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パンダ イン・マイ・ライフ

ようこそ panda in my lifeの部屋へ。
音楽と本、そしてちょっとグルメなナチュラルエッセイ

山本一力 たすけ鍼

2024-06-16 | 山本一力
たすけ鍼
著者は山本一力。2008年平成20年1月1刷。年4回の季刊誌2004年から2007年にかけて連載されていた。現在、続編が刊行されている。
山本得意の江戸深川が舞台。蛤町の鍼灸師、還暦を迎えた染石(せんこく)が活躍する時代小説。妻は深川の辰巳芸者、年上の太郎。幼馴染で隣に宿を構える町医者が、昭年(しょうねん)。

鰹節問屋、焼津屋の得意先招待の大川遊びの弁当が元で21人の食中毒が出る。染石の弟子の最年長の15歳の父、大工の芳三が、検校から金を借りた。
染石の娘いまりは母と同じ辰巳芸者だ。その同僚から、染石に治療を頼まれる。そこで芸者衆から馴染みの醤油問屋野田屋の息子30歳の与一郎から父をみてほしいと頼まれる。
深川の富岡八幡宮の参道にある大店の米問屋野島屋仁左衛門からは10歳の息子陽太郎を見て欲しいと頼まれる。その帰り、野島屋の手代、草次郎に送られた染石は、匕首を持つ3人の男に襲われる。その一人は匕首の柄に銀細工の龍の彫り物を埋め込んでいた。その彫り物によく似た飾りのキセルを野田屋の頭取番頭、善之助が持っていた。
野島屋仁左衛門と染石の縁が深まる後半。仁左衛門は染石に子ども達に鍼灸を教える稽古場の支援を申し出る。

山本一力 銀しゃり

2024-06-09 | 山本一力
山本一力の「銀しゃり」を読んだ。2007年平成19年6月刊行。季刊誌に2002年から2005年にかけて連載されていた。

山本得意の江戸の深川が舞台。27歳の鮓職人、新吉が独り立ちし、店を構えた。棄捐令での不景気が押し寄せる。その新吉の成長を、山本得意の捨てる人あらば、拾う人あり、人生万事塞翁が馬的な、ハラハラドキドキの痛快篇だ。

同い年の魚の棒手振の順平、旗本家来の小西秋之助55歳、順平の妹のおけい19歳、秋之助の下男新兵衛、竹屋の棟梁竹蔵、柳橋の船宿の料理人おきょう。
秋之助と懇志の屋台蕎麦屋の孝蔵、新吉が思いを寄せる、7歳の杉作の母親おあき、おあきの夫で杉作の父、仕舞い屋の与助。

