは、エリートへの依存は避けつつ、人々のなかにある異質性が尊重され、維持されるような社会を目指すべきなのか。それはそれで社会が分裂し、対立し合う危険をはらんでおり、平坦な道のりではない。

ちなみに「熱狂」は、マーケティングの研究において私が関心のあるテーマの1つである。政治行動における熱狂まで視野に入れると、熱狂現象の負の側面にも目配りが必要になる。

経済物理学と行動経済学の狭間で

2017-12-11 08:15:42 | Weblog
経済物理学と行動経済学 … 新たな経済研究の方法という点では共通するが、視点においてはある意味で対極にある2つの分野の会議に続けて参加した。いずれも京都での開催だ。どちらでもビールの購買データを分析した研究を報告したが、問題意識やアプローチはかなり違っている。



経済物理学 2017」は京都大学・基礎物理学研究所(湯川記念館)で開かれた。建物の前には、風雪に耐えた感のある湯川秀樹博士の像がある。隔年に開かれる会議で、だいぶ前に参加したことがある。ファイナンスに関連した研究発表が多く、当該業界の実務家も参加している。

そんな会議で私が発表したのは、先週 JIMS で報告した研究である。今回は共著者のお二人が一緒なので大船に乗った気持ちでいた。発表後、ある物理学者から、複素ヒルベルト主成分分析がマーケティングでも使えるのを知って驚いた、といわれた。少しはお役に立てたかもしれない。

翌日は、日本とは思えない美しいキャンパスを持つ同志社大学に向う。ふらっと聴講した、実験経済学の第一人者・西條辰義先生の講演が刺激的であった。一言でいえば、無視されがちな将来世代の選好を現在の政策に反映させる試みで、「仮想将来人」を加えたワークショップを行うもの。



行動経済学会の大会では、マーケティングに関する特別セッションで、石原昌和さんと行っている期間限定の効果に関する研究を発表した。すでに上海で発表しているが、今回は個人差についての報告や、背景に潜む心理的メカニズム(リアクタンスやリグレット)の議論を追加した。



この研究は、選択モデルの発展を継承した、マーケティング・サイエンスらしい研究といえる。その一方で、期間限定品の効果を仔細に見ると、合理的な選択行動としては説明しにくい面があると指摘している。つまり、行動経済学会で話すのに相応しい内容だと思い発表した次第。

セッション・チェアの星野崇宏さんからはモデリング面で、フロアの先生からは行動仮説について貴重なコメントをいただき、感謝している。その逆に、こちらの研究が行動経済学者にとって得るところがあれば win-win な関係になるが、実際のところどうだったかが気になる。

初日を締めくくるパネル討議は「感性マーケティング」がテーマで、清水聰さんと実務家3人が登壇した。NTTデータの方による、時間選好から価値観まで多様な変数を含むデータの話も興味深かった。行動経済学会として、ビジネス界からの期待に応えようとしているようだ。

実は、はるか以前にも行動経済学会の大会で発表したことがある。その後も何回か聴講したが、入会には至らず、今年から正式に入会することにした。行動経済学を学ぶには経済学の基礎知識が必要となるし、研究は日々進化しているので、新参者にはそれなりの勉強が必要となる。

経済物理学が、集団レベルの現象に対する computational なアプローチであるのに対して、行動経済学は個人レベルの意思決定に対する behavioral なアプローチだといえる。冒頭で「対極」と書いたのはそういう意味だが、相補的ともいえる。実際、私はその双方に関心がある。

今回、これら2つの会合の両方に参加した人は、私の知る限り、もう一人いた。彼は経済物理学のパネルに招待されたほか、行動経済学会の理事にも選ばれている。ファイナンスの分野でこれら2つのアプローチの交流が進むかもしれない。自分としては基礎的な勉強から始めたいw

行動経済学 -- 伝統的経済学との統合による新しい経済学を目指して
大垣 昌夫, 田中 沙織
有斐閣


マルチエージェントのためのデータ解析 (マルチエージェントシリーズ)
和泉 潔,‎ 斎藤 正也,‎ 山田 健太
コロナ社

JIMS@電通ホール(2017年冬)

