パンダ イン・マイ・ライフ

ようこそ panda in my lifeの部屋へ。
音楽と本、そしてちょっとグルメなナチュラルエッセイ

狂犬の眼

2020-04-29 | book
柚木裕子が、ヤクザ、暴力団の抗争事件を元に、その世界を描いた「狂犬の眼」を読んだ。
2016年から17年にかけて月刊文芸誌に連載し、2018年3月に刊行。検察や刑事ものを手掛けた柚木が、暴力団の世界に取り組んだ。

関西での明石組と心和会の抗争。そこに広島県での抗争をからめる。
トラブルで山間の駐在所に飛ばされた広島県警の日岡秀一。そして、心和会の幹部、35歳国光。この2人を中心に、抗争に明け暮れる世界生きざまを
小料理屋の女将、晶子45歳が男たちの世界に花を添える。しかし、多くの組みと構成員の名前が出てきて、追うのがつらい。

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合理的にあり得ない

2020-04-26 | book
柚木裕子の「合理的にあり得ない」を読んだ。2017年2月刊行。2014から16年にかけて掲載した5つの短編。
主人公は、元弁護士で、30代前半の上水流(かみづる)涼子(りょうこ)。公にできないもめ事を解決する何でも屋、上水流エージェンシーを経営している。長いまつげに切れ長の目、日本人形のように整った顔立ち。腰まで伸びたストレートの黒髪。モデルのような上水流が、弱きを助け強きをくじく。痛快な5編。相棒は東大出IQ140の秀才、貴山伸彦。

1 確率的にあり得ない
従業員800名の建設会社の2代目社長の本藤。父を亡くし、相談相手は母親。そんな彼が銀座の会員制のクラブでママから先のことが見通せるという高円寺を紹介される。ボートレースの予測を当て、取引で悩む本藤に的確にアドバイスをする。本藤は高円寺と2年で5千万のコンサルタント契約を結び、高円寺に小切手をホテルのラウンジで渡す。その時に現れたのが、上水流良子。貴山を連れて現れる。

2 合理的にあり得ない
還暦を迎える神崎恭一郎。バブル期の資産運用で悠々自適の生活を送っていた。10歳下の妻、朱美と中学から引きこもりの一人息子の克也だ。朱美がここ3か月前からよく外出するようになった。そして、朱美がかなりの金額を引き出しているというのだ。妻は霊能力者と関わっていた。その詐欺師は上水流涼子という。神崎は涼子を問い詰める。涼子は、20年前の詐欺事件を持ち出す。

3 戦術的にあり得ない
上水流エージェンシーのお客は暴力団組織の関東幸甚一家。親分の日野は将棋好きで、同門の横山一家の総長、財前から勝負を申し込まれた。今、5勝5敗だが、ここ3戦は3連敗している。会場はいつも天童市のホテル。不正の証拠はないという。次に行われる対戦が最後になり、掛け金は1億円。なんとか勝ちたい日野は、涼子に成功報酬1割を申し出る。相棒の貴山は東大将棋部に在籍していた。

4 心情的にあり得ない
上水流エージェンシーに入った一本の電話。それは、6年前に涼子を陥れ、弁護士資格を失った相手、一代で大企業に成長させたグループの会長、諫間からだった。大学2年生の孫娘、久美を探し出して親元へ返してほしいと言う。久美はホスト上がりの25歳の広瀬に貢いでいる。諫間グループは経営不振に陥っているという。貴山は広瀬の身辺を洗い、久美の居所を突き止める。貴山との出会い。6年前の事件で知り合った新宿署の刑事、丹波。

5 心理的にあり得ない
大阪から上水流エージェンシーにやってきた依頼人。26歳の証券会社勤務の桜井由梨。2年前に借金を苦に自殺した父の遺した手帳を持って来た。貴山はその中の記号を野球賭博ではないかという。そこに書いてあったのが予土屋という男に父は騙されていたのではないかというのだ。涼子は新宿署の丹波刑事を使って、その男の素性を調べる。貴山が予土屋を追い詰める。

いずれも痛快な作品群。胸がスカッとする。続編を楽しみにしている。あり得ないシリーズを。
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渋江抽斎

2020-04-19 | book
森鴎外は、1862年2月17日(文久2年1月19日) - 1922年(大正11年)7月9日)の明治大正期の小説家、軍医。
この森の史伝「渋江抽斎(しぶえちゅうさい)」を読んだ。当時の新聞連載。1940年昭和15年岩波文庫。1999年5月改版。2018年17刷。
鴎外が大正5年に書いた作品。鴎外は大正11年に死去するので、晩年の作品だ。
史伝という形をとり、江戸末期の津軽藩の藩医だった実在の渋江の生涯を前半で。安政5年に54歳で亡くなる。後半は渋江没後の家族の今まで(大正5年)を描いた。

なぜこの作品を読んだか。それは地方新聞に2019年平成31年2月20日から掲載された宮本輝の「灯台からの響き」に、還暦過ぎ主人公、東京板橋に住む中華そばやの康平が高校を中退し、常連客の高校教師から勧められた本の一冊として、そして読む本がないときに手元に置き、繰り返し読む本として紹介されていたのだ。

