Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

近代天皇の意味、国体

2016-08-11 | 文学・思想
ツィッターなどを見ていると、日本国民の多くはどのような職業についていてもあまり変わらないと思った。天皇を知らない、もしくは自国の権力構造というものに無頓着という事だ。要するに少々学問をしていると自ら信じている人たちが、先にも書いたように科学的な思考に達していないという事なのである。

「天皇が個人であり、それを尊重する」などという論調はどうしたことか?ここが分かっていないと、立憲君主制も美濃部の天皇機関説も分からないだろう。王権などの支配権を盤石とする権力の正統性つまり権威がどこからやって来るかは西欧のその歴史をみれば明白である。同じように古いプロシア憲法を参考にしながら天皇制を取り込んだ訳であるから、その天皇の権威にはそれなりの根拠がある。要するに天皇は決して個人ではない。このようなことは子供の時に考えたことがあるが、その時の共和主義者としての解決方法は「選挙権を持った皇居煎餅の元祖として平民化して貰う」というアイデアだった。それに近いような論調には本当に呆れた。

それに関して、フランクフルターアルゲマイネの特派員パトリック・ヴェルターが流石に上手に纏めている。老舗のズルヒャーツァイトュングの記者もしているようで、なにか慣れないような感じもみられたが、流石に超高級紙に書くジャーナリストは伊達ではない。

彼は書く、その生中継を観る日本人を観察していて、必ずしも皆が何を差し置いても耳を傾けるようなことはなくて、だから天皇は市井の人々に直接訴えかけるために人間的なお面を被り、馴染みやすいように努力する必要があったとする。多くの人、特に若い日本人にとっては天皇などは生活において余白でしかないのだからと観察する。

しかし、そのように装って今回為された明仁天皇の発言こそは、今までの就任直後からの品行方正な「役人の操り人形」のような、そして親しみやすい一つ目の天皇像だけではなく、それ以上に二つ目の顔である民主主義的な、アジアでの戦後の日本像や、右翼修正主義者に対抗する戦争責任への言及の平和主義日本の天皇像を示す以外の何ものでもなかったとする。同時に、世論調査から、「象徴天皇」への支持は85%に達しており、「天皇不要論」は10%を割って、「天皇主権」はそれ以下の支持しかない状況が長く安定的に続いている事実を挙げる。

そして、生前退位への希望を可能にするとは、侵略戦争と共にあったを戦前の超権力の天皇への回帰から撤退することを意味するとある。だから、日本は今週の世界のスペクタクルなニュースとなったのだとしている。同時に、明治以降近代日本の立憲君主制の天皇の意味合いを知らしめて、その区切りとしたとする。それは、右翼筋には、天皇の希望に沿わないようなありとあらゆる努力させることを意味することになると社説を締めくくっている。

カトリック教会においてもフランシスコ教皇などが同様の努力をしているが、どちらも秘儀があってこその権威である。その点においても、明仁天皇の思考は当然のことながらそこまで熟慮されているものと想像される。同時に今回「市井」との言葉が使われた。安倍政権などに50数パーセントの支持率があり、首都東京にポピュリスト知事が当選したように、改憲提議そして国民投票への危機感からも日本津々浦々の人々に呼びかけたのだろう。あとは本当のジャーナリズムや文化学識に携わる人々の科学的な思考とその表現力に掛かっている。象徴天皇におんぶにだっこばかりの生かされている日本人では、一体何のために近代化の歴史があったのかさえも分からなくなる。



参照:
Japanische Scharade, Patrick Welter, FAZ vom 10.8.2016
象徴天皇を庇護するとは 2016-08-10 | 文学・思想
山本太郎よりも厄介な天皇 2013-11-06 | マスメディア批評
期待する三宅洋平効果 2016-07-10 | マスメディア批評
退位の緊急事態への一石 2016-07-15 | 歴史・時事
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