さまざまな出来事が起き、登場人物が絡んでいく。そして、新吉を巻き込んでいく。

山本一力 だいこん

2024-05-26 | 山本一力
山本一力の「だいこん」を読んだ。2005年平成17年1月刊行。2月には3刷。月刊文芸誌に2002年7月から2004年12月まで約1年半にわたり連載された。
序章
10代将軍家治の時代、つばきは、浅草で、大工の安治と石工職人の娘みのぶとの間に生まれた。2歳下のさくら、4歳下のかえでの2人の妹が嫁ぎ、浅草吾妻橋のたもとの元料亭跡で一膳めし屋を営んでいた26歳のつばきが、深川の永代寺、富岡八幡宮前に2階屋の家を建てるところから物語は始まる。家の看板は「だいこん」。そこに地元を仕切る閻魔堂の弐助の手下がやってくる。弐助は50も半ばで、つばきの知り合いの伸助だった。
第1部
安治は伸助に誘われ、賭場に出入りするようになる。借金取りにおびえる一家。みのぶは蕎麦屋へ勤めに出る。
安治は銭が元で様々な危険な橋を渡る。新しい賭場への出入り、家の賭場への改造の手伝い、そのたびに一家はおびえ、心配し、変わらぬその日暮し。辛い日々を送る。
つばきが9歳のとき、江戸の大火事が原因で伸助の組が解散となり、借金がなくなる。火事後の飯炊きの腕が認められ、つばきは火の見番の食事を手伝うことになる。みのぶはつばきの飯屋の才覚を見抜いていた。
第2部
つばきが火の見番の食事を手伝い始めて9年。17歳になっていた。溜めたお金が183両と2分になっていた。火の見番を辞め、家を借りて一膳めしや「だいこん」を始める。軌道に乗り始めた矢先の江戸の大雨洪水。宿舎にしたのは、奉行所の吟味を受けるために江戸に出てきた人を止める公事宿だった。そこの弁当を作らないかと公事宿の跡取り息子22歳の浩太郎がつばきに提案する。修繕した「だいこん」では、印旛工事で夜に飯を食う客が増え、増収につながる。新しい奉公人を雇うつばき。人定めの四つのコツに合う17歳のおさちを採用する。おさちの父親吉次郎は傘の修理の行商をしていた。吉次郎は、おさちを通じて、行商仲間の弁当をつくってくれないかとつばきに頼む。青物の残りが安く手に入るという話に乗るつばき。ただ、量が多いのと、早朝に手に入れなければならない。木戸口の鑑札や荷車の手配。ところてんのうまい、おそめ茶屋のおそめ64歳との出会い。浩太郎との別れ、江戸の飴売りの元締め八兵衛、荷車を子供が引く桃太郎車に目を付けた日本橋で広告業を営む広目屋大三郎、だいこんを訪れた日本橋の大店四人組がもたらす大店の隠居向けの弁当。その弁当の仕切りをおそめに任すつばき。だいこんでのお客とのトラブルが縁で妹のさくらが祝言を挙げる。そして、つばきは、浅草の料亭跡を改築し、一膳めし屋と料亭の合わさった店を持つ。25歳になっていた。店のなじみの浅草の木材商豊国屋木衛門とのやりとりで深川に店を出すことを決意する。

江戸の北側を束ねる今戸の芳三郎、鳶を束ねる竹町の辰五郎、日本橋小網町の鳶の頭伝三郎をはじめ、いろいろな人々が登場し、窮地に陥ったつばきを、助ける。ジェットコースのように物語は進んでいく。それもつばきの人柄、努力、商才あってのこと。いわゆる細腕繁盛だ。単行本で482ページ。連載小説なので飽きさせない。

 山本一力 赤絵の桜

2024-05-12 | 山本一力
「赤絵の桜」は、山本一力が2004年平成16年に月刊文芸誌に掲載した短編5作を収録したもの。2005年6月平成17年刊行。「損料屋喜八郎」シリーズの第2弾だ。

喜八郎31歳の手足となる人々

損料屋の番頭 嘉介
担ぎ汁粉屋 源助52歳 一番年長 探り仲間の差配役
口入屋の井筒屋の手代、佐助 39歳
豆腐屋の棒手振 平吉
鮮魚の担ぎ売 勝次 ともに27歳
北町奉行所定町廻り同心小笠木慎介配下の目明し 松之助 41歳
豆腐と油揚げの棒手振り 平吉
青物の棒手振り 辰平 ともに27歳
水売りの彦六 53歳 最年長
町飛脚の俊造 40前

江戸屋 創業100年の老舗料亭
おかみ 秀弥 四代目
仲居頭 市弥
板長 清次郎
下足番 芳蔵

そして、札差 伊勢屋四郎左衛門 頭取番頭の喜平次

寒ざらし
棄捐令が出され、江戸の景気が冷え込んだ。蔵前から1時間の船旅で着く押上村にあった料亭大島屋は薪炭屋の鋏屋森之助に買い取られ、周りに塀が作られ改修工事が始まる。
御家人青山清十郎は札差の伊勢屋に三千両を用立てろという。伊勢屋四郎左衛門は断るが、青山家は札差を伊勢屋から変えると言い出す。その代わりの札差は、喜八郎が関わる米屋だというのだ。米屋政八は、与力の秋山に、三千両の使途は薪炭屋作る窯風呂「ほぐし窯」のためだという。喜八郎は窯風呂に探りを入れる。鋏屋も青山家も、出は肥前の有田だという。そして陶器や磁気の修繕を行う焼継屋有田屋が江戸で店を開く。有田屋も肥前の出だった。

