地方紙に「紫匂う」という新聞小説が掲載されている。時代小説で、とつとつとした文体に、夫婦の機微が描かれ、凛とした雰囲気に、毎日その掲載を楽しみにしている。それも今月で終わる。
何か、藤沢周平を彷彿とさせる作者は、葉室燐。はじめて名を聞く作家で、ネットで調べてみた。1951年生まれ。私よりも年上で、なんと地方の新聞記者からの転身で、50歳から小説を書き始めたと言う。
2005年に文学賞を受賞し、本格的な文筆活動に入った。まだ、10年にも満たない。その2012年直木賞受賞作の「蜩(ひぐらし)ノ記」を読んだ。
九州のさる藩の戸田秋谷(しゅうこく)は、40過ぎの武士。幼馴染の藩主の側室を助けるため、一夜をともにした咎で、10年後の夏に切腹を言い渡されている。妻の織江と娘の薫、息子郁太郎と暮らす秋谷は、藩の記録を書くことを仕事とし、その日々の日記が「蜩ノ記」だ。切腹まであと3年と迫った桜の季節に、その秋谷のもとへ、これもまた友人といさかいを起こした壇野庄三郎が、監視役として訪れるところから話は始まる。
淡々と、切腹の日を待つ秋谷の人柄に次第にひかれていく庄三郎。藩の圧制に苦しむ農民の姿。出世と保身に走る同僚たち。それらと清貧な秋谷の姿との対比がうまい。家族もつつましく、作風もマッチしている。地位に固執する家老の中根兵右衛門との確執、心理戦が物語の柱だ。
ただ、前半のわかりにくさ、庄三郎といさかいを起こした友人市之進とのあっけない仲直り、あまりに見え見えの薫と庄三郎の結婚など、もっと話に仕掛けがあると、より味わい深い作品になったと思う。文体もまだまだ藤沢周平には程遠い。
短く、遂行を重ねた周平の文体はほんとうに読みやすく、読後もすがすがしいものであった。これからの葉室の成長が楽しみだ。
何か、藤沢周平を彷彿とさせる作者は、葉室燐。はじめて名を聞く作家で、ネットで調べてみた。1951年生まれ。私よりも年上で、なんと地方の新聞記者からの転身で、50歳から小説を書き始めたと言う。
2005年に文学賞を受賞し、本格的な文筆活動に入った。まだ、10年にも満たない。その2012年直木賞受賞作の「蜩(ひぐらし)ノ記」を読んだ。
九州のさる藩の戸田秋谷(しゅうこく)は、40過ぎの武士。幼馴染の藩主の側室を助けるため、一夜をともにした咎で、10年後の夏に切腹を言い渡されている。妻の織江と娘の薫、息子郁太郎と暮らす秋谷は、藩の記録を書くことを仕事とし、その日々の日記が「蜩ノ記」だ。切腹まであと3年と迫った桜の季節に、その秋谷のもとへ、これもまた友人といさかいを起こした壇野庄三郎が、監視役として訪れるところから話は始まる。
淡々と、切腹の日を待つ秋谷の人柄に次第にひかれていく庄三郎。藩の圧制に苦しむ農民の姿。出世と保身に走る同僚たち。それらと清貧な秋谷の姿との対比がうまい。家族もつつましく、作風もマッチしている。地位に固執する家老の中根兵右衛門との確執、心理戦が物語の柱だ。
ただ、前半のわかりにくさ、庄三郎といさかいを起こした友人市之進とのあっけない仲直り、あまりに見え見えの薫と庄三郎の結婚など、もっと話に仕掛けがあると、より味わい深い作品になったと思う。文体もまだまだ藤沢周平には程遠い。
短く、遂行を重ねた周平の文体はほんとうに読みやすく、読後もすがすがしいものであった。これからの葉室の成長が楽しみだ。