パンダ イン・マイ・ライフ

ようこそ panda in my lifeの部屋へ。
音楽と本、そしてちょっとグルメなナチュラルエッセイ

蟻の菜園

2020-03-29 | book
「蟻の菜園」。柚木裕子作、2014年8月刊行。2010年12月から2013年12月まで月刊誌に連載。

今林由美 ニュース週刊誌に席を置く、40過ぎのフリーライター。離婚して10年のバツイチ。

千葉県警が、結婚詐欺で43歳の女性円藤冬香、千葉にある福祉施設の介護士を逮捕したニュースが飛び込んでくる。車中練炭殺人事件の容疑だった。50前後や70代の男性など、複数の男性の殺害に関与しているとされ、多額の金銭を受け取っていた。しかし、事件当日、冬香にはアリバイがあった。
地味でつつましい暮らしをしていた彼女に何があったのか。由美はその事件の背景を調べ始める。
冬香は、千葉県出身で昔、両親が無くなり、12歳の時に千葉にある児童福祉施設にいたことがわかる。由美は、新聞記者、片芝のつてで冬香の中学校の卒業アルバムをカメラに収める。その名簿の同級生を尋ねる。冬香は北陸の方言があった。

福井県三国町の東尋坊の電話ボックスのシーンへ飛ぶ。三国町役場に勤める与野井啓介は命のボランティアをしている。自殺の名所、東尋坊のいのちの電話からから一本の電話がかかる。小学生の女の子だった。家に引き取るが、その晩にいなくなってしまう。少女は沢越早紀。妹がいる。体に虐待のあとがあった。
与野井は、役場の後輩、美幸に頼み、早紀の父、剛の戸籍を入手するが、早紀の記載がない。無戸籍児・・・。1週間後、早紀から電話が入る。その日、三国北駐在所に住民からの緊急通報が入り、巡査長の山村が対応した。男が太ももから血を出していた。娘に刺されたと言うのだ。娘の名は早紀。その男は、沢越剛、46歳。ワゴン車に寝泊まりしていると言う。妹の名前は冬香。7歳。昭和54年の出来事だった。

車中練炭殺人の日に冬香に電話をしていた女性。その女性は都内の高級住宅地に住む既婚の江田知代38歳だった。江田は旧姓本田、福井の養護施設の出身だった。由美は福井に向かう。

円藤冬香、沢越早紀・冬香姉妹、江田知代。ほつれた糸が、1本になるのか。姉妹の壮絶な過去が現在まで尾を引く。後半の謎解きは緊迫感あふれる。児童福祉の現実と影を追う筆者渾身の一編。
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慈雨

2020-03-22 | book
1968年生まれの作家、柚木裕子の「慈雨」を読んだ。2016年10月刊行。他の作品も「臨床心理」2009、「最後の証人」2010、「検事の本懐」2011、「孤狼の血」2015などを読んだ。

神場(じんば)は、高校卒業後、42年間務めた群馬県警を定年退職し、還暦を迎えた。6月に入り、結婚して32年、2歳下の妻の香代子と徳島に着き、四国88か所巡礼の旅に出る。関わった事件の被害者の供養が目的だった

そのお遍路の宿でニュースが飛び込んでくる。6日前から行方不明の群馬県の小1の愛里菜ちゃんが死体で見つかったという。神場は、元部下の32歳の県警の刑事 緒方圭祐に電話をかける。緒方は、神場の後輩、捜査1課長の鷲尾の下で捜査にあたっていた。

群馬県内で16年前の6月に起きた小学1年生の純子ちゃん殺人事件。当時県警刑事課の神場の捜査棒で見つけた純子ちゃん。犯人は、36歳の八重樫とされた。神馬はその時から、八重垣は冤罪ではないかという憤怒と疑念にさいなまれていた。
巡礼の途中で挿入されるエピソード。30年前の夜長瀬の駐在所で起きた義父殺人事件や刑事への転機となった窃盗事件。そして恩ある先輩須田の殉職。夫婦の苦悩と一人娘25歳の幸知の出自。人生の不条理を思い知らされ、巡礼の意味を問う神馬。

愛里菜ちゃんの死体発見現場で見られた白いワゴン車は見つからない。手掛かりがない中、疲労感だけ増す緒方。神場はあることに疑念を抱く。そして二つの事件が重なり合う。

霊山時、極楽寺、金泉寺、十楽寺など、札所の景色や特徴など、巡礼のゆったりとした時の移ろいと、悲惨な事件、進まない捜査、苦悩する神馬など緊張感あふれるシーンが交互に現れる。柚木の構成力のみごとさが光る。
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本と鍵の季節

