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パンダ イン・マイ・ライフ

ようこそ panda in my lifeの部屋へ。
音楽と本、そしてちょっとグルメなナチュラルエッセイ

瀬尾まいこ⑮ 君が夏を走らせる

2025-06-15 | book
瀬尾まいこの15作目となる「君が夏を走らせる」を読んだ。2017年月刊行。月刊文芸誌2016年12月号から翌2017年6月号まで掲載。高校2年の16歳の俺、大田くんの21日間の子育て奮闘記だ。

小学校の頃から授業をまともに受けず、タバコを吸い、髪を染め、教師に反抗ばかりしていた。高校にもろくに行かず、さきのことはもちろん今やりたいこともわからず、派手な格好してふらふらしている。不良を引き受けるだけの高校に入学した。半数が卒業までにやめていく。2年夏を迎えようとしていた。必死、誰かのために、全身全霊を動かしている快感、一つ一つの目標を共に超えていく満たされた時間、あの中学3年生の駅伝の経験をいつも忘れられずにいた。

18年連続で中学校駅伝の県大会に出場している、山深い市野中学校を舞台に繰り広げられる中学生群像。12作目となる2012年10月刊行の「あと少し、もう少し」で登場する2区を走った金髪喫煙の不良大田くんだ。

7月、そんな俺に、3歳年上の同じ高校出身の中武先輩から電話が入る。昼間、子供を頼みたいというのだ。先輩は1年で中退するものの今は建築会社で働き、3歳年上の嫁さんと結婚して子どもがいた。奥さんは大学時代にバイトいていた料理屋で先輩と知り合い、結婚していた。実家と音信不通だった。その奥さんが出産のため入院することになり、1歳10ヶ月の娘の鈴香の世話をするものがいないという。予定日は8月4日だ。

鈴香がなかなか、なつかず、苦労する俺、料理や積み木遊び、公園でのママ友や同じ年頃の子どもたちとの交流。鈴香との泣き笑いの日々が続いていく。そんな時、いつもの「公園で、中学の陸上部の顧問上原先生と出会う。陸上部は公園のグラウンドで練習していた。3キロのタイムトライアルに誘われる。中3の熱い思い出が蘇る俺。そして8月8日の退院を迎える。

連発される幼児語に感心する。

瀬尾まいこ⑰ 傑作はまだ

2025-06-08 | book
瀬尾まいこの「傑作はまだ」を読んだ。2019年平成31年3月刊行。17作目。

加賀野正吉(まさきち)は50歳、大学最後の年に文学新人賞をもらい、それから作家業に入って今に至っている。一人暮らしで、30歳になった時、隣町の中古住宅を購入、20年になる。印税をもあり暮らしには困っていない。仕事以外は社会と隔絶した生活を送っていた。
26年前、大学を卒業して2年目だった。永原美月と出会い、一夜をともにした。3ヶ月後に子どもができたと言われ、養育料を毎月10万送り、返事の代わりに男の子の写真が送られてきた。それが20歳になるともういいといわれた。

その加賀野の家に永原智(とも)という青年がやってくる。正吉の息子だという智と、おっさんの生活が始める。智はフリーターで近くのコンビニではたらくことになったから、しばらく住まわしてくれという。
智の登場で、正吉の生活は変化を見せる。コンビニの店長笹野、自治会の森川、それとともにこれまでの作風だった人間の暗部、醜さを見るというものから心温まる小説への渇望が芽生える。
智は一ヶ月で出ていってしまった。心に穴が開く正吉。
正吉は、2時間かけて28年ぶりに両親の元を訪れる。そこで知らされた事実。美月と智のこれまでの生活が少しずつ明かされる。

瀬尾まいこ⑨ 僕の明日を照らして

2025-06-01 | book
瀬尾まいこの「僕の明日を照らして」を読んだ。2010年平成22年2月刊行。9作目。

今作は家庭内暴力と虐待、そして、シングルマザーがテーマ。舞台は中学校。反抗期真っ只中の2年生14歳の隼太(しゅんた)が主人公。冒頭の父から息子への虐待のシーンが強烈で、全編こうなのかと苦しくなりつつも、隼太の懸命に生き抜く力に励まされる。

生まれてまもなく父を亡くした隼太は、母のなぎさの女手一つで育てられてきた。母は昼間も働き、夜はスナックを営んでいる。つまり隼太は小さい頃から、夜は一人で過ごしてきた。そこに父親の優ちゃんという存在が登場する。

2年に進級すると苗字が、上村が神田になった。優ちゃんは隼太も通っている、家から近い神田歯科の歯科医。母さんよりも3つ下の30代前半だ。小学6年生ぐらいから母さんと付き合い始め、結婚した。

学校帰りに寄るスナックローズ。母と離婚して子どもを父にもっていかれた20代後半の靖子姉ちゃんと子どもを亡くした40過ぎの美雪おばさんの三人の店。
優ちゃんの虐待をなんとかなくそうと隼太は、カルシウム料理を優ちゃんに食べさせたり、虐待日記をつけたりして、努力を始める。
絵本が好きな隼太が学校の図書館で親しくなる図書委員の女子の関下。
陸上部でのスパイクシューズ事件、皆で勉強し合うクラスの風景、ipod盗難などの学園生活も折り込み、隼太は青春の屈折した日々を何かに抗いながら送る。

