パンダ イン・マイ・ライフ

ようこそ panda in my lifeの部屋へ。
音楽と本、そしてちょっとグルメなナチュラルエッセイ

杉村三郎シリーズ「負の方程式」

2019-06-30 | book
宮部みゆきの探偵の杉村三郎シリーズ「負の方程式」を読んだ。この短編は、平成26年(2014)11月刊行の文庫版「ソロモンの偽証」全6巻の最終巻に収録されている125ページだ。杉村の一人娘も10歳になった。
杉村三郎シリーズは、ブログ掲載2017-03-20 「誰か」(2003年)。2017-04-02 「名もなき毒」(2006年)。2017-04-23 「ペテロの葬列」(2013年)。2017-09-24 第4弾「希望荘」(2016年)。

季節は8月。杉村は中学3年生の秋吉翔太の親から相談を受けていた。

それは6月に学校で行われた避難所生活体験キャンプでの出来事だった。翔太はD組21人の内、15人が参加し、7名の男子の中にいた。深夜、警備のベルがなった。男性の英語教師、38歳の火野が男子の部屋にやってきて、一人を犠牲にするミッションを命じたというのだ。キャンプリーダの下山、D組のクラス委員の三好、三好の親友の森本などが中心に決めたが、下山が帰りたくなり、学校を逃げ出した。しかし、火野はそんなことは言っていないというのだ。火野は職員会議で停職の命令を拒否し、部長を殴り、解雇されてしまう。

杉村は学校を訪れ、火野の弁護士、藤野涼子と出会う。また、火野宅を訪れ、火野には子連れの妻、瑛子がいた。さらに、キャンプに以下なかった生徒の家も訪れる。これらの様子から、
杉村が火野に抱いた疑念。杉村は藤野と共闘を申し出る。そして、翔太がいなくなり、瑛子もいなくなった。
生徒達か、火野か、どちらが本当なのか。大人と子どもの事情が組み合わさり、いずれもマイナスの結果になる。負の方程式の結末は。
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未必のマクベス

2019-06-23 | book
未必のマクベス
1967年生まれの早瀬耕は1992年に作家デビュー。22年という長い歳月を経て、長編2作目となる「未必マクベス」を2014年9月に発表。文庫化は2017年9月だ。

「未必(みひつ)」とは、将来そうなる可能性があること。「未必の故意」とは、犯罪事件を起こす意思はないが、それが実現すれば犯罪になることを知りつつ、その行為をする心理状態をいう。直訳すると、未(まだなってないけど)必(かならずなると思われる状況)の故意(わざとすること)です。

印刷会社の子会社のJプロトコルは、IT企業。そこに勤める中井優一は38歳。都立高校時代の同級生であり同僚の伴浩輔と仕事を成功させ、バンコクから香港へ向かう飛行機に乗っていた。その飛行機が澳門(マカオ)へ急きょ降りることになる。そこで出会った女性に中井は「王になって旅に出る」と告げられる。
優一は、恩賞功労でペーパーカンパニーのJ香港プロトコルの社長になる。秘書は35歳の日本人の森川佐和。伴は副社長だ。
中井と伴はJ香港プロトコルの売り上げの多くを担うHKプロトコルの株を、マカオのカジノで儲けた金で手に入れる。そのHKプロトコルの事務所に侵入した中井は、積木カレンダーが気になり、その中からUSBメモリーを見つける。そこには、高校時代に中井と同級生だった鍋島冬香からのメッセージがあった。冬香は中井を追い、HKプロトコルに就職し、データの暗号化に成功したが、暗殺者に追われる羽目になっていた。
冬香を追い詰める副社長の井上を殺す中井。行方不明になる伴。中井と付き合っている同僚の由紀子は退職して中井を追って香港へ。荒らされる中井の東京のマンション。優一の同期入社の出世頭の高木も優一に近づいてくる。中井に雇われた美貌の女性ボディーガードの陳。

マクベスの悲劇をモチーフに、バンコク、マカオ、香港、ハノイといった東南アジアの大都市を舞台に、ロマンスハードボイルドが展開される。


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刑事の血筋

2019-06-16 | book
祖父と父を警察官に持つ警察官兄弟の活躍。「刑事の血筋」を読んだ。2018年2月刊行。三羽省吾著。1968年生まれ。2002年文芸誌新人賞でデビュー。

高尾守巡査部長。津之神市にある津之神西署。刑事生活安全組織犯罪対策課強盗盗犯係。高卒で警察官になって15年。30代だ。
守が逮捕して釈放された木村正が死体となった。木村は県内を拠点にしている指定暴力団志道会と関わりをもち、資金源の一翼を担っていた。そして、木村は「ショー」という男を捜していたという。守たち西署のメンバーは県警の傘下に入る。
守の兄の剣は、警察庁の警視。刑事局刑事企画課に勤めている。その県警に剣が赴任してくる。刑事企画課の分室に配属される。部下は、女性警察官の27歳の小谷野のみ。
剣は、県警のきれいすぎる会計に疑念を持ち、派遣されていた。しかし、剣には父、敬一郎が最後に受けていたあらぬ噂の真実を確かめるという動機があった。父の敬一郎は現職の時、15年前に倒れ、直に亡くなっていた。生きていれば63歳。その最後の勤務地が津之神南署だった。

