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ピロスマニの椅子

2025-03-22 23:14:19 | 写真


設計した住宅ができあがると、いつも自分で写真を撮りに行きます。そのときにいつも連れていく「相棒」のような存在があります。
それがこの額縁の写真。
グルジアの画家ニコ・ピロスマニが暮らした家にある、テーブルと椅子の写真。
暗い画面のなかに、使い古されたテーブルと椅子が、鈍い光を放っています。
その姿は写真構図のなかでトリミングされ、全体像はわかりません。
そこにあるのは、画家の痕跡、のみ。

この写真を撮ったのは、写真家でもあり額装家でもあるMさん。
グルジアに行って写真を撮ったんですよ、そんなふうに案内をいただきニコンプラザに個展を見に行ったときのこと。
展示されていたこの写真にすぅっと引き寄せられた感覚を、今でも覚えています。
そのときはまだ、この被写体がピロスマニに由来するものとは知らずに、でもとてもこの写真が気になり購入したのでした。

姿かたちがあるものは、デザインがいいわるいとか言われることもあるけれども、デザインのよしあしで計れない存在感、というものがあると思います。
目の前にあるモノの姿形にいったん目がとまるにしても、そのさらに奥にイメージが続いてゆく。いろいろなことを内側に秘めて佇む、静かな存在感。
ピロスマニの家具を撮ったこの写真は、そんなことをあらためて思い返させてくれます。

できあがったばかりの新しい家のなかに、この額縁の写真があるのを感じながらカメラのファインダーを覗いていると、いつかこの家が古くなり、暮らしの痕跡を美しく醸し出すようになる時のことがイメージされて、心が満たされます。
でも、ただ漠然と古くなるだけでは、そのような雰囲気は表れません。
空間のなかの光と陰影によって、モノの存在感が引き立てられたときにはじめて、そのような雰囲気が表れると思うのです。
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吉村障子

2025-03-16 22:58:36 | 進行中プロジェクト


目黒区ですすめてきた住宅ができあがり、引き渡しを迎えました。
この家には大きな「吉村障子」があります。
吉村障子とは、多くの名建築を残した建築家・吉村順三が考案した障子のデザインのことです。
障子のマス目の桟がすべて同じ寸法でできているので、障子を何枚も建て込んだ時にきれいな格子状になり、それがさながら1枚の光面になる、というイメージの障子です。
住宅デザインをやっていると、そうした障子の風情に憧れもあり、多くの建築家がそれぞれの設計作品の中に採り入れてきました。



この家では、建て主のYさんから、ぜひ吉村障子を、というリクエストがありましたので、それを採り入れるイメージを最初から胸中に描きながら設計を進めてきました。
ぼくが大事にしたかったのは、障子の白い光を印象的に見せたい、ということでした。
そこで、白い光を引き立たせるために、まわりの壁や天井を白色ではなく、少し灰色にしました。
そうすると室内は陰影を帯びた静かな雰囲気を湛え、障子から白い光が溢れ出してくれました。

そしてその白い光に照らされた杉のフローリングの木目や質感もまた、美しく引き立ちます。
格子の光面を背景に、Yチェアも映えますね。

引き渡しの前にしばし、静謐で凛とした室内のなかで、一人で過ごす時間を堪能しました。





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共にあること。

2025-03-11 22:28:14 | 大磯の家


3月11日。
14年前のこの日を境に、ぼくにとっても少しずつ建築への向き合い方が変わったように思います。
カタチをつくることそのものよりも、居場所をつくること。そんなことをより意識するようになりました。

大磯の家。
ダイニングの大きな窓からは、自らが手入れする庭が見えて、緑が風に揺らめきます。
建て主が愛用してきた古びたダイニングテーブルと、新しくこの家のために購入した家具。
そうした家具や小物が、緑を通した柔らかい自然光のなかで、静かに息づいているかのよう。

こうしたものたちと、共にあること。
共にあるという安堵感は、心に平穏をもたらしてくれます。
それらは変化はしてゆくけれども、変わらずそこに在り続ける。
大磯の風景も、個人のなかの思い出も織り込まれている。
見えるもの、見えないものも含めて、そこにあるものが愛おしく大切なものに感じられるといいな。

そんなことを思いながら、家をつくるようになってきたように思います。
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背景の壁

2025-02-19 21:22:05 | 北茨城の家


北茨城の自然豊かな山あいの土地に建てる、新しい家の計画。
まわりを見渡せば、長きにわたって手入れされてきた実家の庭があり、その一方で、海の方につながっていく風景の広がりがあります。
そのような自然豊かな環境を目の前にすると、新しい家ではあるけれども、風景に寄り添うような家をつくりたくなります。

家の中の居場所ごとに、風景が特別に感じられるようにしたいと考えました。
ですから、すべてを見渡す大きな窓をつくるというよりも、窓の位置や大きさを吟味して、そこにしかない風景との交歓をたのしめるような場所をつくりたかったのです。



窓のまわりの壁は余白としてゆったりと広がり、左官塗で仕上げられる予定です。
窓から入る自然光に照らされ、左官塗の壁のざらりとした質感が、美しい光と陰影のマチエールをつくってくれることでしょう。
置かれた家具や食器もまた、趣のある雰囲気に感じられるといいな。

そんな雰囲気に似つかわしいデスクコーナーの家具はどんなふうに作ろう。
建て主のMさんとそんなことを相談していると、こんな感じはどうですか、とMさんがデスクの小さな模型を作ってくれました。
Mさんは額装づくりの仕事をされていて、こういう小さな模型は短時間でチョチョイのチョイで作ってしまうのです。
実際の素材で作られた模型を、実際の床フローリングの材料や、左官塗のサンプルと合わせてみると、質感がイキイキと感じられます。



この左官塗の壁には、Mさんによって額装された絵や写真が飾られることでしょう。ゆったりと広がる壁は、額装の背景としてもうってつけです。
そして、額装の木の質感を引き立てるように、壁の色は少しグレーに。

確かな素材感のあるものだけを使って、家をつくる。
そんな潔さがもたらすであろう美しさと居心地の良さに、思いを馳せます。





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大は小を兼ねる?

2025-02-09 21:36:37 | 桜坂の家


最近、取り組んでいる実施設計が佳境になって大忙し。
作業的にどんどんとこなしていければよいのですが、デザインの肝になるところはしばし沈思黙考。
そんなふうにして時間がかかってしまいます。

たとえば写真の部屋の窓の位置や大きさを考えていたときのこと。
この部屋は寝室で、正面の壁には、その気になれば壁いっぱいに窓を大きく開けることもできました。
ですが寝室なので、腰壁が高いぐらいのほうが落ち着くかな、座っていても外から見えないぐらいの高さに。
明るすぎず、でも部屋全体にふんわりと明るさが広がるといいな、と思い、障子で自然光を和らげて。
窓の外には、道向かいに立つ古い保存樹木が見えるはず。障子を開けるたびに、パッと新鮮に樹木が見えるといいな。



そんなことを考えながらできあがった窓辺のデザインが、こんな感じ。
窓は大きくしておけばよい、明るければ明るいほどよい、という考え方もあるかもしれませんが、そこで過ごすことを考えて、ちょうどよい心地よい在り方を考えること。
そうすることで、そのようにしなければ生まれない風情が、生まれる。
大は小を兼ねる、ということはないと思うのです。
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