2017-12-04 08:43:55 | Weblog
2017年冬のJIMS研究大会は、校務のせいで初日はほとんど聴講できなかった。したがって限られた見聞でしかないが、深夜アニメの視聴率を力学系モデルで分析した研究(大阪府立大・荒木先生)やYouTube上でのアーティストネットワーク分析(明星大学・片野先生)など、消費者のコンテンツ消費や発信を扱った発表が印象に残った。

モデルの精緻さを競いがちな当学会にあって、研究上の革新はデータの開発にあると考える慶應の清水聴さんの発表も面白かった。サンプリングがネット上のクチコミを伴いつつ購買にどのような効果を持つかをフィールド実験で検証している。これは、シーディング戦略の効果を研究している自分にとっては、注目せざるを得ない研究だ。

今回私が発表したのは、青山秀明さん(京都大学)、藤原義久さん(兵庫県立大学)と行った複素ヒルベルト主成分分析(CHPCA)の応用研究である。マクロ経済領域で応用されてきたこの手法を、ビールに関するスキャナーパネルデータ(i-SSPデータ)に適用し、カスタマージャーニーの類型とブランド間の競争反応(同期関係)を分析した



CHPCAとは多数の時系列の複素相関行列を固有値分解する手法で、複数の時系列間のタイムラグを伴う相関を計算できる。それによって、多数の変数の時間的動きからノイズを除去し、いくつかの次元でのシステマティックな co-movement を抽出できる。多変数の動きについて明確な知識が事前にない場合、非常に有用な分析手法だと思う。

今回の分析では、主要なブランドでウェブ/モバイルでの検索やサイト閲覧→テレビ広告接触→価格と数量の共変、という時間的展開が見出された。また、いくつかのブランド間にはテレビ広告やサイト閲覧が同期する現象も見られた。これは従来の意味での適応的な競争反応というより、競争するがゆえに行動が同期する現象かもしれない。

マーケティング研究者からは、集計データの分析はカスタマージャーニーの個人差が埋もれてしまう、という懸念が表明された。また、大会に先立って行われた部会では、タイムラグを実時間で表現してほしい、という要望が実務家からあった。これらは、少なくともマーケティングでの利用を考える限り、重要な研究課題であるといえよう。

Macro-Econophysics: New Studies on Economic Networks and Synchronization (Physics of Society: Econophysics and Sociophysics)
H. Aoyama, et al.
Cambridge University Press

天才になれなかった全ての人に

2017-11-24 15:13:24 | Weblog
「左ききのエレン」の各話の冒頭には「天才になれなかった全ての人に」と書かれている。子どもの頃を思い出してみよう。天才とまでいくかどうかは別にして、自分はいつかすごいことを達成するという漠然とした夢を抱いていたのではないだろうか。その夢は歳を重ねるたびにしぼんでいったとはいえ、どこかでまだくすぶっていたりする。

「左ききのエレン」の主人公は、美大を卒業して大手広告代理店にデザイナーとして就職、クリエイティブ・ディレクターの道を歩む男である。エレンは彼の高校の同級生で、傑出したアートの才能を持つ(つまり天才である)が繊細で傷つきやすい女性だ。広告業界で何とか出生街道を歩む主人公だが、エレンには憧憬と劣等感を持ち続けている。

左ききのエレン(1): 横浜のバスキア
かっぴー
ピースオブケイク

クリエイティブであることが非常に大きな価値となる時代において、大手広告代理店で有名なクリエイティブ・ディレクターになることは、1つの成功物語だといえるだろう。しかし、その現実は必ずしも「クリエイティブ」なことばかりではない。純粋にアートを追求し、世界的名声を獲得した「天才」を憧憬し嫉妬するのは自然である。

どんな職業に従事しているにせよ、そこでどの程度成功しているにせよ、本来自分が達成したかったのはもっと純粋で高貴なものであったという思いは残る。だから「天才になれなかった全ての人へ」というメッセージが心に響く。だが、このメッセージには積極的な意味もある。それは、このシリーズの第10巻(第一部の最後)で明らかになる。

このマンガで描かれる広告業界はリアルに思える。それもそのはず、作者は主人公と同様、ムサビを出てから東急エージェンシーの制作部門で働いていた。広告業界に縁のある人には「これ、あるある」的な楽しみ方ができるかもしれない。もっとも、現役の広告業界人たちがどういう受けとめ方をするか、実際に聴いてみたい気もする。