赤絵の桜
1年半前に深川に小料理屋を出した纏屋の富蔵夫婦は、亀久橋の掃除をしている。その川に橋からものを投げ込んでいた男がいた。陶器場で焼き物づくりに携わる練り足職人の長太郎だった。神田の頃からの富蔵の旧知の伊勢屋は、長太郎の投げ込んでいた木箱の中にあった皿を見て、こんないけないものを持っているのかという。喜八郎配下のメンバーが恒例の日本堤で花見をするために集まる。そこで絡まれた連中の中に、15年前に俊造の前から姿を消した一つ下の女房おちずがいた。俊造のもとに2歳の時におちずと共にいなくなった娘おまきが訪ねて来る。おちずは、ほぐし湯で湯女(ゆな)をしているという。おちずが暮らしているのは長太郎だった。

枯茶のつる
おまきは、口入屋で会ったおちょうに蕎麦屋を紹介される。しかし、そばや夫婦の冷たい仕打ちにおまきは蕎麦屋を飛び出してしまう。おちょうは、詫びるために、俊造と暮らすおまきのもとを訪れる。喜八郎は増水する大川の土嚢袋の調達を伊勢屋に頼む。

逃げ水
両替商の大阪屋の手代が伊勢屋を訪ねて来る。上野寛永寺の庶務主事が話があると言う。四郎左衛門に、融資と寺の米の融通の話を持ち掛ける。その頃、喜八郎のもとに、護岸工事の飯場に人夫30人分の寝泊まり用品を30日分貸せてほしいと頼みに来る。米屋政八が喜八郎に伊勢屋が騙りにあったと話す。

初雪だるま
江戸屋にほぐし窯の番頭と手代がやって来た。25人の宴会をしたいというのだ。宴会当日を迎える。薪炭屋の鋏屋森之助を始め、御家人の青山清十郎も同席する。その青山が、江戸屋の椿がほしいと秀弥にいう。断る秀弥に青山は脇差を抜く。

山本一力 梅咲きぬ

2024-01-21 | 山本一力
山本一力の「梅咲きぬ」を読んだ。江戸深川の料亭江戸屋の女将、四代目秀弥の一代記。損料屋にも江戸屋の秀弥で登場する。2004年令和16年12月刊行。2007年9月文庫化。

38歳の先代の三代目秀弥が一人娘を授かる。玉枝だ。玉枝は3歳で踊りの稽古場へ。その師匠の春雅は母より20も年上。玉枝の成長を厳しくまた暖かく見守るさまざまな人たちがいる。春雅の夫の福松。江戸屋仲居頭の市弥、下足番の仲蔵、板長の健蔵は3代目秀弥よりも3歳年上。玉枝は深川料亭の女将としての器量を養っていく。
得意先の名を騙り、料亭に上がり込み、難癖をつけて金品を巻き上げる輩がいると知らされる9歳の玉枝は、店に来た商家の店主を怪しいと思う。そして、玉枝と武家の牧野豊前守の家臣八木仁之助との出会い。2人の関係から最後まで目が離せない。
52歳になった秀弥が倒れ、亡くなり、15歳で女将秀弥を継ぐ玉枝。秀弥二十歳の時、春雅が倒れ、亡くなり、続いて福松も。仁之助55歳、秀弥41歳の時、仁之助も国元へ去る。


山本一力 大川わたり

2023-12-24 | 山本一力
山本一力の「大川わたり」を読んだ。2001年平成13年12月刊行。

流し大工の銀次は27歳。9歳の時、大工に弟子入りし、腕を上げ、深川の六右衛門店で一人暮らしをしていた。しかし、深川の達磨の猪之介賭場に出入りし、20両の借金をした。銀次は取り立てを待ってほしいと猪之介に頼むが、猪之助は、利子は要らない、20両返すまでは、大川をわたって来るなと言い渡す。
大川の西に知り合いのいない銀次が頼ったのが、剣術道場の修繕で顔見知りの堀正之介だった。厳しい修練に耐え、読み書き算盤を学んだ銀次は、正之介から呉服屋千代屋の手代にどうかと告げられる。先輩手代の与ノ助は、銀次と親しくなった22歳の女中おやすに横恋慕し、銀次に引き継いだ仕事で銀次を窮地に立たせる。
与ノ助は、深川の達磨の猪之介賭場に出入りし、借金をつくる。銀次をよく思わない猪之介賭場の代貸の新三郎は与ノ助を使い、銀次を追い詰める。新三郎は猪之介を見限り、上野の賭場を仕切る公家の弐吉と手を組む。銀次には手を出すなという猪之介は、張り番の仙六に新三郎を見張らせる。
途中、おやす、猪之介の生い立ちが。銀次を信じて見守る正之介、千代屋の当主太兵衛。
銀次に引き継いだ与ノ助の贔屓筋の踊りの師匠藤村柳花は、銀次に大口の取引を持ち掛ける。それは、銀次を陥れ、千代屋から千両をいただく新三郎の罠だった。
両国の料亭折り鶴で主要人物は集まる。太兵衛と弐吉、新三郎。そして隠し部屋の猪之介、正之介、銀次。息詰まるクライマックスシーン。そして、想像もできない筋書きにハラハラだ。最後までそれぞれの登場人物を際立たせ、最後に結びつける著者の力量に完敗。