中2の心情と日常を細かに描き切る瀬尾の凄さ。いつもながら見事だ。

瀬尾まいこ⑪ 僕らのごはんは明日でまってる

2025-05-25 | health
瀬尾まいこの「僕らのごはんは明日でまってる」を読んだ。2014年平成26年4月刊行。季刊文芸誌に2010年から2011年にかけて掲載された連作4篇からなる。11作目。
同級生の葉山亮太と上村小春が主人公。出会いは中学生の時。人気者だった葉山に恋心を抱く上村。しかし、葉山は3年のときに2つ上の高校2年の兄が病気で亡くなる。死というものを理解しようと務める葉山は内向的になる。そして高校3年生になる2人。

米袋が明日を開く
高校最後の体育祭。上村は葉山を、二人で米袋に入り、ジャンプしながら50メートル行き、バトンを渡すリレー競技に誘う。一位になった上村は葉山に告白する。進学しないと決めていた葉山は、保育士になるため短大へ進学する上村の近くの大学を受験する。

水をためれば何かがわかる
高校3年の冬から付き合いだした二人。葉山は、大学で、断らない性格から「イエス」と呼ばれていた。友人もでき、バイトもこなす。アパートも借りて一人暮らしも始めた。葉山は上村ことをもっと知りたいと、家を訪れる。上村は、生まれてまもなく、祖父祖母に育てられていた。自分のことを語りたがらない上村。二人の感情はすれ違いを始める。葉山は自分探しのたびにタイへ出かける。

僕が破れるいくつかのこと
二人が付き合って2年が過ぎた。上村は保育士として働き出す。上村は、葉山に別れを切り出す。失恋に感情をコントロールできない葉山。振られて三週間。葉山は、合コンで知り合った同じ大学の鈴原えみりと付き合い出す。しかし、いつも上村と比べていることに気づく葉山。上村の家の前でやり直したいと申し出る。

僕らのごはんは明日で待ってる
葉山は大学を卒業し2年も立たないうちに上村と結婚する。上村は、子どもを持ちたいと考え、家庭というものを大切に考えていた。しかし、その上村は貧血で訪れた病院で産婦人科で精密検査を受けるように言われる。子宮に腫瘍があるらしい。

自分のこともよくわからない者が、異性と付き合い、暮らす。違いがあるのはあたりまえのこと。理解しようにも理解できないこともある。そして、自分の力ではどうしようもないこともあるし、起きてくる。それでも、一緒にいたいと思う。その感情に素直に、前向きに、真剣に応えようとする若い二人の生き方。

瀬尾まいこ⑦ 温室デイズ

2025-05-18 | book
瀬尾まいこの「温室デイズ」を読んだ。2006年平成18年7月刊行。文庫で2009年平成21年6月初板、令和6年2024年11月に23版のロングセラーだ。瀬尾作品7作目。

学校崩壊がテーマ。
冒頭、6年生のクラス。茶髪、赤い頭、自転車通学、遅刻、登校拒否が日常。先生との関係で荒れていた。主人公は2人の女の子。いじめられっこになるお金持ちのかわいい前川優子と、正義感のある中森みちる。みちるの母親は早くなくなり父親は理髪店をしている。近所にはやくざの息子で、同級生の伊佐瞬がいる。すでに不良だった。また、5年生から登校拒否になった斎藤くんがいる。優子は2学期から転校した。そして皆、中学3年生になった。

みちると優子は同じ中学校になり、三年生になった。卒業まで五ヶ月。
割れる窓ガラスやドア。先生の車も壊される。タバコ、落書き、押しピン投げ、そして、ものに飽きたら次は人だ。不良は不良。普通の生徒は普通の生徒。優子は伊佐を振ったことで女子からいやがらせの対象となる。なんとかしようと立ち上がるみちる。そして今度はみちるがいじめ、嫌がらせの対象になる。机がなくなる。ゴミや消しゴムがぶつけられる。教科書や持ち物がなくなる。だれも話しかけなくなる。近寄らなくなる。不良のやることには参加しない普通の子もいじめには参加する。いじめは楽しい。内申書にも関係ない。みちるは一人で過ごすようになる。先生は助けてくれない。優子は校内の相談室登校に、斎藤くんが唯一の話し相手だ。伊佐は時々学校にやってくる。斎藤くんは昼食のパシリをしている。
冬休みに入る頃、みちるは暴力を受けるようになる。優子は学校へ行けずに、母親のすすめでフリースクール「学びの部屋」へ通うようになる。そして、市内のカウンセリングルームへ。
2月、優子はみちるを助けるため、伊佐くんに近づく。みちるは毎週土曜日に優子の家を尋ねる。そして受験は訪れる。学校を休んでいても、暴れていても、金持ちは高校に進める。だれもがすんなりと高校に行けるわけではない。そして卒業記念のクラス奉仕の花壇整理が始まる。
学校とは一日の半分を過ごす場所。そこに縛られ、家庭でも縛られるこどもたち。中学教員経験のある瀬尾の筆致はリアルで恐ろしいほどだ。それでも子どもたちは周囲の顔色をうかがいながらも自立していく。学校、温室はいつまでも続かないのだ。しかし、先生の存在があまりに軽い。軽すぎる。