左ききのエレン(2): アトリエのアテナ
かっぴー
ピースオブケイク

左ききのエレン(3): 不夜城の兵隊
かっぴー
ピースオブケイク

左ききのエレン(4): 対岸の二人
かっぴー
ピースオブケイク

左ききのエレン(5): エレンの伝説
かっぴー
ピースオブケイク

左ききのエレン(6): バンクシーのゲーム
かっぴー
ピースオブケイク

左ききのエレン(7): 光一の現実
かっぴー
ピースオブケイク

左ききのエレン(8): 物語の終わり
かっぴー
ピースオブケイク

左ききのエレン(9): 左ききのエレン・前
かっぴー
ピースオブケイク

左ききのエレン(10): 左ききのエレン・後
かっぴー
ピースオブケイク


文系大学生がデータ分析を学ぶために

2017-11-13 15:03:11 | Weblog
これからはたとえ文系人間でも、データ分析のスキルを身につけておいたほうがよいと多くの人が指摘している。しかし、文系学生が大学でいきなり統計学の授業を受けてもすぐに挫折してしまう可能性は高い。その一因は、彼らの多くが大学受験で進学先を私立文系に絞り、数学をあまり勉強していないからだが、それだけではない。

統計学の授業はいきなり抽象的な話から始まることが多く、文系の学生にはまったく興味が持てないのである。だとしたら、彼らが興味をもつ事例を取り上げ、数理的裏づけはとりあえず置いて基礎的な統計手法がどう使えるかを示せばいいはずだが、言うは易く行うのは難しい。そんな古くて新しい課題に挑戦したのが本書である。

データ分析をマスターする12のレッスン
(有斐閣アルマBasic)

畑農 鋭矢, 水落 正明
有斐閣

本書を読んで面白いのは、単に平易に書かれているからだけでなく、面白く書かれているからである。本書の前半には、筆者の一人が少年野球の監督をしながらセイバーメトリクスを実践した例や「阪神タイガース債」の需要曲線という話題が出てくる。データ分析が役に立つ領域は予想外に広く、そして楽しいものであることがわかる。

本書が想定する読者は、第一に経済学、そして計量的なアプローチをとる各種の社会科学を学ぶ大学生(と彼らを指導する教員)だろう。経営学やマーケティングの学生はやや志向が異なるとはいえ、本書に盛られた知識を知っていて損はない。経済分析で用いられるテクニックは、これまでも経営学・マーケティングで重宝されてきた。

マーケティングを教える立場からいえば、実務でよく用いられる因子分析やクラスター分析、せめて主成分分析あたりが紹介されているとさらにうれしかったが、あまり内容を膨らませると、コンパクトな教科書としての魅力が失われてしまう。本書を授業で用いる場合、各教師がさらに必要と思う内容を補っていけばすむ話であろう。

後半でパネルデータの分析やロジット/プロビット・モデルが扱われているのも類書にない特徴である。ただし、マーケティング・サイエンスでよく用いられる選択モデル(条件付ロジット/プロビット・モデル)はさすがにカバーされていない。そこまで学びたいという奇特な学生がいた場合、次に以下の本に挑めばよいだろう。

マーケティング・モデル 第2版
(Rで学ぶデータサイエンス 13)
里村 卓也
共立出版


なお、私は本書の著者とプロジェクトをともにしたことがあり、また一人とは同僚でもあるので、私の評価にはバイアスがあるかもしれない。しかし、本書の売れ行きが好調であることから、本書が多くの読者(特に教員)に歓迎されていることは間違いない。その理由は店頭で本書をめくってみると、たちどころにわかるはずである。

JIMS部会「インフルエンサー」祭り

2017-10-10 17:38:53 | Weblog
先週末の JIMS「マーケティングの計算社会科学」部会では、インフルエンサーに関する2つの研究が発表された。それを紹介する前に、インフルエンサーということばがいつ頃から流行り始めたかを確認しておこう。"influencer" および "opinion leader" ということばが検索された頻度の推移をGoogle Trends で調べると、以下の図のようになる。


*最高の水準が100となるよう基準化されている

これを見ると、influencer ということばは2015〜16年あたりに急に関心を集め始めたことがわかる。一方、opinion leader ということばへの関心は徐々に低下している。次の図は、以前流行っていた buzz marketing や viral marketing への関心が低下し、それに代わって influencer marketing への関心が急速に高まっていることを示している。



