ねこ庭の独り言

ちいさな猫庭で、風にそよぐ雑草の繰り言

『沖縄独立す』 ( 柘植久慶氏の著書 )

2018-03-07 22:00:41 | 徒然の記

 柘植久慶氏著『沖縄独立す』( 平成10年刊 KKベストセラーズ ) を、読了。

 沖縄に関するドキュメントかと思いましたが、フィクション小説でした。三年前の6月に読んだ、村上龍氏の『半島を出よ』を思い出しました。

 突然福岡に上陸した、北朝鮮の特殊部隊員9名が、野球試合中の福岡ドームを急襲し、観客3万人を人質にして福岡市を占領してしまう、という話でした。

 日を置かず、追いかけるように12万人の北朝鮮精鋭軍が上陸し、福岡県の独立宣言をするのですが、危機管理能力のない政府は、総理大臣以下右往左往するだけで、なんの決断もできず、同盟国アメリカは、日本のためには動かないという、面白くもなんともない小説でした。

 この時の書評を、「ねこ庭」の過去記事から紹介します。

 「この小説の醜悪さは、どうしようもないレベルだ。」

 「作者の人品の卑しさから生まれる叙述は、批評にも値しない。」

 「形容しがたい不愉快さと、憤りが抑えられないから、珍しくて紹介した。」

 柘植氏の著作は、舞台が沖縄で似たような設定です。村上氏は、北朝鮮軍の特殊部隊の急襲から始めますが、柘植氏は、沖縄県の反日政治家の手引きを原因にします。

 いずれの話も登場する政治家が無能で、胆力のない人物として描かれます。

 日頃は自民党の政治家を酷評していますが、そんな人間ばかりであるはずがないと、弁護せずにおれなくなる奇妙さがあります。村上氏は反日というより、日本人蔑視の作家で、敵の前でへたり込んでしまう政治家を好んで描きます。

 柘植氏は、勇気と常識のある日本人も登場させ、国を売る沖縄の反日と戦う様子を、保守の立場から描いています。村上氏ほどの嫌悪感を覚えませんが、最後がいけません。

 反共、反中の政治家が、一人残らず殺されてしまうという結末です。いくらなんでも日本の政府が、沖縄の独立を何もせず見過ごすはずがあり得ません。アメリカにしても、同盟国の名が泣きます。

 と反論しつつも、北朝鮮に拉致された日本人を、40年以上放置している政府を思うと、声が小さくなります。

 20年前の本ですが、「沖縄独立」というテーマがそんな以前から語られていたのかと、むしろその方に驚かされました。

 荒唐無稽な村上氏の話と異なり、柘植氏の作品には事実が混じるので、翁長知事の県政を見ていると、「中国の手引きをする政治」が笑えなくなります。

  小説の中の日本の首相が橋田龍介となっていますので、念のためかくにんすると、出版当時の首相は橋本龍太郎氏でした。国際常識もなく、沖縄に関する知識もない無能無策政治家と、柘植氏は、そんなふうに橋本首相を見ていたのでしょうか。

  小説は三部で構成され、第1部が「沖縄の独立」、第2部が「独立し、繁栄する沖縄」、第3部が「中国に侵略される沖縄」です。本では別のタイトルになっていますが、本を読まない人にも分かるように、「ねこ庭」で、内容に沿い勝手に変更しました。

 本物らしい事実が含まれているから小説が優れていると、そんなことは誰も言いません。小説には小説の技法と、文章があります。生煮えの野菜のごった煮では、美味しいシチューにならないのと同じ理屈です。

 参考のため、裏扉にある著者の略歴を紹介します。

  ・昭和17年、愛知県生まれ、昭和40年慶応大学法学部卒。

  ・在学中より、コンゴ動乱や、アルジェリア戦争に参加。

  ・昭和40年代よりアメリカ特殊部隊に加わり、ラオス内戦に従事

  ・昭和61年より、作家活動に入る。

 私より二つ年上で、存命なら今年76才です。肩書きは小説家だけでなく、軍事評論家でもあります。歴史小説、時代小説、アクション小説、ノンフィクションと、幅広い分野の作品を発表していると、ネットの情報で知りました。

  作品には心を動かされませんでしたが、「まえがき」の氏の言葉に賛成しました。これを読めば、本を読む必要がなくなります。

 「まえがき」から賛成した部分というより、大抵の人が知っている当たり前の話を抜書し、それで今回の「ねこ庭」を終わたいと思います。

 KKベストセラーズがどんな出版社か知りませんが、本を買って読んだ人には同情しかありません。図書館の無料配布の本ですから、「ねこ庭」は出費を気にせず、日本の出版界の多様性に驚きながら、以下「まえがき」を紹介します。

  ・このところ、沖縄問題が多く論じられてきた。

  ・だが、まったく意味を持たない感情論的なものが、かなりを占めている。

  ・「沖縄の心 」などといった極めて抽象的な論議では、いたずらに、核心から遠ざかるばかりだ。

  ・それと同時に驚かされるのは、論議が軍事を抜きに語られている点だ。」

  ・軍事を抜きにした沖縄論など、まったく無意味に等しい。

  ・国際政治はその根底において、経済と軍事が極めて強い影響力を有してきている。

  ・軍事の基盤は経済力であるし、経済の背景には、常に軍事力の影がちらつく。

  ・経済さえ発展していれば、軍事など軽視してもという考え方は、大戦後の日本をずっと根強く支配してきた。

  ・日本における、近年の愚論の最たるものは、「一体、誰がせめて来るのでしょう ? という、意見だ。

  ・これは軍事音痴を自ら白状しているか、はたまた、日本の弱体化を狙い、仮想敵国を利する魂胆としか考えられない。

  ・スバリ危険な国家とは、中国だ。

  ・中国の経済は背伸びの限りを尽くし、内部には、不正が渦巻いているのを忘れてはならない。

  ・中国の国営企業の倒産が相次ぎ、経済的な行き詰まりが見えた時、中国は国民の不満を転嫁するため、台湾に標的を合わせるのは、当然である。

  ・この覇権国家が動き出した時、アジア北東部に、恐るべき事態が発生するのだ。

  ・沖縄は、その真ん中の、要石の位置を占めている。

  ・もし混乱が起きた場合、否応なく、渦中に巻き込まれていく。

  ・この地理的条件がある限り、いかに理想論として戦争を放棄しても、戦争の方が放棄してくれないのである。

 もし最後まで読まれた方がおられましたら、時間の無駄遣いをさせ、申し訳ないことをいたしました。

コメント (4)
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