舞台化されたという。濃密な作品だ。

山本一力 あかね雲

2023-11-26 | 山本一力
直木賞作家の山本一力。昭和23年1948年生まれの75歳。私より10歳年上の彼が、「蒼龍」で文芸誌の新人賞を取ったのが、平成9年1997年49歳の時。そして「あかね雲」で直木賞が2002年平成14年54歳の時だ。略歴では、14歳で上京、十数回職を転々とし、借金トラブルを抱え、起業するも倒産。山あり谷ありの人生。

山本一力の平成13年2001年10月刊行の「あかね空」を読んだ。直木賞作品。

江戸の深川が舞台。京都郊外の貧農の三男の永吉は、12歳で豆腐屋で修業を始め、25歳で一人、京都から上京し、江戸深川蛤町で豆腐屋を始める。その長屋に住む桶職人源治とおみつの一人娘おふみ。この二人を軸に温かく見守る人たちと邪魔をしようとする人たち。
永吉とおふみは結婚し、子どもも栄太郎、悟郎、おきみの3人授かり、豆腐屋の「京や」を成長させるも、思いの行き違いから夫婦の心は徐々に離れていく。子どもたちも両親の諍いから悩みを深くしていく。そして、登場人物は次々と亡くなっていく。

永代寺前の豆腐屋の相州屋の清兵衛と妻おしの、商売敵として登場する老舗の豆腐屋の平田屋の庄六。そこから仕入れた豆腐を売り歩く棒手振の嘉次郎。相州屋のおしのと昵懇の料理屋の江戸屋女将の秀弥。永代寺の賄いの西周。賭場を取り仕切る傳蔵。穀物問屋日本橋の広弐屋など、個性的な人々が一家とかかわりをもっていく。

小気味の良い短めのセンテンス。展開も早い。その中でそれぞれの心情が丁寧に描かれていく。

街では豆腐が売れない永吉。嘉次郎はおふみに、お寺に豆腐を売り込んだらと進言する。
平田屋は相州屋をつぶそうと画策する。相州屋は25年も前に、一人息子を4歳の時、人さらいにさらわれていた。相州屋は永代寺に納めていた豆腐を京やに変えてくれと、寺の賄いの西周に申し出る。
相州屋清兵衛の死。平田屋は相州屋を手に入れようと画策する。おふみは湯豆腐を料理屋の濱田屋に売り込む。おしのは、20年経って息子が現れなかったら店を京やに譲ってほしいと言い残し江戸を去る。
豆乳、種豆腐。おふみは種豆腐を料亭の江戸屋に売り込む
悟郎が生まれてすぐに源治が事故で亡くなる。おきみの三歳の時におみつが無くなる。そして永吉とおふみも。賭場を取り仕切る傳蔵。傳蔵に京や乗っ取りを働きかける平田屋庄六。傳蔵は4才の時に女壺振りにさらわれていた。

山本一力 いっぽん桜

2023-10-08 | 山本一力
2002年平成14年6月から2003年平成15年2月まで、月刊文芸誌に掲載された4作品を所収した「いっぽん桜」2003年6月刊行を読んだ。