守の中学の同級生、志道会の石崎が守るに寄こしたサイン。木村の付き合っていた女性が現れる。そして、守たちは、志道会の資金源に行き着く。

剣は守が持っていた敬一郎の遺品のノートに興味を持つ。その剣が襲われる。

殺害の犯人が自首してくる。緑川翔30歳だった。

剣や守たちに立ちはだかる組織。守や剣は県警の暗部に迫っていく。

津之神西署の同じ官舎住まいの同じ係の久隅。守を指導してきた50過ぎの主任の警部補の堂園。係長の鳴島、警察OBの越川らがスクラムを組む。

そして、県警刑事部長の河合、県警組対課長の溝之木。県警刑事企画課長の野田。

剣と守の母、春江、剣の妻の志緒理、そして守の妻の美子が剣と守を支える。
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天龍院亜希子の日記

2019-06-09 | book
1986年生まれ。32歳の作家、安壇美緒の「天龍院亜希子の日記」を読んだ。2018年3月刊行。2017年のすばる文学賞新人賞作品。

東京に暮らす田町譲。27歳新卒でIT企業に就職。その後人材派遣会社に転職し、4年目になる。

同じ職場にいる途中入社の同期のふみか。先輩の岡崎女子の育休明け。ぎくしゃくする仕事場。彼女未満、友だち以上の早夕里は、実夫が倒れ、静岡に帰省している。
小学生の高学年の頃。その名前からクラスでからかっていた天龍院亜希子というクラスメイトのブログを見つける。

岡崎の2人目の妊娠に伴う退職。早夕里から父親に会ってほしいという電話が入る。
毎日の仕事の中で流されていく田町。でもそこには今を生きる若者の一生懸命の日常がある。

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密会 吉村 昭 55

2019-06-02 | 吉村 昭
「密会」昭和46年(1971)刊行
過去10年間に発表された短編を9作品。
男と女の機微を描きながらも、サスペンス性や、取材で培った民俗性、業界の実態を取り混ぜながら、構成の妙でぐいぐい読者を引っ張る。

「密会」昭和33年
大学教授を夫に持つ紀久子は、夫の教え子郁夫と関係を持つ。その密会の場で起きた自動車強盗事件。現場の模様を警察に告げるという郁夫に対してとった紀久子の行動は・・・。紀久子と郁夫の破滅の末路。サスペンスタッチの息詰まる作品。
「動く壁」昭和37年
警視庁警備部警衛課に属する逸見久男。28歳。総理大臣の身辺を警護するボディガードの日々を描く。その不安と影。そして久雄の死因とは。
「非情の系譜」昭和38年
50歳を過ぎた 葬儀屋の「私・武智」は火葬場で幼馴染の刺青師の白坂と30年ぶりに再会する。刺青師の日常と「私」の私生活。久々に交流が始まる。そんな中、白坂の中学3年生の娘が針を持ちたいと言い出す。
「電気機関車」昭和38年
父と継母との生活に違和感を感じていた「一郎」は、ある日、久々に父がスポーツランドへ行こうと誘う。それもあるアパートの一室に寄り、若い女とともにであった。
そして3人で向かうスポーツランド。その帰りに、女は交通事故に遭う。2人の女と父、そして「ぼく」の微妙な緊張感が溢れる作品。
「めりーごーらうんど」昭和41年
家庭生活に疎外感を感じていた圭吾41歳は、夜の散策を趣味としていた。その一つ羽田国際空港で出会った一人の女。家で待っているというその子に買ったメリーゴーラウンド。女のアパートに上がると、そこには異様な空気が流れていた。
写実性豊かな文章が最後のクライマックスを際立たせる。
「目撃者」昭和43年
不祥事で6年余りも東北の雪深い町に配転させられた新聞記者の久慈。偶然、列車事故に遭遇する。特ダネを狙うが。取材を通じてますます疎外感を募らせながら、良心の呵責に揺れ悩む久慈が選んだ選択とは。
「旅の記憶」昭和43年
圭一は、友人の島野の離婚した妻、峯子に付き添い実家の新潟に向かう。その途中の列車事故で、峯子と一夜を共にする。その2ヵ月後、圭一は結婚し、家庭を持つ。2年ぶりに島野を訪れた圭一は、子供を抱く峯子と出会う。
「ジジヨメ食った」昭和43年
45歳を過ぎた警察官の小西は、とある漁村の派出所に勤務している。そこで発見された女性の他殺白骨死体。20年前という時効寸前の事件を集落の暗部とともに描き出す。
「楕円の柩」昭和45年
竜夫は21歳。今の生活から這い上がろうと競輪学校を出て、初のレースに臨む。先輩選手の小早川の自殺や、事故で過去の栄光にしがみつきながらペダルをこぐ岸本。
競輪選手の孤独と光と影を描く。最後のレースの緊迫感溢れる文章が圧巻。

いずれも緊張感あふれる秀作である。再販を望む一人である。

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