2020-03-20 | book
1987年生まれの米澤穂信の「本と鍵の季節」を読んだ。2018年12月刊行。

高校の図書委員、2年生の堀川次郎と松倉詩門が、謎解きにトライするミステリー。

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図書室にいた2人の前に、先輩の浦上麻里が現れる。浦上家のおじいさんの書斎にある「おじいさんの遺した開かずの金庫」を開けてほしいと言うのだ。手掛かりはおじいさんの遺したメッセージ「麻里が大人になってからもう一度この部屋においで。そうしたら、きっとおじいさんの贈りものがわかるはずだよ」というメッセージだった。浦上家に現れた姉と母。次郎と詩門は3人に見張られているような気がした。

ロックオンロッカー
夏。堀川は、紹介割引に惹かれ、松倉と髪を切りにいきつけの美容室に行く。松倉は、受付で店長が言った「貴重品は必ずお手元にお持ちください」の言葉が引っ掛かる。カットの終わった二人は店を出て、道路を挟んだ反対のベンチに腰かけて。店の様子をうかがう。

金曜に彼は何をしたのか
7月。期末テストの期間。部活は中止だが、図書委員会の堀川と松倉は、図書室の通常業務を行っていた。そこに1年生の植田登がやってくる。2年生の兄、昇が、先週の金曜日にテスト問題を盗もうと職員室に忍び込んだと生徒指導部の横瀬先生が言っている。兄の無実を明かしてほしいと相談してきた。堀川と松倉は、植田兄弟が暮らすアパートに証拠を探しに訪れる。

ない本
秋。図書室にいた堀川次郎と松倉詩門の前に3年生の長谷川が現れる。先週自殺した3年生の香田が図書室で借りて教室で読んでいた最後の1冊を探しているという。その本に香田が便箋を挟んでいたという。その便箋を見たいというのだ。

昔話を聞かせておくれよ
晩秋の図書室。松倉が堀川に昔話をしようと言い出す。宝さがしで一席ぶつことに。松倉が話すには、6年前に亡くなった父親が、現金をどこかへ隠したというのだ。

友よ知るなかれ
松倉が、自分の父親の現金を探すため、探し当てたバン。月極めに6年間も放置してあるはずがない。堀川は、その疑問を解くために市立図書館へ向かう。
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菊屋敷

2020-03-15 | 山本周五郎
山本周五郎の中編、「菊屋敷」は、終戦直後の昭和20年(1945)10月に刊行。日本婦道記の「菅笠」と収められた。10ケ月かけて書き下ろした。周五郎の価値観が終戦という大きな変革期においても変わらずに貫いた作品。新潮社版山本周五郎全集第1巻第11回配本昭和57年7月発行「夜明けの辻・新潮記」所収。

幕末の松本藩。志保は、26歳。儒官の家に生まれた。父を亡くし、村人から菊屋敷と呼ばれている、城下のかしわ村で塾を営んでいた。4歳下の妹の小松は美貌の持ち主で、塾生の越前高田藩士園部晋吾に嫁つぎ、晋太郎という子もいた。

周五郎は冒頭で、二人の姉妹の対比をする。器量、愛児。結婚、出産。女としての生き方。妹への嫉妬だ。

志保に届いた差出人不明の恋文。逡巡する志保。女心。そこに指定された場所へ行こうと決めたその時、小松が夫の園部、5歳の晋太郎、赤子の健二郎とともにやってくる。園部が蘭学の勉強に長崎へ行くという。自分もついて行くので、晋太郎をこの家に引き取ってほしいというのだ。
晋太郎の育てることに一生をささげようと決意する志保。母子の愛情と苦悩が繰り広げられる。「子を成さぬ者に子は育てられぬ」「養育するのではない、子どもから養育されるのだ」。そして塾生の年長者、31歳の独身、杉田庄三郎への思い。
やがて、園部は士官も叶い、江戸詰めとなる。その江戸の小松から手紙が届く。健二郎が亡くなったというのだ。

尊王攘夷の塾生に捕縛の手が。

冒頭の「志保は庭へおりて菊を剪っていた。いつまでも狭霧の晴れぬ朝」。そして最終章の菊畑の朝の場面。人は成長し、去っていく。変わらぬ菊屋敷。来ては去る時の流れに翻弄される志保。人の美しさとは何か。

構成も飽きさせず、ディテイルにこだわりがあり、センテンスも短く、リズムもよい。映像のように読み手を魅了する。そして、思いが貫いている。周五郎作品の中でも、愁眉だ。
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極上の孤独 2/2