いっぽん桜
大店の口入れ屋井筒屋の頭取番頭の長兵衛。54歳。七代目の重兵衛は自分は隠居し、41歳の息子に身代を譲るので、長兵衛にも身を引いてほしいと告げる。今度の頭取番頭は40歳だ。
12歳で丁稚に入り、手代、結婚、2番番頭、そして47歳で頭取に。妻と娘がいるが、これまで仕事一筋に勤めてきた。なぜ、この俺が・・・。商売敵の千束屋からの話を雇いの誘いと思い込み、井筒屋からはその後音沙汰はない。その長兵衛に魚卸の木村屋伝兵衛から、帳面をみてくれないかと誘いがかかる。これまで通り自分のやり方を持ち込んだ長兵衛に店内から不満が出る。
7年前に家に植えた桜は、植えられたところで枯れずに毎年、花を咲かせたり、咲かせなかったり自分のリズムで生きている。井筒屋のことを「うち」といまだに言う長兵衛も自分の立ち位置に気づき始める。

萩ゆれて
土佐藩の下士、服部兵庫は22歳。妹の雪乃と母志乃の3人暮らし。父清四郎は志乃の薬代のため、出入りの商人からまいないを得るようになる。これが城主に知れて切腹を申し付けられた。父の上役も息子を使い、兵庫を木刀で打ちのめす。その傷をいやすため、海辺の湯治場にいた、兵庫は漁師の娘、りくと出会う。兵庫は武士という身分を捨て、りくと魚屋を営みを始める。志乃と雪乃も組屋敷を出て、ともにともに住み始める。兵庫の親戚は自分の保身のための冷たい視線を注ぐ。いやがらせをする上役たち、2人を温かく見守る雪乃と、りくの父と兄。りくの看病に次第に心を開く志乃。

そこに、すいかずら
日本橋の料亭「常盤屋」の一人娘秋菜が、亡き父が大枚をはたいてこしらえたに雛飾りを、店から舟で菩提寺へ運び出すシーンから始まる。父の治左衛門は5代目で、料亭の2代目だった。紀伊国屋文左衛門、紀文との出会いが、徳川5代将軍綱吉の上野寛永寺の根本中堂の造営に関わることになる。そこで設けた財で、治左衛門は一人娘のために、雛飾りを作る。そして、当時多かった火事に巻き込まれ、秋菜の両親も亡くなる。それから5年、秋菜は立ち直れずにいた。雛飾りは、治左衛門が作った頑丈な蔵にしまわれ、難を逃れていた。

芒種のあさがお
芒種は二十四節気の一つで夏至の前。田植えが始まり、梅雨めいてくる。
江戸の漁村、芝田町の酒屋、伊勢屋徳蔵とおてるは結婚して4年後に子宝に恵まれた。その女の子がおなつだ。徳蔵はあさがおが大好きだった。17歳のおなつが深川八幡宮の祭りに出かけ、江戸でも有名な深川のあさがおづくりの職人の要助の息子、亮助と出会う。しかし、亮助の母、おみよが易断に凝っていて、二十歳まで結婚を許してくれない。結婚できても、易のせいで、暮らしがややこしい。そのおみよも、おなつたちが結婚して4年目に亡くなる。子宝に恵まれないおなつ。亮助と要助の3人暮らしが始まる。

山本一力 損料屋喜八郎始末控え

2023-10-01 | 山本一力
平成15年2003年6月文庫の「損料屋喜八郎始末控え」を読んだ。4作品のうち、2作品は平成11年1999年5月と12年2000年3月に月刊文芸誌掲載。単行本は平成12年2000年6月刊行。

「万両駕籠」
深川八幡の例大祭。札差の笠倉屋が料亭の江戸屋(女将は秀弥)でトラブルを起こすことから物語は始まる。座敷隅いたのが、蚊帳や布団などの貸出業を生業とする損料屋の喜八郎と連れの嘉介だった。
浪人の一人息子、大畑喜八郎は、剣術の道場で与力の秋山に出会い、配下の同心になった。上司の命令に逆らえず、米相場に手を出した秋山は、大損する羽目に。喜八郎も詰め腹を切らされ同心職を失う。それを救ったのが、先代政八の米屋だった。

武士相手に借金を融資する札差。その借金を帳消しにする幕府の棄捐令が出されようとしていた。阿漕な札差の伊勢屋四郎左衛門に奉行所の籠が迎えに来る。

「騙り御前」
喜八郎30歳。恩義のある先代米屋政八。その息子の米屋を、役者扮する偽の公家と御家人を使い、伊勢屋が騙そうとするのを救う。米屋は、伊勢屋と笠倉屋、御家人、公家を江戸屋に呼び出す。喜八郎は米屋の番頭として、立ち会う。