とにかくたくさんの人物が出てくる。数多くの師たち。学者、医者、芸術家、単にその交友録を読んでいるようで単調だ。抽斎は江戸の後期、文化の時代に生まれ、安政に亡くなる。その子、長唄の師匠、四女の70歳の勝久(かつひさ)、本所に住む。7男の60歳の保(たもつ)。そして著述家の5男の脩(おさむ)の子、画家の孫の終吉、渋谷に住む。が現存していることから物語は始まる。

抽斎の4人の妻たち。その中でも最後の妻、五百(いお)の物語は、全編に及ぶ。武勇伝もあり、江戸から津軽、浜松など家族を守りきる。後半には保や勝久の人生も盛り込まれる。
抽斎には6女、七男の子供たちがあった。しかし、3男5女は亡くなる。
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あしたの君へ

2020-04-12 | book
家庭裁判所を舞台にした人間ドラマ。「あしたの君へ」。2016年7月刊行。2014から15にかけて月刊文芸誌に掲載された5話を収録。著者は柚木裕子。近年の題材は、福祉系のものが多い。

通称カンポといわれる家裁調査官補の22歳の望月大地の成長を、家庭トラブルを背景に描く。

裁判所職員、家裁調査官として採用され、九州、福岡の福森家庭裁判所で、7月から1年間の実務修習に入った。いわゆる見習い期間だ。少年事件、家事事件を経験する。

背負う者(17歳 友里)
アルバイトをしながら生活する鈴川友里、17歳。母親と妹の3人で暮す友里は、28歳の会社員をホテルに誘い、現金を奪った。なぜ、そこまでして現金が必要だったのか。大地は、住まい、親族を訪ね、母親と妹を背負い暮らす悲惨な生活を知る。「人に迷惑をかけてはいけない」。母親からの教えをかたくなに守り続けた。その思いの重さ。

抱かれる者(16歳 潤)
進学校に通う高校2年生、星野潤は高校1年生の相沢真奈へのストーカー事案で家裁に送られてきた。面接では優等生、反省の弁を口にした。母親は地域の名士。対応はいつも母親がしていた。大地は潤の「あいつ」という言葉が気にかかり、家庭を訪問する。生活臭のない家庭。教師同級生に話しを聞く。星野親子の話とは異なる現実を知る。そして父親から知らされた事実。大地は母子に再度面会を求める。母と子の歪んだ重圧。

縋(すが)る者(23歳 理沙)
年末年始の休暇で故郷の静岡に帰省した大地。中学生の旧友8人と飲み会に出る。そこには大地の初恋の人、理沙もいた。20歳で26歳の男性と学生結婚し、2歳の子どもがいた。2次会から2人は帰る道すがら、理沙は夫の浮気が原因で2か月前に離婚したのだと話す。理沙は親権の問題で家裁調査官に励まされたのだと言う。

責める者(35歳 可南子)
初めての家事事件は離婚。結婚5年の40歳の朝井駿一と35歳の朝井可南子だ。子どもはいない。動機は13項目の中の「精神的に虐待する」だった。真面目で人当たりの良い夫は婚姻を継続。しかし、心を病む妻は離婚を翻さない。可南子の通う精神科で聞かされたICレコーダーの夫婦の会話に愕然とする大地。モラルハラスメント。心の虐待。

迷う者(10歳 悠真)
6月。離婚調停。親権でもめている。母親は片岡朋美35歳、父親は片岡伸夫46歳。夫の両親・妹と同居。子どもは小学5年生の悠真。別居して半年。今は父親の元に住んでいる。大地は悠真君の意見を聞くために、家を訪れる。そして、朋美の暮らすマンションへ。そこには男性と暮らす匂いがした。明かされる驚愕の事実。子どもに判断を任せられるのか。

自分はこの仕事が向いていないのではと悩む大地。ともに実習生の同期の家裁調査官補の美由紀と志水もいい味を出す。
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パレートの誤算

2020-04-05 | book
柚木裕子の「パレートの誤算」を読んだ。平成26年10月刊行。2014年。
津川市役所の社会福祉課が舞台。地元出身の大卒、新人の臨時職員の牧野聡美は、母親と暮らし、3歳年上の兄、亮輔がいる。配属先で生活保護の訪問就労支援のケースワーカーをすることになった。異動3か月目の30歳の小野寺とチームを組み、訪問を始める。職場でも不人気のセクションだが、37歳のベテラン山川に励まされる。その山川が、生活保護の住人が複数いる訪問先のアパートで火事に巻き込まれる。山川は、高級腕時計の収集が趣味だった。山川は、殺害されていた。アパートの複数の住人には暴力団の影が。兄の亮輔の高校時代の同級生金田良太、ヤクザの立木とつきあいのある安西佳子35歳。しかし、金子は行方不明。山川の訪問レポートには暴力団の記載は一切なかった。津川署の刑事、若林が、執拗に事件を追う。

佳子に接触する聡美。そこへ金田から電話が入る。佳子と関わるな。聡美の命が危ないと。
小野寺と聡美は、佳子の身辺から医療費にかかる生活保護費の不正受給の疑いを深める。警察の若林に伝えると、若林は金田が殺されたという。福祉部長と課長からこれ以上を深入りするなとくぎを刺され、担当を外れると言い渡される。

山川のパソコンにロックされたファイルを見つける聡美。若林へ届けようと市役所の地下駐車場で拉致される。

聡美は無事、助け出されるのか。
働き蟻の法則、ある事象の2割が全体の8割を担っているというパレートの法則。

生活保護申請を巡る市役所立てこもり事件や生活保護の不正受給を通し福祉のあり方を問う。

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