梅雨の合間に、身も心もシャキッとする軽快なポップスを。
1963年にデビューしたビートルズが、1964年に出した3枚目のアルバムが「A Hard Days Night」だ。A面が同名映画のサウンドトラック7曲とB面が6曲の全13曲で構成。初のすべてオリジナルで、10曲がジョン、3曲がポールの作品。いわゆる「ビートルズがやって来る ヤァ! ヤァ!ヤァ!」である。
若さを前面に出して、メロディも一曲たりとも飽きさせない、宝石のように輝く珠玉の数々。歌詞はまさにボーイ・ミーツ・ガール一色で、青春の真っ只中にいる。大好きなアルバムである。
全曲を紹介してみよう。
不況和音で始まるジャーン。そして、終わらないぞいわんばかりのエンディング。忙しいけど、君がいるからがんばれるって。1曲目「A Hard Days Night」。ジョンの曲。
「アーオ」とジョンのシャウト。そして「ウェイナイトホーム」「ライト、タイト、イエイ」とサビはポール。ジョンとポールの掛合いがたまらない。最初から乗り乗りだ。
1曲目から行くぞって感じが伝わる。アルバム構成は、ビートルズ初の主演映画のサントラとボーナストラックなのだが、ビートルズのライブを聞いているよう。
2曲目は「I Should Have Known Better」( 恋する2人)だ。これもジョン。
冒頭のハーモニカがいい。行け行けだ。「君にくびったけだ。もっと愛してよ」ってメッセージ。ジョンの「アハハーン」という裏声も甘くてたまらない。
単調なサビのギターも「こうでなくちゃ」と思わせるから不思議。
3曲目は打って変わってジョンのスローバラード。ほっと一息。「If I Fell」(恋におちたら)である。
「わかってくれよ 裏切らないでおくれ 大好きなんだ」。冒頭だけジョンで、「イフ ア ギブマイハート」からポールとの絶妙のハーモニーで切なく訴える。
4曲目はジョージのボーカル。でも作曲はジョン。「I'm Happy Just To Dance With You(すてきなダンス)」。細切れカットのギターコード進行が効果的。「オーオ オーオ アー」でジョンとポールが盛り上げる。君と踊っていれば幸せだ。
ジョン、ジョン、ジョン、ジョージときて5曲目にやっとポール。この頃のビートルズの主導権はジョンにあった。「And I love Her」。ポールのバラードはやっぱ最高。タイトな中にもやはりポールらしいメロディライン。「ああ あの娘が大好きなんだ」とアコースティックギターが奏でる。ボンゴとウッドブロックのリンゴがさりげなく寄り添う。シンプルだけに歌詞もメロディも染みてくる。
6曲目はジョンの「Tell Me Why」。「テルミー ホワイ ユークライ」といきなりたたみかけるコーラスライン。ジョンの3重奏らしい。裏声もぞくぞくって感じ。「なんで 泣いたの、僕を置いていったの」。未練たらたらのジョンのシャウトが効果的。
7曲目。A面の最後は、ポールの名曲「Can't By Me Love」だ。いきなり前奏なしの「キャン バイ ミー ラヴ」だ。「愛はお金では買えない」。乗り乗りのロックンロール。シングルカットされただけのことはある。予約だけで100万枚を超えたという。
8曲目、B面の1曲目は「Any Time At All」だ。ジョンの曲。リンゴのドラムの一打とジョンのシャウトで始まるアップテンポの曲だ。「いつでも行くよ。君の元へ。寄り添ってあげる。こんなに好きなんだから」。アルバムをB面に変えても(裏面のリンゴの中身に変えても)、いきなり熱い。
9曲目はこれもジョンの「I'll Cry Instead」(ぼくが泣く)だ。ミディアムテンポの振られた気持ち。でも立ち直ってやる。きっとだ。
10曲目はポールの3曲目となる「Things We Said Today」(今日の誓い)。「サムディー」からのサビも効果的。1分44秒のアルバムでは一番短い曲だが、カントリー風の抑揚のない調べが2人の揺るぎない恋の行方を語る。「たとえ僕がいなくなっても、愛し続けるって言ってくれる」。
11曲目、「ウオウオ ハー」のジョンのハーモニーで始まる「When I Get Home」は、この「ウオウオ ハー」が効果的に各所に挿入される。素直でストレートなジョンの声が染み入る。「彼女が待っている、早く帰らなきゃ」。もう気持ちは彼女のもとだ。
12曲目は、「You Cant Do That」。ジョンのメロディとハーモニー、そしてギター。ジョンの才能は満開だ。リンゴのビシッと決まるドラムもいい。「そんなことするなよ」。他の男と話す恋人にちょぴり嫉妬する若者は粋がる。R&B風の乗りでカッコいいジョン。びしっと決まっている。
最後は、これもジョンのかっこよさが光る「I'll Be Back」。哀愁のあるメロディがアコースティクギターの裏打ちのストロークと混ざり合う。2曲続けてジョンのヒットだ。「ちょっとのいさかいでも、やっぱり忘れられないだろう。帰ってくるよ」。
どれもこれもかっこいいナンバーばかり。ハードからソフトまで、アルバムとしても完成度は高い。ライブを聞いているよう。若さが前面に出たストレートな歌詞もいいし、編曲も凝っている。聴き応えのある30分だ。
LPは1979年4月に買った。CDはモノラルだが、LPはなぜかステレオ。