詩仙堂の床の間

2012-08-22 20:30:12 | アート・デザイン・建築

120822

京都に詩仙堂というお寺があります。お寺とはいっても、もともとは住宅として使われていた遺構で、明るく居心地の良い空間が、東山の懐にあります。

月が綺麗に見えるように、との配慮からといわれていますが、居間の間取りはジグザグと曲がっていて、そこからは柱だけを残して庭に解放された空間が広がります。

ふすまも障子も取り払われた広々とした居間。畳の上にごろりと横になってくつろぎたくなるような場所ですが、この居心地の良さは、いったいどこからくるのだろう、そんなことが気になって、訪れては長く時間を過ごしてきました。

これまでも何度も訪れました。晴れの日、曇りの日、雨の日、そして暑い日も雪の日も。そういえば観光客でにぎわう秋はあまり覚えがないですが・・・。いつ見ても明るく開放的ではあるのですが、開放的な庭ばかり眺めていると、ちょっと所在無い気分になるときがあります。でもそんな時に、視界の傍らにはいって心を落ち着かせるような存在が、床の間でした。居間の奥に位置し、とても簡素なつくりで、そこには掛け軸と花が活けてあります。書院風の障壁で囲まれて、床の間のあたりだけは少し陰りがあって。

どこまでも広がっていく広々とした庭に対して、床の間は、どこか内省的な静けさがあって、深く落ち着く奥行きをもっているように感じられてきます。それはたった一畳分の小さな場所ではあるのだけれども。掛け軸や花を通して、イメージの世界に気持ちが向かうからなのかもしれません。それは実際の光景よりも遥かに広く深い世界かもしれません。

詩仙堂の居間で、目の前に広がる庭のパノラマに目を奪われるその脇で、床の間がひっそりと、でも優しく、家のもっとも奥深い「内部」を暗示しているような感覚が、時々じわりと脳裏をよぎります。

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