ねこ庭の独り言

ちいさな猫庭で、風にそよぐ雑草の繰り言

『統帥権について』 - 7 ( 昭和天皇の「お言葉」 )

2018-03-21 14:07:47 | 徒然の記

 三潴 ( みつま ) 氏の著作には、多くの貴重な意見がありますが、今日で終わりにしたいと思います。

 はじめに申しました通り、「ねこ庭」は「統帥権」で苦労した富田氏の意見に賛成しています。軍部の独走を誘発する「統帥権」には、賛成しません。

 氏の意見のうち、前回までは「ねこ庭」と違わない部分を紹介しきましたが、最後の今日は、大きく乖離する部分を紹介したいと思います。

 ・大日本帝國憲法第三条の、「天皇ハ、神聖ニシテ、侵スベカラズ」ということは、何もプロシャの独裁君主の真似をしたのではありません。

 ・そうでなくて、わが国古来の伝統にのっとって、天皇は日本の生命の大黒柱である、一切の生命の中心者であられると、そう意味における、神聖不可侵を言っております。

 ここで氏は、大日本帝國憲法のゲルマン法的解釈を述べています。念のため、氏のゲルマン法的解釈もう一度紹介します。

 ・ゲルマンの思想は全体主義でなく、本来みんな一心同体だといういわば生命の原理というか、そういうところから出発しているのです。

 ・だから人間同士の間でも、決して利害損得とか権力の対立関係などを、互いの秩序の基礎とは考えず、本来みんな一心同体だと、そこから出発しているのです。

  これ以後氏の説明は、次第に宗教と同じになりますが、統帥権はあくまで現実政治の論理であり、法律上の問題です。
 
 ・さてそこで、軍隊というものは何を守るのかということです。どこの国においてもそうでしょうが、国防の本義は自分の国を守るということであります。
 
 ・つまり、国体を守るということです。国の大黒柱である、中心をお守りすることが一番大切なことになるのでありまして、万世一系の天皇様をお守りするということです。
 
 ・これが、建軍の本義であらねばならないのです。
 
 氏の論理を推し進めていけば、このような結論になります。しかし昭和天皇は、最後の御前会議でポツダム宣言を受け入れる時、次のように述べられています。
 
 「皇土と国民がある限り、将来の国家生成の根幹は十分であるが、この上望みのない戦争を続けるのは、全部を失う惧れが多い。」
 
 「事ここに至っては、国家を救う道は、ただこれしかないと考えるから、堪え難きを堪え、忍び難きを忍んで、この決心をしたのである。」
 
 「今まで何も聞いていない国民が、突然この決定を聞いたら、さぞかし動揺するであろうから、詔勅でも何でも用意してもらいたい。あらゆる手を尽くす。」
 
 「ラジオ放送もやる。」
 
 ここまで天皇を崇める氏が、陛下の大切な「お言葉」を知らなかったのでしょうか。皇土と国民を失っては全部を失うと語られ、ご自身の安全さえ守れば良いとは語っておられません。
 
 これを知る者には、以下の氏の説明の空疎さが目立ちます。
 
 ・そこで軍人勅諭においては、一番はじめにわが国の軍隊は、万世一系の天皇の統率したまうところにあるとなるのです。
 
 ・ただ天皇統治とか、天皇主権とかいうことでなく、万世一系のという言葉がつくのです。
 
 ・天照大神の御霊を受け継がれて、何代にもわたり変わらず御一柱であられるということです。
 
 ・あくまで万世一系の天皇さまが、いつでも御祖先の大御心を抱かれて、いろいろの時代いろいろの事情によりまして、ある場合には大きく花がひらき、ある時は冷たい風に当たる時もあるわけです。
 
 ・個々の天皇さまがお立ちになっていることを、西洋の君主制のように解釈しては間違いだと思います。
 
 平成15年に氏は87才で亡くなっていますから、今回上皇陛下がNHKを使い、国民に述べられた『お言葉』については知らないままです。
 
 たとえ知っていたとしても、氏は敬い伏すだけだったのかもしれません。氏のように、陛下が国民・国土を超越した絶対の存在という意見に、「ねこ庭」は合点がいきません。

 上皇陛下の退位の『お言葉』について、「ねこ庭」では次のように述べました。

 ・私を責める保守の人々は、いったいどこに目を向けているのだろうか。

 ・彼らは、本当に日本を思う保守なのだろうか。それとも単に天皇陛下万歳と、叫びたいだけの愚かな右翼なのだろうか。

  同じ疑問を、氏に向けたくなってきます。「ねこ庭」は無批判に天皇を崇拝する頑迷保守の人々を、嫌悪します。
 
 論理が整っていても、狂信と紙一重の理屈には賛同しません。右でも左でも、極論は日本に害をなします。大事なのは庶民の常識だと、いつも考えています。
 
 「ねこ庭」では、三潴 ( みつま ) 氏のゲルマン法の説明より、統帥権と戦った富田氏の意見を昰とします。
 結論を紹介して、このシリーズの終わりといたします。
コメント (2)
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