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カタルニア・ロマネスク

2023-12-09 21:28:13 | 写真


ぼくは高校生のとき、一冊の本に出会いました。
田沼武能写真集「カタルニア・ロマネスク」。スペインのカタルニア地方にある山奥の集落にある、ちいさくて素朴な礼拝堂の数々と、それらと共に暮らす人々を撮った写真集です。
その世界観にぼくは次第に惹かれるようになり、飽くことなく繰り返し眺め、大事に抱えるようにして生きてきました。
ぼくの美意識や価値観や、生き方の筋道はすべて、この写真集に導かれてきたものです。人生の大事な局面には、いつもこの写真集からの後押しがありました。

そして、見えざる不思議な力に導かれるようにして、この写真集に深く関わる方々に出会うことができたのです。
写真家・田沼武能のご家族、そしてこの写真集の当時の編集者。そして巡り合わせてくれたのは、ぼくの施主のMさん。
ぼくは、この写真集にどれほど影響を受け、私淑し、導かれ、励まされてきたことか。そんな溢れる感謝の思いを、うまくお伝えできたでしょうか。

あらゆることが、今回の出会いにつながる伏線だったのだと思わざるを得ません。
なんだか、映画にでもなりそうなシナリオだな。誰か撮ってくれないかな。

「カタルニア・ロマネスク」と、ご家族からいただいた贈り物が、静かに集う光景。
それらが置かれたテーブルも、その背景の室内も、すべて「カタルニア・ロマネスク」への私淑から生まれたものです。
建築家として、ひとつの筋道を通してこれたのは幸せだなと思います。
そして、今回の感動的な出会いとご縁に、感謝の思いでいっぱいになります。



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設計図にあらわれないもの

2023-11-22 22:58:13 | 住宅の仕事


建物の設計というのは、つまるところ材料と寸法を決めることにあります。
それが設計図面に記載され、物事の輪郭線として描き表されます。

でも、空間に魅力や彩りを与えるのは、むしろカタチのないもの、輪郭線として描き表されないもの、というふうにも思います。
たとえば、色が剥げて古色を帯びた木のドアの風合い。
たとえば、ロールスクリーンに映り込む木漏れ日のゆらめき。

実体としての姿カタチがないもののなかに、空間の魅力の本質が詰まっている。
建築を設計するというのは、そうしたカタチ無きものに目を向けることなのかなと思っています。

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夕方の家

2023-11-12 21:29:44 | インナーテラスのある家


暑い夏のつぎにストンと秋が来たと思ったら、こんどは急に冬のような寒さに。
午後4時もまわると薄暗くなり、日もだんだんと短くなってきました。

日が翳り、家のなかのランプを灯す。

そうすると家の中にいるのがなんだか安心感があって、そんな雰囲気がとても好きです。
写真は先月に訪問した世田谷区の家。庭に面してコーナーウィンドウのあるダイニングがあって、そこにはお気に入りの家具やランプが置いてあります。
日中、美しく見えていた庭の緑は徐々に暗がりのなかに沈んでいき、室内にある木の質感が、ランプの灯りに照らされてぐっと引き立ちます。

ペンダントライトやスタンドライトは、そんな「ランプを灯す」風情があって、素敵ですね。

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鎌倉小町へ

2023-10-28 22:24:08 | 鎌倉小町の家


鎌倉の小町にできあがった家。植栽の植え付けも終わったとのことで、お伺いしました。
鶴岡八幡宮の門前町らしい古風な趣きのある界隈にしっくり馴染むよう、控えめに佇む外観としてデザインしました。
建て主は裏千家の茶人で、家には茶道の稽古にかかわる諸室が設けられています。

京畳でつくられた八畳広間は、明るく柔らかい雰囲気の部屋です。
亭主が座る畳の向こう側には庭が広がり、午後の穏やかな光が入ってきます。
住宅の中にある和室ですから、やはり日常使いとしても気持ちの良い部屋にしたいですね。

撮影をさせていただいた後、薄茶を一服いただきました。
その美味しいこと!

午後の時間、照明もいらず、自然光だけの室内でおしゃべりするのは、穏やかでとても楽しい時間でした。
設計のはじまりからの思い出話にも花が咲き。
できあがった家は、訪れた方々からも「とても居心地がよい」と評判をいただいているそうで、設計者としては冥利に尽きる思いです。



お茶の道具のお話にもなり、所有されている「高台寺蒔絵」柄のナツメを拝見しました。
ナツメというのはお茶の粉を入れておく器のことなのですが、和室のなかで見るその姿は、なんとも美しい趣きがあります。
こういう雰囲気を、言葉でなんと表現したらいいのでしょうか。

楽しく盛り上げていくようなインテリアではなく、むしろ穏やかさのなかに沈んでいくような不思議な空間。
そんな室内をつくれたことが、とても嬉しく思っています。

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ジョットの家

2023-10-15 22:23:00 | アート・デザイン・建築


絵のなかに描かれた建物に惹かれることがあります。
そのひとつがこれ。ジョットの絵のなかの建物です。
ジョット・ディ・ポンドーネは、ルネサンス絵画の礎を築いた画家として有名ですが、絵の背景に描かれる自然や街並みに、不思議な魅力があるのです。

簡素な箱の組み合わせのような外観に、大小の窓が開けられています。
平屋建てなのか2階建てなのかははっきりわかりませんが(まあ、適当なんでしょうね 笑)、正面の大きな窓はきっととっても大きなサイズなのでしょう。
その窓の先にはシンボリックな木が植わり、斜面から風景が一望できそうな雰囲気です。
室内の様子はよくわかりませんが、壁の渋い色といい、気持ちよさそうな窓辺がありそうな雰囲気といい、そして赤い屋根の塔の可愛らしさといったら!

可愛いらしいといえば、ルネサンスよりも前の時代の宗教画は、人物の個性や感情を表現するということはありませんでした。
ジョットが、人間本来の個性や感情を絵に表したという点でも画期的なのです。



母子像の絵画。優しいマリア様のお顔と、ほら、牛たちも微笑んで。
平明で簡素で優しい絵。

絵画に限らず、ですが、そんな気分をもつものが、ぼくは大好きです。
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