ねこ庭の独り言

ちいさな猫庭で、風にそよぐ雑草の繰り言

『中国ビジネスと商社 』- 2 ( グローバリズムの幸福は、風に舞うシャボン玉 )

2018-01-23 21:34:24 | 徒然の記

 『中国ビジネスと商社』( 平成15年刊 東洋経済新報社 ) を、1月6日に手に取り、今日で17日目になります。本日やっと読み終えましたが、難解だから遅々として進まなかったのではありません。 

  昨日取り上げた「外国人技能研修員制度」と同様、知れば知るほど「日本の別の顔」が現れ、戸惑わされせました。

 記憶が定かでありませんが、本が出版された平成15年は、中国の総書記が江沢民氏から胡錦濤氏へ変わり、首相も朱鎔基氏から温家宝氏へと交代した時だったと思います。

 およそ12年続いた江沢民政権下で、日中関係は悪化の方向へ進んでいたと、新聞の報道などからそう考えています。平成10年の11月に来日した江沢民氏のことが、今も忘れられません。

 宮中晩餐会の席で天皇陛下が、歓迎の辞を述べられました。

 「貴国と我が国が今後とも互いに手を携えて、直面する課題の解決に力を尽くし、 地球環境の改善、人類の福祉、世界の平和のため、貢献できる存在であり続けていくことを、切に希望しています」

 これに対し、人民服という平服姿で臨席した江沢民氏は、仏頂面で答礼を返しました。

 「日本軍国主義は、対外侵略拡張の誤った道を歩み、中国人民とアジアの他の国々の人民に大きな災難をもたらし日本人民も深くその害を受けました。」

 「『前事を忘れず、後事の戒めとする』と言います。われわれは痛ましい歴史の教訓を、永遠にくみ取らなければなりません。」

  12年続いた江沢民政権の間、日本の総理は目まぐるしく変わりました。
 
 宮澤喜一、細川護熙、羽田孜、村山富市、橋本龍太郎、小渕恵三、森喜朗、小泉純一郎、各氏へと、8人も入れ替わっています。
 
 国内政治が不安定のままで、江沢民氏に手玉に取られても、日本はなされるがままでしかなかったのか。「経済は一流、政治は三流」、「政冷経熱」という言葉が流行ったのは、この頃だったでしょうか。
 
 度重なる侮辱への反動のためか、その年の4月の統一地方選挙で、反中政治家の石原慎太郎氏が、都知事選で圧勝しました。9月には、靖国参拝をする小泉総理の改造内閣が成立し、幹事長に安倍晋三氏が抜擢されました。
 
 しかし本では緊迫した政治情勢は語られず、躍進する中国経済と明るい未来と、日本の商社が果した大きな役割と実績が並べられます。
 
 広大な荒地を切り開き、一大工場地帯へと変貌させるため、商社がどれほど中国のために知恵を絞り資金を調達したか。沢山の成功例が、苦心談として紹介されています。
 
 資金のない中国のため、日本の銀行や政府援助を商社が借り受けて投資し、資金の回収は出来上がった工場の製品で行う。
 
 商社は、製品の販売を一手に引き受け、日本国内だけでなく世界へ販売する。
 
 政府援助や銀行借り入れは、中国に有利な長期ローンで、無償援助にも近いものがあるという説明です。
 
 具体的な商社の名前を書かず、A社、B社、C社と紹介されていますが、丸紅、伊藤忠商事、住友商事、兼松、トーメン、豊田通商、ニチメン、日商岩井、三井物産、三菱商事という、日本を代表する商社です。
 

 1月4日に、邱永漢氏著『中国がクシャミをしたら』を読み、氏が中国のため、日本の会社を沢山誘致しているのを知り驚きましたが、この本はスケールが違います。

 氏の扱う案件は数はあっても、せいぜい一億円以下の事業でした。商社が扱う案件は一兆円台の仕事もあり、日中両国の政府と金融機関が関与しています。

 広東省の空港建設に438億円、湖北省の化繊プラント建設に72億円など、対中外交の最大の柱は、公的資金の供与でした。総額6兆円という天文学的な資金が、中国へ贈られていますが、この資金の供与について中国国民は知らされていません。と言うより、日本でもほとんど報道されていません。
 
