パンダ イン・マイ・ライフ

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音楽と本、そしてちょっとグルメなナチュラルエッセイ

坂の上に浮かぶ雲

2010-01-31 | book
「坂の上の雲」。司馬遼太郎のロングセラー歴史小説である。

開国後の明治を舞台に、極東の島国日本が、世界に吹き荒れる帝国主義の中、「国」というものに初めてぶちあたった日本人を描いた名作。決して明治賛美ではなく、現代の我々にその進路を問う大作である。

35年の生涯をまさに怒涛のごとく生きた、俳壇の巨星、正岡子規。明治35年(1902)死去。
昭和5年(1930)に71歳で没した、陸軍大将、騎兵団の秋山好古(よしふる)。
大正7年(1918)に49歳で没した、海軍中将、好古の弟、名参謀の秋山真之(さねゆき)。
愛媛県松山市に生まれた3人の日清、日露両戦争の生き様を描いた。

この「坂の上の雲」は、文庫で全8巻。正岡子規は、3巻の序盤で亡くなり、日露戦争が始まる。4巻は陸軍の旅順攻略、5巻は203高地の大激戦と黒溝台会戦、6巻は黒溝台会戦、7巻は奉天会戦、そして8巻は日本海海戦が主に。このように構成的には、日露戦争の記述が半分以上を占める。確かに長い。
戦記小説でもあるわけだが、ロシアはもとより、イギリス、フランス、ドイツ、アメリカはもとより、中国、韓国、ベトナムなどアジアの国々など、まさに世界規模のさまざまな情勢を分析しながら絡ませるルポルタージュでもある。

単なる英雄、天才論ではないこの小説には、さまざまな教訓、司馬からのメッセージが込められている。
この小説は、昭和43年(1968)から5年間にわたり掲載された新聞小説である。そこに司馬は「日本の新聞はいつの時代にも外交問題には冷静を欠く刊行物であり、そのことは日本の国民性の濃厚な反射でもあるが、つねに一方に片寄ることの好きな日本の新聞とその国民性が、その後も日本をつねに危機に追い込んだ」としている。(文庫7巻「退却」)
また、作家の池澤夏樹は、「この歴史小説に読み取るべきはロシアの敗因にあるだろう。悲惨な結果に終わったことを、敗者への侮蔑ではなく冷静な分析の姿勢を持って読む」とも。そして、NHKテレビでの放映を「無責任な天才待望論に導きはしないだろう」と末尾に述べる。
(平成22年1月10日朝日新聞)

実は、1982年、今から28年も前にこの文庫を読もうと購入した。しかし、挫折し、今、やっと薄茶けたページをめくり続け、読破することができた。
列強のひしめく明治において、極東の地で多くの血が流され、日本は世界の渦の中に飛び込んでゆく。坂の上にある雲。その坂を多くの人が今も登り続けている。

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