こうした変化はマーケティングの実態面での変化を反映しているのか、単なるバズワードの変化なのか、いろいろ議論がありそうである。オピニオンリーダーという概念は1940年代に誕生し、その後もイノベーターやマーケットメイブンといった関連する概念が次々生まれてきた。それらの関係を調べることも、疑問への1つの解答になるだろう。

最初に報告された名古屋商科大学の山田昌孝先生の研究は、インフルエンサーからイノベータあるいは高感度人間まで、これまで提案されてきた(またご自身の開発された)さまざまな項目を用いて、オーガニック・インフルエンサー尺度を構成することを提案する。そして、それと楽天が付与しているレビュアー格付けとの関係を分析する。

楽天の格付けがインフルエンサーとしての「実態」を表し、それを上述の尺度が再現(予測)できるなら、当該尺度の有効性・実用性が示される。実際に分析してみると、レビュアーの格付け上位層の間については予測精度が高い。他方、新製品の採用を予測するなら、インフルエンサー尺度よりもイノベーター尺度だけを用いたほうがよい。

ソーシャルメディア上で観測される行動データの分析が主流になりつつあるなか、自己申告された尺度に基づきインフルエンサーを分析するのは一見オールドファッションに思える。しかし、行動データでは見えないインフルエンサーの顔がさまざまな質問項目への回答から読み取れる。その意味で、こうしたアプローチは大変価値があると思う。

2番めは私と阿部誠先生(東京大学)、新保直樹さん(リブセンス)との共同研究で、インフルエンサーマーケティングのターゲット選択(いわゆるシーディング)を扱っている。だいぶ前から進めてきた研究だが、現在はシーディングに費用がかかるときの収益性を分析している。先日ネットワーク生態学シンポジウムで発表した内容とほぼ同じだ。

われわれが分析した iPhone に関するツイートの連鎖に関する分析からは、インフルエンサーの影響度以上にフォロワーの被影響度に異質性(個人差)があることがわかったので、それをシーディングに反映させることが望まれる。ところが、フォロワー数の多いインフルエンサー(いわゆるハブ)を優先的にシードにしてもそう悪い結果にならない。

シーディング費用がフォロワー数に比例して大きくなる場合でも(フォロワーの多いユーチューバーやインスタグラマーほど関係構築に費用がかかるという設定)、それが一定の範囲にとどまるならハブをシーディングするのは悪くない戦略になる(もちろん、労を厭わなければ、われわれが提案する準-最適化アルゴリズムがそれを上回る結果を出す)。

…という結果なのだが、もちろんケースによって結果が違ってくるだろうから、一般化は課題として残る。しかし、とりあえずは早く論文にしなくてはならない(…とこれまで何度語ってきたことか)。懇親会では久しぶりに味噌鐵カギロイを訪れた。かつてはランチの楽しみの1つであったホイル焼ハンバーグにも再会でき、総じてよき夜であった。

『パパは脳研究者』を読む

2017-09-29 08:39:49 | Weblog
著者の池谷裕二氏は、脳に関する数々の啓蒙書がある、有名な脳研究者である。一度池谷氏の講演を聴いたことがあるが、軽妙な語り口とユーモアで聴衆を沸かせていたのを覚えている。本書『パパは脳研究者』は、その池谷氏がご自分のお嬢さんについて記した成長記録・育児日記であり、赤ちゃんを題材にした脳・神経科学あるいは心理学の解説書である。

パパは脳研究者 子どもを育てる脳科学
池谷裕二
クレヨンハウス

私がこの本を読んだ理由の1つは、以前から人の嗜好は何歳ぐらいから、なぜ発生するのかに興味があったからだ。本書にはそうした興味に応えてくれる箇所がいくつかある。1つは、どこの国の赤ん坊は甘い味を好むこと。ただし、その真相は、甘みではなく糖分を求めていることが実験でわかっている。こうした選好は、生物の適応戦略として理解できる。

もう1つ、池谷氏が育児を通じて気づいたのが、食べものへの嗜好の個人差はゼロ歳児の段階で現れるということだ。本書にその原因についての言及はない。遺伝的要因なのか環境的要因なのか…嗜好に個人差があることが、その社会の発展にどういう効果を持つのか…私自身は、特に後者の観点から嗜好の個人差が生じるメカニズムを知りたいと思っている。