 昨年の10月に読んだ、村田良平氏著『なぜ外務省はダメになったか』の中で、氏が嘆いていたのを思い出します。
 
  「最近のODAは、返済期間や金利などを考えると、限りなく贈与、つまり無償援助に近いのです。」
 
  「資金供与の決定は、財務省が主体で、密室で決めています。」「誰がどういう基準で、どういうプロセスで決めているのか明らかになっていません。」
 
 答えの一端が、ここにあると「ねこ庭」で推理しました。巨大市場に魅惑され、必ず自社の利益につながると信じる、日本の商社の姿が浮かび上がります。
 
 親中派の政治家と外務省内のチャイナスクールの官僚がつながり、巨額の投資が実現したのではないでしょうか。27ページの書き出し部分に、次のように書かれています。
 
 ・日本企業の慎重な姿勢とは対照的に、欧米では中国経済の台頭をビジネスチャンスとして、積極的にとらえており、成功を収める企業が続出している。
 
 ・中国における外資企業の売上高ランキングを見ても、欧米企業がほぼ上位を独占している。自動車では、ドイツのフォルクスワーゲンがほぼ独占している。
 
 ・携帯電話では、米国のモトローラ、フィンランドのノキアというように、欧米企業の活躍が目立ち、日本企業の影は薄い。
 
 ・エレクトロニクス分野での、中国企業の台頭は著しく、日系企業のシェアーは下がっている。
 
 ・日本が心配すべきなのは、対中投資が増えれば国内産業が空洞化するということでなく、日本企業が、成長する中国市場の蚊帳の外に置かれてしまうということである。
 
 これが巷で言われる、「バスに乗り遅れるな」論です。
 
 真正保守と言われる人間を除き、こうして日本は、国を挙げて中国への投資に走ったのだということが分かります。
 
 中国は今、過剰な投資が積み重なり、各地に巨大なゴーストタウンが出現し、経済が崩壊するのでないかと危惧されています。かって日本のバブルがはじけた時のように、不動産業を筆頭に、過剰投資で拡大した企業が倒産するのでないかと、嫌な噂が流れています。
 
 反日の中国が崩壊しても自業自得だと、他人事のように考えていましたが、本を読んだ今では、そうはなりません。
 
 日本の企業は、商社をはじめとして進出したメーカーも、保険会社も金融機関も、壊滅的打撃を受けるに違いあるまいと言うことです。かって過剰投資で赤字になったダイエーやそごうが、「大きすぎて倒産させられない」ため、政府と金融機関が頭を悩ませたことがありました。
 
 そういう意味からしますと、中国は桁外れの大きさなので、経済が崩壊したら、日本だけでなく欧米諸国も巻き込まれ、世界恐慌となるのかもしれません。
 
 しかし幸いにも私は数字に弱く、経済も金融も分からない人間ですから、実感がありません。わずかの年金を国から頂き、節約の日々を送る私などに、とうてい手に負える話ではありません。先のことは、賢い指導者にお任せし、生じた結果を甘受するしかない自分です。
 
 だが経済以外の話では、日本のリーダーと自負する人々に、「ねこ庭」は遠慮しません。
 
 日本を敵視し、日本を貶める中国というのに、バスに乗り遅れるなと投資に走り、肝心の中国からは感謝されず、「お前も儲けただろう」とうそぶかれています。経済優先、利益優先で走って来た日本人は、大きな間違いをしたのではありませんか。
 
 グローバリズムには国境がなく、グローバリストは、儲ける場所が国となります。利益の出ない場所は即座に捨て、利益を求めて地球を彷徨います。こんな企業やこれに同調する政治家や学者たちは、結局、日本の誰も幸せにしません。
 
 大切なのは「自分の国」と、そこに住む家族と、文化と伝統です。
 
  一時の利益や贅沢を手にしたとしても、グローバリズムのもたらす幸福は、風に舞うシャボン玉でしかありません。この本は、やはり、来週の有価物回収の日に、他の本とひとまとめのゴミとして、小学校に提供します。
 
 目先の利益に目が眩み、自分の国も国民も、ないがしろにするような企業が書いた本は、トイレットペーパーとして再利用するしかありません。
コメント (2)
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