パンダ イン・マイ・ライフ

ようこそ panda in my lifeの部屋へ。
音楽と本、そしてちょっとグルメなナチュラルエッセイ

おやすみラフマニノフ

2016-11-27 | book
1961年生まれの中山七里が2010年1月に「さよならドビッシー」で文壇デビューし、その年の10月に書き下ろした「おやすみラフマニノフ」を読んだ。

愛知音大を舞台にした音大生の群像劇だ。そこに25歳の臨時講師役でピアニスト岬洋介が登場し、相変わらずの推理名人ぶりを発揮する。

就職か進学か、一握りの天才を除いて脚光を浴びない音楽の世界。22歳のヴァイオリニスト城戸晶は、とんかつやでバイトをしながら音楽家を目指す苦学生。チェリストの初音は、祖父が稀代のピアニストで学長の柘植彰良。トランペットの麻倉雄大、クラリネットの小柳友希、ピアノ専攻の下諏訪美鈴、オーボエの神尾舞子などの面々が加わる。

その愛知音大で時価2億円のストラディバリウスのチェロが無くなる。密室でのできごとだった。そして、柘植彰良モデルのピアノが水浸しにされ使い物にならなくなる。一体誰がそんなことを。

発表会に向けで、柘植彰良のラフマニノフピアノコンチェルト第2番を練習する学生たち。コンマスに就任する晶だったが、個性が強い音大生たちはなかなか同じ方向を向いてくれず、点でバラバラな状態だった。。そこに発表会で起こる脅迫状も届き、軋轢に不安も加わり空中分解寸前になるが。

初音の発病、晶の素性など、犯人捜しの伏線に加え、指揮者の代理を任された岬洋介の見事なコンダクターぶりによってクライマックスの発表会が終わる。

テンポもあり、そこかしこにちりばめられた小道具の数々。もちろん、恒例の曲紹介もあり、楽しめました。
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光の庭

2016-11-23 | book
吉川トリコの「光の庭」を読んだ。吉川は1977年生まれ。名古屋市在住。2004年、平成16年に小説デビュー。高校を卒業して18年。同級生だった女性5人の物語。

志津はライターを目指して東京にいたが、故郷の地方都市に帰ってくる。実業家の妻になった理恵、大学を中退して3人の子持ちになった法子、市役所に勤める独身の麻里奈。そして、三千花は、20歳の時に殺されていた。

志津は、題材を求めて昔の友人たちに会い始める。それぞれが仲間と信じて疑わなかった高校時代。すでに心はどっかにあった。学校という閉ざされた空間に居場所づくりに励んでいた。それは今も同じだ。仕事、結婚、子育て、実家など、それぞれの居場所で生活する5人の様子が描かれる。もう仲間ではない現実が横たわる。

そして、志津は三千花の死因を探り始めた。皆、三千花とは距離を置いていた。三千花の知られざる顔。

同級生の心のひだを丹念に描き、女性のどろどろとした心情が次々と明らかになる。構成のうまさが光る。
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このせちがらい世の中で誰よりも自由に生きる

2016-11-20 | book
大阪大学教授の湯浅邦弘の「このせちがらい世の中で誰よりも自由に生きる」を読んだ。平成25年10月発刊。中国哲学専攻の著者が老子,荘子の考えを対話形式で分かりやすく著述した。湯浅は同年代だが,頭の構造がここまで違うのか。すごいの一言。

漢文などは高校時代に習った程度なので,現代語訳でしか解読不能だ。ましてや哲学なので,その考えを今にどう伝えるかがカギである。今回の登場人物は40代に突入した中小企業の男性サラリーマン。三流大学出が,意に沿わぬ出向を命ぜられ,同期の昇進や家庭での会話のなさを嘆きながら日々暮らしている。

そんな男が飲み屋で老人と出会うことから,この本が始まる。老人は,男が散歩,電車,会社などにいる時に登場し,老子,荘子の考えを伝える。いつか必ず負けるあなたへ,水のように生きる,言葉をつむぐほど真実から遠ざかる,濃密すぎる人間関係は長続きしない,世界の始まりを知り,終わりなき日常を生きるの5章立て。仏教にしても中国古典にしても,今に残るというのはそれだけで意味があることだ。つまり,その時代,その時代で,人がその考えを必要とし,共感してきたからこそ,連綿と語り継がれてきたのだから。