それは自分の関心に即した話だが、本書は基本的に、科学的裏づけを持つ育児の参考書だといえるので、幼い子どもを持つ(予定のある)親たちや、子どもの生育に興味を持つ幅広い人々に強くお勧めしたい。池谷氏の他の著書と同様、非常に読みやすく、微笑ましい文章で書かれている。版元は絵本の出版社なので、挿入されているイラストも素敵である。

ネットワーク生態学@JAIST

2017-08-22 16:35:40 | Weblog
ネットワーク生態学シンポジウムに数年ぶりに参加した。今回で14回目を迎えるこのシンポジウム、これまで何回か参加し、発表したこともある。自分にとって記憶に残るのは3.11のときの蔵王でのシンポジウムだ。地震で雪山に取り残され、帰り着いたホテルも停電していたため、事態の全貌がわかったのは翌日になってからであった。

今回、北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)で開かれたシンポジウムでは阿部さん、新保さんとの共著「インフルエンサー・マーケティングの収益性分析」を発表した。諸先生からコメントをいただき、もっと多くのケースに適用して一般化していきたいと思うが、その時間も人手も(先立つ資金も)ない。とりあえず論文執筆を急ぎたい。

それはともかくチュートリアルが勉強になった。最初の講義は鬼頭朋美「産業ネットワークの複雑さを紐解く:企業の多様性と繋がりの非均質性」。社会の現実のディテールに真摯に向き合いつつ、ネットワーク分析の高度な技術も使いこなしていく鬼頭さんの研究にはいつもながら感服する。自分とは研究対象が違うがインスパイアされる。



2日目のチュートリアルは林幸雄「ネットワーク科学最前線2017 -インフルエンサーと機械学習からの接近-」。従来の中心性とは違うインフルエンサー識別の基準(Collective Influencer)やネットワークの頑健性をめぐる玉葱状構造の研究が紹介される。物理学や工学でのインフルエンサー研究の最先端を垣間見ることができた。

そうした研究におけるインフルエンサーとは、そのノードを攻撃(除去)するとネットワーク全体にどれだけ影響するか、という観点で評価されているようだ。それがマーケティングや世論研究などでいうインフルエンサーとどこまで同じなのかを考えさせられる。その背景にある、ネットワークの可視性や安定性に関する違いが気になる。



最後のチュートリアル、松林達史「非負値テンソル因子分解とデータ分析技術」は、タイトルだけ見ると敬遠したくなるが、実はマーケターにとって興味深い話だった。個人×製品×店舗×時間…のような多次元のビッグデータから効率的にセグメンテーションするのに使えると期待される。なお「因子分解」と「因子分析」は似て非なるもの。

一般発表では、取引ネットワークや選挙関係のツイート分析の研究もあったが、大半は通信工学や疫学など、いかにも理工系的な研究であった。個人的に面白かったのは、音楽の「引用」(カバーやサンプリング)の分析であった。なお、このシンポジウムを後援する数理社会学会のプレゼンスはなく、いまさらだが文理の溝は大きいと感じる。

マーケティングの計算社会科学

2017-08-20 08:45:19 | Weblog
在外研究を終え4月から「通常営業」中だが、それと同時に日本マーケティング・サイエンス学会の部会も立ち上げることにした(個人的には「再開」したといいたい)。新たな部会名は「マーケティングの計算社会科学」である。この名称がわかりにくいとしたら、1つにはマーケティングと計算社会科学が「の」で結ばれているからだろう。

部会名を「マーケティングのための計算社会科学」という名称にすれば、もう少しわかりやすかったかもしれない。「マーケティングを対象とした計算社会科学」という名称だとさらに長ったらしくなるが、意味はより明確になっただろう。しかし、あえて曖昧な名称にしたのは、計算社会科学の範囲をあまり狭く限定したくなかったからである。

そもそも「計算社会科学」とは何なのか。7月22日に行った最初のセミナーでは、この分野の第一人者である名古屋大学の笹原和俊さんに「越境する計算社会科学」と題するチュートリアルをお願いした(スライド)。計算社会科学が登場した背景にはビッグデータの興隆があるが、笹原さんは特にソーシャルメディア上で観測されるデータに注目する。

