パンダ イン・マイ・ライフ

ようこそ panda in my lifeの部屋へ。
音楽と本、そしてちょっとグルメなナチュラルエッセイ

若葉の宿

2018-06-24 | book
中村理聖(りさと)の新刊、2017年6月書下ろしの「若葉の宿」を読んだ。中村は1986年生まれ、31歳。2014年に文芸誌新人賞。

京都を舞台に、21歳の夏目若葉の成長と自立を描く。町屋旅館の山吹屋の娘、若葉は、祖母と婿養子の祖父に育てられた。母親は失踪し、行方知れず。父もわからない。そんな境遇で育ち、高校ではいじめに遭い、友人は東京出身の同級生、紗良一人だった。その紗良は舞妓の修業にいそしんでいた。

若葉は、就職もせずにいたが、伝手で京都の老舗旅館、紺田屋の仲居として働いていた。

いつも自信がなく、自分に誇りのもてない若葉。そこに紺田屋の経営が傾き、従業員の間にも何やら不安が広がっていた。予約バッティングのトラブル、祖父の入院、祖母の甥の山吹屋譲渡の誘いなど、次々に苦難が襲い掛かる。

若葉を温かく見守る紗良や、紺田屋の見習い板前の2歳年下の慎太郎。

京都の夏から春を描き、さまざまな風物詩の紹介とともに、旅館らしい食べ物や草花も織り交ぜながら、京都弁の世界に浸ることができる。31歳の新鋭、なかなかやるな。


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終電の神様

2018-06-17 | book
阿川大樹の「終電の神様」を読んだ。2017年2月刊行で8月には11刷。
1954年生まれの小説家、推理作家。1999年にデビュー。その間、劇団の作曲家、半導体技術者などを経ている。

電車に絡む題材を7つの話にちりばめ、今を生きる人たちの生きざまを、温かく包み込む。2014年から2016年に書けて発表した6話と書き下ろし1話。

化粧ポーチ
終電が、他駅の事故のため立ち往生する。私は32歳。その車内で、男性が痴漢行為に及んでくる。そこにメールが。妻(?)が救急車で運ばれたと。
ブレークポイント
ITのプログラム企業に勤める片山。」小さな企業で経営も厳しい。受注した仕事の期限が2か月後に迫っている。しかし、間に合わない。そんなとき、社長が1日の強制休暇を皆に与える。その日を前にして、帰宅の電車が止まる。そして乗り継ぎの駅では終電の電車が出ていた。歩いて家へ帰る途中にボクシングジムの明かりを見つける。
スポーツばか
智子の彼は競輪の選手。上のクラスを狙うために、日々鍛錬を重ねている。転戦しているので、デートは限られている。そのデートの夜、和美は一人、飲みに出る。その帰りの電車が、他駅の事故で立ち往生する。恋の結末は。
閉じない鋏
酒場で隣り合わせになった客が、自分の実家の理髪店を知っていた。そこに母親からメールが入る。お父さんが危うい。父は病気で入院していた。俊和は電車に乗るが、トラブルで止まってしまう。父との思い出。自分も学校へ通い、理容師の免状はもっていた。
高架下のタツ子
29歳の沙也は彼に会いに、高架下のアトリエに行く。そこに通りかかった女装のタツ子。タツ子は、小さい頃からの思い出を語り出す。小さい頃の母親との海水浴の思い出。漫才師からシナリオライターに。相棒の脱落。その結末。その高架で電車が止まった。
赤い絵の具
高校生の仁美は、クラスで一人でいるのが好きな子だった。いじめも何のその、絵が好きになり、学校をさぼって公園に出かけていた。美大に進むと決めた仁美は、その公園で手首を切る。いじめをしていた男子の富田が休みはじめた。心配になり、富田に会おうと出かけた。その途中、駅で富田を見かける。
ホームドア
広田喜美子は、息子が小2の時から25年間、駅のキヨスクで働いている。20の時、妊娠し、駅のホームで突き落とされ、女装の男性に助けられるが、名前もところもわからないままだった。駅に乗降用のホームドアが設置されることになり、キヨスクが撤去されることになる。

電車、駅、そこに集まる人々。そして、移動のための電車が思索の空間となる。そういえば、見ず知らずの人たちが、二度と会わないであろう人たちが、偶然に乗り合わせる。7作とも、それぞれ悩みを抱えた主人公が、人と出会い、ある出来事で、決断をする。
すっきりした読後。多くの話題が盛り込まれ、短編だが、読み応えあり。オムニバスのテレビドラマを見ているようだ。
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いのち

2018-06-03 | book
1922年5月生まれの瀬戸内寂聴が、2017年12月に95歳で刊行した「いのち」を読んだ。

今、20代の秘書の瀬尾さんを従えて、邁進する。2016年から月間文芸誌に連載中に病に倒れ、手術もし、なんとか2017年7月に完結した。

直近の病の経過から、徳島を後に京都、東京と作家人生を歩んで70年。その間、交誼を結んだ作家、4歳年下の河野多恵子、さらに4つ下の大庭みな子との友情と愛憎、夫婦の営みを、そして多くの作家たちとの交流を赤裸々にかつ克明に描いた。

河野は平成27年、2015年に、大庭は、平成19年、2007年に逝去する。

これまで生かされた命、そして、死に向かって確実に進む日々をどう生きるかが、「いのち」なのだろう。

しかし、作家というものは壮絶な職業だな。とにかく走り続けなければならないのだ。
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