湯浅は,老人の言葉として,一方的な紹介はしない。孔子や老子,荘子など,いろんな考えを知ることで,生き方に余裕ができ,プラス思考も出てくるという。

湯浅は,諸子百家や菜根譚などの本も出している。先輩の生き方を知ることは,決して無駄ではないと思った。処世本はいつの時代でも無くならない。人はいつも悩み多い生き物だからだ。
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下り坂をそろそろ下りる

2016-11-13 | book
平田オリザは1962年生まれの劇団主宰の劇作家、大学教授。その平田が演劇を通じて、地域づくり、ひとづくりを語る。それも題名からもわかるように日本の将来を見据えながら。「下り坂をそろそろと下りる」2016年4月発刊。

瀬戸内の小豆島高校、但馬の豊岡城崎国際センター、讃岐の善通寺市の四国学院大学での取り組みを紹介。人口減社会の中でも、地域が自立し、交流人口を増やし、地域がいきいきと輝いてく姿だ。

宮沢賢治の雨にも負けず、風にも負けずから、これからの日本社会は、下り坂を心を引き締めながら下りていかなければならない。そのときに必要なのは、グイグイと引っ張っていくリーダーシップだけではなく、オロオロと不安の時をともに過ごしていくれるリーダーシップが必要ではないか。

そして、今や日本は工業立国ではない、もはや日本は、成長社会ではない、もはや日本は、アジア唯一の先進国ではないとし、子育てがしやすい街とは、社会的弱者にやさしい街なのだと。競争と排除の論理から抜け出し、寛容と包摂の社会へ。これ以外に下り坂をゆっくりと下っていく方法はない。
司馬遼太郎の坂の上の雲を引用し、明治時代の日本とは違い、坂の上の白い雲にあこがれるのではなく、そろそろと下り坂から見る夕焼雲も味わいがあるという。夕焼の寂しさもいいのではないかと。大学というフィールドから文化論がこの下り坂に重要なのだと。
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どこかでベートーヴェン

2016-11-06 | book
2010年に「さよならドビッシー」でこのミス大賞を受賞した1961年岐阜県生まれの中山七里が、2016年6月に刊行した最新刊「どこかでベートーヴェン」を読んだ。

岐阜県に新設された普通高校の音楽専攻クラスが舞台。高校2年生の鷹村亮は、転校生の岬洋介と仲良くなる。その岬はベートーヴェンのピアノソナタ14番の月光を聞いてその異次元の演奏に打ちのめされる。一躍クラスの脚光を浴びる岬。
9月に行われる発表会に向け、夏休みにクラスに集まっていた学校を豪雨が襲う。学校を抜け出し、命を賭して助ける岬に、同級生の岩倉の死が待ち受ける。岬を殺人の罪で疑う警察。豪雨で打撃を受ける学校。新設の際の手抜き工事が明らかになり、町と請負業者の増収賄の嫌疑を追うクラス担任の棚橋。
岩倉はその工事を請け負った会社の息子だった。また、町長の娘も同じクラスだった。
発表会では岬はベートピアノソナタ8番悲愴を演奏するが、岬を体調の異変が襲う。

思春期の学校という閉ざされた17歳の世界の恐ろしさ。音楽という才能と努力で競う芸術の残酷さ。親と子という宿命を背負いながら、生徒という将来を嘱望された子供たちに試練を与え、これらを存分に見せつけながら、殺人という謎解きをモチーフにした。
岬をホームズなら鷹村はワトソン役をこなす。鷹村の月光と悲愴の解説が秀逸。家のCDを聞きながら本を読み返した。

岬洋介シリーズともいうべき、ドビッシー、2010年の「おやすみラフマニノフ」、2013年の「いつまでもショパン」に続くシリーズ。
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御宿かわせみ(33) 小判商人

2016-11-03 | 御宿かわせみ
小判商人 御宿かわせみ33
 平成17年4月30日 オール讀物平成16年5月号~平成17年1月号12月号を除く

稲荷横の飴屋
お吉の姪が天涯孤独の14歳のお晴を,かわせみに,お石の後の女中にと連れて来た。千春はすぐにお晴と仲良くなる。千春の琴の稽古に出かけたお晴は,近くのお地蔵様があり,おむらという婆さんがやっている飴屋があった。お晴は,その地蔵様の頭を撫でた子らを竹ぼうきでたたくおむらを見る。そのことを東吾に話す。東吾はおむらに疑いを抱く。我が子を竹ぼうきでたたかれた父親が,お地蔵様を押し倒すとその台座から小判が出てきた。