そうした研究の一例として、セミナーの後半では笹原さん自身の研究「食と政治の右左:分断の計算社会科学」が報告された。いわゆる「フード右翼・フード左翼」という仮説が、Twitter上の投稿の分析によって検証される。また、米大統領選以降話題になることが多い「エコーチェンバー」現象についてのエージェントモデルも紹介された。



2回目の研究会は8月9日、ニューヨーク大学の石原昌和さんを招いて行った。発表されたのは以下の2題である:

"Uncovering Latent Consumption/Purchase Occasions Using Observational Data on Brand and Quantity Choices"
"A Dynamic Structural Model of Endogenous Consumer Reviews in Durable Goods Markets"

前者は6月の Marketing Science Conference でも報告された研究で、私も共著者の1人である。そこで分析に用いられたスキャナーパネル・データもまた、ビッグデータの一種といえる。このデータが登場したとき、高名なマーケティング研究者は、マーケティング・サイエンスにおけるチコ・ブラーエが登場するという期待を表明したものだ。

その後、スキャナーデータを用いたマーケティング研究の進歩は目覚ましい。一方で、同じような精度で購買行動を計測できないカテゴリがあるし、使用場面を含む幅広い消費行動へのアプローチはまだまだである。ただし、石原さんの2番目の発表のように、デジタルメディア上のデータ(顧客レビューなど)が新たなフロンティアを生み出している。



マーケティング・サイエンスもまたビッグデータを用い、また膨大な計算量を要する分析を行っているので、それはすでに「計算社会科学」だといえるかもしれない。問題はむしろ、それが「社会科学」かどうかにある。経営科学としての成否を超えて、社会を理解するツールとして役立つかどうかということを、この部会で探求していきたい。


JIMS@慶應義塾大学

2017-06-24 13:51:29 | Weblog
6/17〜18、慶應義塾大学(三田)で日本マーケティング・サイエンス学会(JIMS)の研究大会が開かれた。初日は170名ほどの参加者があったという。特に非会員の実務家が多数聴講されていたとのこと。マーケティングのデータ解析への関心が高まるなか、JIMS が他のマーケティング系学会以上に実務家から関心を持たれるのは当然といえる。

今回の人気の背景には、レビューワークショップが3つも開かれたことがある、という話もある。レビューワークショップとは、数人の研究者が組んで特定テーマに関する論文レビューを行い、研究大会で報告するという企画である。今回は「機械学習」「オムニチャネル」「新メディア環境」という3つのテーマに関してそれぞれ報告があった。

私は「新メディア環境におけるマーケティング革新の研究」というテーマに関し、導入となる話をした。相互引用数でこの分野の重要論文を調べた研究によれば、「クチコミ」「ソーシャルネットワーク」を取り上げた研究が圧倒的に多い。つまり、消費者へのエンパワーメントという大きな変化が、研究者たちを惹きつけてきたといえる。

このトレンドが進むと、ビジネスのあり方は大きな変容を迫られる。実際、シェアリング・エコノミーに代表される新たなビジネス・プラットフォームが現れている。そこで山本晶さん(慶應義塾大学)に引き継いだ。C2C経済的インタラクションがビジネスとして急成長し、学界に対して新たな研究課題を提供していることが報告された。

他方、エンパワーメントには一見逆行する動きもある。インターネットの草創期に注目された消費者の意思決定の代行という課題が、最近になって再び注目を浴びてきた背景には AI や IoT というテクノロジーの登場が大きい。そうした変化がもたらすマーケティング・サイエンスの課題について、大西浩志さん(東京理科大学)が報告した。



学会の時間的制約上、それぞれのテーマについて深入りすることができなかったので、秋にもミニ・シンポジウムを開き、論文執筆の動機づけとしたいと考えている。参加者に役立つ情報を提供することが基本だが、各テーマに詳しい研究者や実務家にお越しいただき、有用なコメントをもらって論文の完成度を高めたいという狙いもある。

学会全体の話に戻ろう。この学会は通常2つのトラックからなる。1つ目は「非集計購買データに確率モデルを適用、MCMCでパラメタ推定」といった感じの研究が数多く発表されるトラック。もう1つは「その他」である。「その他」トラックで扱われる問題や用いられる方法は幅広い。私の発表は「その他」に割り当てられることが多い。