2020-03-08 | book
下重暁子の「極上の孤独」の後半。

「孤独は山になく、街にある」。三木清の「人生論ノート」

確かに孤独を想像するのはつらい。しかし、そうと決まったら人間、腹が据わる。孤独の中にどっぷりとつかり、開き直る。なるようになれと思うことが、体人も心にも一番なのだ。
他人の意見は参考になるが、決めるのは自分。その時間を積み重ねることで、人は成長していく。
いつも他人と群れていると成長しない。表面上の付き合いのいい人間ができるだけだ。

素敵な人はたいていが一人。立川談志、小沢正一、永六輔。

混乱が収まり、澄んだ境地になれるトイレの効用。
仕事も運動もやりすぎはいけない。健康で運動をやりすぎる人ほど、短命。健康に自信がないと自分の声を常に聞いて予防し、無理をしない。

仕事をしていても一人の時間を大切にしよう。定年になったら即実行できる仕事と趣味を持ちたい。定年になってからが、本領発揮だ。誰かが縛ってくれるのではなく、誰にも縛られなくなってからこそが力の見せ所だ。定年後は勤めていたころの名刺や肩書は捨て去ろう。一人の男に戻る。これからが本当の人生だ。

子どもは守って育てる時期が過ぎたら離れていくのが当然。夫婦2人健在であっても一人のような暮らしをしよう。寝室を別々にする。連れ合いとはいえペースが違う。誰も来ない秘密の場所を持とう。

品性は孤独と関係がある。品とは内から光り輝くもの。自分を作るには孤独な時間を持ち、他人に煩わされない価値観を積み上げていこう。
孤独を知る人たち。イチロー、中田英寿、山口百恵、安室奈美恵、美空ひばり、そして孤独の達人、良寛。
来るものは拒まず、去るものは追わず
公益法人トップの6年間。
一生に一度の恋との訣別と仕事という希望することを貫く覚悟
いよいよ自分は一人だという感じる時。それは親の死後の孤独。母の死は81歳。今の著者の同じ年齢だという。
NHKの同期は男20人、女4人。すでに10人近くが亡くなった。その思いを生きている間、引き受けねばならない。
孤独を刺激する若い友人を持とう。年とった友人は遅かれ早かれいなくなる。
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極上の孤独 1/2

2020-03-01 | book
下重暁子の「極上の孤独」を読んだ。2018年3月に刊行。4月には第5刷。
下重は、NHKのアナウンサーとして活躍。フリーに。そして文筆家として歩む。野際陽子の1学年下という。出筆当時81歳。

なぜ私は孤独を好むのか。極上の孤独を味わう。中年からの孤独をどう過ごすか。孤独と品性は切り離せない。孤独の中で自分を知る。

淋しいと孤独は違う。淋しいは何も生み出さない。誰かが何とかしてくれないかと他人を頼っている。淋しいとは一時の感情。孤独は一人で行きていく覚悟だ。

尾崎放哉の透徹した孤独な姿が好きだ。孤独とは一人でいることではない。生きる姿勢だ。病の床にありながらも自分を見つめ、すくっと立っている。
咳をしても一人 一日物言わず蝶の影さす つくづく淋しい我が影よ動かして見る

孤独の弧は個性の個だ。孤独を知らない人は個性的になれない。個が育たない。弧であることは手段であり、個はその結果だ。また、長い年月をかけて培ってきたものだ。しかし、個が崩れる時は簡単だ。
孤独は思い切り自由だ。自由で満足感はある。しかし、その時間の全責任は自分にある。誰も助けてはくれない。その身震いするような厳しさにも満ちた、その瞬間が好きだ。
他人の中で一人泰然としてる。宴会の席でも、誰も気づかぬうちにいなくなる。個性的な人は、仲間から奇人変人扱いされる。

一人練習帖とは一人の時間をいかにして持つか、増やしていくかの勉強だ。自分で一人に時間を作り、他人に邪魔されないようにするしかない。

その時に花、鳥をめでる。とりとめもないことを考える。心を遊ばせる。買い物も一人。歳時記を見る、例句がある。一人で食事をし、思索にふけるひと時が愉しい。
孤独は負のイメージ。日本は和を以て貴しとなす国だ。
学校でも一人、距離を置いていた。名前を知らなくても同類がいた。

多くの人は孤独に耐えられない。不安ばかりで誰かと群れることで孤独から逃れようとする。孤独から逃げた人は、孤独が嫌いになる。かわいそうと憐れんで見る。自分より下に見ることで安心する。日本人は孤独嫌いが多く、孤独に対するイメージは良くない。



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