青江屋の若旦那
かわせみで扱う塗物を卸していた日本橋の青江屋には,長男の27歳の成太郎と弟の23歳の好吉がいた。2人は異母兄弟だった。東吾は,成太郎が店を好吉に譲ると話しているのを聞く。好吉は母親が亡くなり,昨年,赤城村から江戸に出てきていた。その頃,質屋に老舗の若旦那が訪れ,偽物を質入れし,金を借り,姿を晦ます事件が続発する。源三郎は,その若旦那が青江屋の成太郎が似ていると言う。東吾は,事件の頃,成太郎が産み親の看病に,祖父祖母や母と幼いころ暮らした中野村へ行っていたことを突き止める。

明石玉のかんざし
明石で明石玉の職人をしている珠太郎36歳と女房のお光28歳,そして子の珠吉がかわせみに泊まりに来る。るいと東吾が,庄司家の菩提寺に行くと珠太郎一家が墓参りに来ていたことを知る。それは,るいの亡き父が亡き母に贈った珊瑚のかんざしを買った日本橋の珊瑚屋の墓だった。東吾は,珠太郎から江戸を出たわけやそれからお光に会うまでの出来事を聞き,母親への橋渡しを頼まれる。珠太郎は15歳で江戸を飛び出し,20年ぶりの江戸だという。母親を訪ねてきたという。珠太郎は,その珊瑚屋のお浅の息子だった。珊瑚屋にはすでに養子が入っていた。お浅は,かわせみを訪れ,珠太郎を冷たく突き放す。しばらくして珊瑚屋が倒産したとかわせみに知らせが入る。

手妻師千糸大夫
長助が,両国広小路の高座の手妻師千糸大夫の評判をかわせみに持ち込んだ。見たくてしようがないお吉は,口実がない。その姿を見た千春が麻太郎と源太郎に相談する。麻太郎と源太郎は事前に見てみようと2人で両国へ出かける。その高座で暴漢に襲われた千糸大夫を助ける。2人の少年を諭す通之進がさすがだ。また,東吾は幼いころ,八丁堀で一緒だったお秋と出会う。お秋は女浄瑠璃講釈師の菊花亭秋月といい,以前東吾が助け,上方へ行っていた。今は,川越の雑穀問屋武蔵屋の内儀となり,子どもも授かっていた。そのお秋が,師匠の一周忌で江戸に出てきたという。東吾も誘われ,谷中の蓮長寺で千糸大夫と出会う。千糸大夫は,先日のお礼にと東吾に,麻太郎や源太郎,そして,蓮長寺にいる孤児を高座に招待するという。千糸大夫の見事な芸に酔いしれる子供たち。お吉は千春の伴で来ていた。粋な物語満載の一編。

文三の恋人
水売りをして兄を探していた文三は,文吾兵衛の口利きで千駄木村の庭師,彦右衛門に弟子入りしていた。彦右衛門は,神林家や麻生家にも出入りしていた。その彦右衛門の近くに尼寺があり,身寄りのないお幸という30歳の女がいた。文三とお幸はお互いを好きになっていた。だが,お幸は尼になる身。文三は22歳で,彦右衛門は,30歳まで嫁をもらうなと伝えていた。

小判商人
長助の蕎麦屋の裏にある質屋,松本屋に泥棒が入り,捕まえると,盗んだものの中に洋銀があった。高山仙蔵は,不公平な通貨の取引により,日本の金銀が海外に流出させている小判商人を追っていた。その高山家に出入りしている麻太郎と源太郎は,高山家にいて,ある男が高山から洋銀を持ってきてくれと頼まれたと言ってくる。麻太郎と源太郎はその男と品川へ向かう。そこには松本屋の内儀がおり,3人は蔵に閉じ込められてしまう。
密かに小判商人を追う,奉行所,源三郎。軍艦操練所の東吾は海上にいて,沿岸警護の手伝いを頼まれる。少年2人を巻き込んで,海上と陸上から大捕物が繰り広げられる。

初卯まいりの日
正月2日にかわせみに泊まりに来たのは,岩槻藩の人形屋,京玉屋の母子,お梅と子の玉之助23歳,そしてその嫁おきみ18歳だった。4日は亀戸天満宮の初卯まいりの日,小春は長助からもらった絵馬を皆の幸せを願い納めるが,あまりの可愛さにもう一枚を長助にねだる。絵馬の職人の久太郎は祖母おまつと2人暮らし。訪ねた長助,るい一行は,おまつが女を叱り飛ばしているのに出会う。女は京玉屋のお梅だった。久太郎は,今戸の焼き物屋の倅だったが,店は潰れ,絵馬の職人になっていた。お梅は久太郎が3歳の時に離縁されていた。運命に翻弄されながらも,健気に生きていく久太郎。
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