最初に述べた実務家の参加者を含め、1つめのセッションのほうが聴講者が多いように思える。そちらのほうが他の学会では聴けない、JIMS ならではの発表が多いので、そういう選択になることは理解できる。しかし、そこで扱われる問題は行動データが整備された領域に限定されるので、それ以外の問題に関心がある人は不満を感じるだろう。

その意味で「その他」セッションの役割が重要になる。そこが活性化することこそ、JIMS の幅広さや先端性をアピールすることにつながる。Marketing Science Conference と比べるなら、デジタル・マーケティング系の発表はもっとあっていいはずだ。ミクロな消費者心理はもちろん、文化や社会といったマクロレベルの研究だってほしい。

ということもあって「マーケティングの計算社会科学」という部会を JIMS で立ち上げた(次の大会から報告の予定)。「計算」の部分は MCMC だってある意味でそうなので、自分としては「社会科学」という面を強調したい。マーケティングの視点から、計算機を駆使して広く社会現象を科学する研究。面白いと思うんだが、うまくいくかな?




Marketing Science Conference@LA

2017-06-21 08:42:45 | Weblog
6/7-10に LA の南カリフォルニア大学で開かれた INFORMS Marketing Science Conference に参加した。例年のように1,000人ほどの参加があった模様。参加者の世代交代は少しずつ進み、特に中国・韓国系の若手が目立つ。全体としては少数とはいえ、日本から参加する若手、そして院生(特に慶応の)が以前より増えている。



いまはどんな研究が旬なのだろう?たとえばシェアリング・エコノミー。10の並行セッションのうち1つが、ほぼ連日そのテーマに当てられる程度には関心を集めていた。機械学習のセッションは以前より増えているのではないか。構造推定はもちろんだ。そして、ソーシャルメディアやインフルエンス関係も依然として多い。

自分の関心に沿って選んでいくと、どうしてもインフルエンサー関係の発表を聞くことになる。研究の焦点はインフルエンサーの存在云々から、そうなりそうな人を早期発見するといった応用の方向に進んでいるという印象を受けた。こうした「進歩」は、このテーマで論文を執筆中の自分としては、大変困った傾向である。

今回私が参加したのは、石原昌和さんや Jessica An さんとの共同研究の報告に参加するためだ。題して "Uncovering Latent Consumption/Purchase Occasions from Observational Data on Brand and Quantity Choices" ... 昨年発表した期間限定品の研究から派生し、広範な地域・カテゴリのデータを分析している。



消費者が期間限定品を買うのはバラエティシーキングとして説明できそうに見える。同じ銘柄のビールを飲み続けていると飽きる。一方で、同じ消費者のなかで同じ銘柄を選び続けるロイヤルティも観察される。一見、消費者の選好が一貫していないように見えるが、同じ消費者が異なる状況に置かれていると解釈すれば辻褄が合う。

こうした現象は、期間限定品に限られるわけではない。消費者の選好が消費・購買のオケージョンで変わるということは、現場のマーケターはすでによく理解しているはずである。それを確認するために、ふつうは質問紙・面接調査が行われる。しかし、それなりの費用がかかるので、そうしょっちゅう実施できるわけではない。

一方、多くのパッケージグッズについては、世帯または個人の購買履歴データがつねに収集されている。そこから潜在的なオケージョンによる選好の違いを推測できれば、実務的に大変便利なはずだ。さらにそこから、消費者や製品のセグメンテーション(後者は市場構造分析などと呼ばれることもある)を行うこともできる。

これは、選好の世帯内異質性と呼べなくもない。今回の会議でもこうした現象を取り上げた研究がいくつかあったが、世帯の成員の選好が異なることに注目していた。われわれの研究はそうではなく、一人の個人ですら状況によって選好が系統的に変わり得ることに注目している。独自性の高い研究だと思うのだがどうだろう?

会議全体の話に戻ろう。今回の Marketing Science Conference には、これまでにない変化がいくつかあった。よいことでいえば、最終日を含めて毎晩レセプションがあったこと、ディナーのステーキが見事でワインが飲み放題だったことなど。当たり前のように聞こえるが、ここ数年、残念な思いをすることが多かった。



この会議は来年はフィラデルフィア、再来年はローマで開かれる予定。ローマ大会は日本からの参加者も多そうだ^^