「いわし祝言」
料亭の江戸屋の板場の清次郎は、同じ店の奥勤めのおゆきと祝言を上げる予定だったが、様子がおかしいと女将の秀弥は、喜八郎に相談する。汁粉屋の源助を聞きこみに立てる。おゆきの家に渡世人の平田家の伝七が、清次郎に40両の貸しがあると訪ねて来る。清次郎は実家の漁師の兄たちのため、船の修繕代を出そうと思案していたが、伊勢屋の手代の長之助に嵌められる。喜八郎は伊勢屋に乗り込む。長之助はコメ相場に手を出し。伊勢屋に大穴を空けていた。

「吹かずとも」
松平定信の棄捐令で、商売が傾いた笠倉屋は、伊勢屋を巻き込み、たくらみを実行する。伊勢谷の借金を返すと大判の金貨を渡す。伊勢屋は、大判を富岡八幡宮の例祭に寄進する。相談を受ける喜八郎。同心秋山を巻き込み、例祭の神輿が練り歩く。

山本一力 蒼龍

2023-09-24 | 山本一力
平成14年2002年4月に刊行された山本一力の「蒼龍」。5作の短編からなる。

のぼりうなぎ
指物職人の弥助は独り者の32歳。独り立ちして11年になる。日本橋の呉服の大店、近江屋の七代目、養子の九右衛門は、弥助に、店の通い手代になってほしいと頼み込む。近江屋には一元の客には目もくれず、客を粗末にする家風が染みついていた。久右衛門は、いずれは店が傾くと、仕事ぶりが丁寧で驕ったところのない弥助を、店の気風を変える起爆剤にしようと考える。そんな弥助に店の番頭や手代は冷ややかな対応を取る。孤立する弥助。

節わかれ
灘の酒だけを取り扱う酒問屋の稲取屋。60歳になる三代目勝衛門の妻暁代が病に倒れ、灘の酒が凶作で手に入らなくなる。150の取引酒屋は、34軒に減り、窮地に立たされる。高価な灘の酒の安売りを思いつくが、思うように売れず、飲屋とのトラブルも。そこで、息子の高之介が店主となり、稲取屋の直営の小料理屋を出す。そこに寛政の改革で札差の武家への借金を帳消しにする棄捐令が出され、景気が悪くなるが、縄暖簾の町場の飲屋は持ちこたえる。

菜の花かんざし
房州勝山藩の剣術指南役の堀家。晋作はその三代目。妻の柚木乃、10歳の真之介と6歳のかえでと幸せな暮らしをしていた。そこに江戸にいる馬屋番の晋作の実弟が手綱を持つ馬があばれ、藩主の世継ぎが亡くなったこと、実弟を罵倒した用人を惨殺したことが知らされる。晋作は一家断絶、血縁皆殺しを受け入れる。しかし、深川のうなぎ屋から嫁入りした柚木乃は、子どもたちの命を守ると晋作に言う。武士の体面を重んじる晋作と命の尊さを説く柚木乃。晋作は悩む。

長い串
土佐藩の江戸留守居役、世襲の7代目、森勘左衛門51歳と一回り下で森が目をかけている吉岡徹之介39歳。徹之介は森の命によりが藩主の土佐への帰藩の道中奉行に命ぜられる。徹之介から刻々と寄せられる道中の便り。勘左衛門は、松の盆栽が縁で、掛川藩の江戸留守居役の甲賀伊織と親しくなる。掛川は藩主山内家の元所領だった。川止めの島田宿で行った藩主隣席の川越人足と土佐藩士の相撲大会を、同じく帰国途中の人吉藩が大目付に訴えた。家老は。勘左衛門に徹之介に詰め腹を切らせよと告げる。

蒼龍
深川冬木の裏店に女房のおしのと暮らす大工の弦太郎。むすめのおきみが生まれた。そんな折、弦太郎は博打に手を出し、5両の借金を背負う。さらにおしの兄が、店の金50両に手を付け、いなくなる。ふたつの借金を背負う弦太郎は、絵を描くのが好きな特技を生かし、瀬戸物の大店、岩間屋の茶碗湯のみの新柄の募集に応募する。1年目、2年目と入選はするものの、決定には至らない。3度目も入選となる。

「蒼龍」は処女作で、1997年平成9年にオール読物新人賞作品となる。