邱永漢 ( きゅう えいかん ) 氏著書『中国がクシャミをしたら』( 平成17年刊 廣済堂出版 ) を読了。
氏の略歴を紹介します。
・大正13年に、日本統治下の台湾で生まれ、
・昭和17年に日本本土へ移り住み、昭和20年に東大経済学部を卒業
・実業家、作家、経済評論家、経営コンサルタントなど、様々な分野で活躍
・外国人初の直木賞受賞作家でもある。株の名人として知られ、「金儲けの神様」と呼ばれている
以前に一度氏の著作を読んでいますが、表題も中身も忘れました。
中国の激しい反日について、
「心配することはない。」
「国が豊かになり、民の懐がうるおえば自然と収まってくる。」
と、楽観的な意見を述べていたことだけ覚えています。
作家、評論家としての氏しか知らなかったので、今回の読書で、事業家としての目覚しい活躍を知りビックリしました。ネットで調べますと、手がけた事業としては、
ドライクリーニング業、
砂利採取業、
ビル経営、
毛生え薬の販売
など多方面に手を伸ばしています。毛生え薬は、自身が禿げてしまい失敗に終わったという笑い話もありますが、東京には氏の経営する中国語教室も存在し、日本におけるビジネスホテル経営の元祖でもある、というのには驚かされました。
中国では
コーヒー栽培事業 建設機械販売 高級アパートメント経営
パン製造販売 レストラン経営 漢方化粧品・漢方サプリメント販売、
人材派遣業
などの事業を営み、日本の会社を中国へ進出させたり、希望する日本人の就職を斡旋したり、中国の地方政府の意向を受けた政商みたいな役割もしています。
「ねこ庭」は日本に敵対し、日本を憎悪する中国政府が腹に据えかねていますから、その中国のため金儲けの架け橋となっている氏に、複雑な気持ちを抱きました。
「お金がなくては、生きていけない。」
「お金があると、幸せになれる。」
と飾らずに語る氏が、もともと嫌いでありませんでした。
他人を騙したり、不幸にしたりして金を稼ぐのでないから、金銭欲を恥じない正直さに好感さえ覚えていました。氏は平成24年に88才で亡くなっていますが、文字通り「金儲けのために費やした一生」です。
儲けということを中心に、時代を読み、明日の自分を考え、ためらわず実行するというのですから、大した決断力です。
私のように一つの国だけを愛し、躍進する外国へ飛び出さない人間を、氏は軽蔑し哀れんでいます。
「金儲けのためなら、どこへでも出かける。」
「儲けさせてくれるところが、自分の居場所であり、国である。」
と、私には氏のような割り切りはできませんし、する気持ちもありません。
それでも氏に抱いている好感が、減ることはありませんでした。要するに私と氏は、敵対する世界に住む人間でなく、異なる世界に住んでいるというに過ぎません。氏が見せてくれる世界を、呆れたり驚いたりしながら眺める観客のようなものです。
知らないことを教えてくれるのですから、その限りでは先生です。
ただしこの著作ばかりは、「これが本か ? 」と疑問符が最後までつきまといました。「パート・アルバイト」「仕事案内」などという無料雑誌が、駅のホームに置いてありますが、最初から終わりまで、そのような内容でした。
論より証拠として、一部を紹介します。
・せっかく一大決心をして、中国までやってきて、片言ながら中国語も通ずるようになり、中国人気質にも漸く慣れてきたのだから、このまま日本へ帰るのは残念だと、そう思う日本人留学生は沢山いるのではないでしょうか。
・ただ漫然と大学を出て、会社勤めをしている同年代の青年達よりは、パイオニア精神があり、実行力があることは確かです。
・今私は二つの計画を持っています。一つは、組織的な人材斡旋システムを、北京と上海に作り、人材を必要とする会社へ斡旋することです。
・もうひとつは、そういう青年達が働ける場所を、私自身が、できるだけ沢山作ることです。
・仕事を探している方は、「邱永漢アジア交流センター」宛に、履歴書 ( 必ず写真を貼り ) と、自分のやりたいことを書いた、身上書を送ってください。
・すべての人を満足させることはできませんが、心当たりのあるところから、手がけていきたいと思います。
どちらかと言いますと、現在の私は保守系の動画やネットの情報を多く見ますので、氏の著作に違和感を感じました。
日本の特許を侵害し、平気で偽物を作ったり、代金を払わなかったり、法律を恣意的に運用して日本企業を困らせたりと、とんでもない中国ばかりを知らされています。そんな隣国に肩入れする氏や日本人が、どうしても理解できません。
つまり氏の語る事実が、私の知らない別世界なのです。これもまた、論より証拠として、一部を紹介します。
・次の時代を背負う若者達は、どこに職場を求めるかを迫られています。
・海外が大きな選択候補として、目の前にちらつくようになっているのです。
・大学を出てから、あるいは在学中に、海外へ飛び出す人も日増しに増えています。既存の体制の中で、おとなしくエスカレーターに乗る人生に、飽き足りない人が増えているのです。
・学生だけではありません。
・既に社会に出て、一流企業に就職している人でさえ、安定した収入と出世コースを捨てて、中国の大学へ中国語の勉強に行く人が増えています。
・北京だけでも、一年に1500人の語学留学生がいるそうですが、これらの学生は、卒業しても日本へ帰るつもりのない人が大半です。
・北京でさえそうですから、上海は、もっとずっと多いと考えていいでしょう。
・西安で日本の留学生が、学芸会で問題を起こしたのは、まだ記憶に新しいところですが、西安にまで、そんなに沢山日本人留学生がいるのかと、びっくりする人が、多いのではないでしょうか。
・これは若者の就職戦線に、異常が起こっている何よりの証拠です。
「投資考察団旅行」と称して、氏は年に三、四回、一週間程度の旅行を実行しています。意欲のある日本人投資家を会員として募り、中国国内の主要都市を巡るツアーです。上海、北京、南京だけでなく、昆明、保山、大理など開発途上の都市で、氏も同行します。
・市長さんたちが業者を集めてくれ、最大級の歓迎をしてくれたので、計画を進めるにあたって、とても役に立ちました。
と言うのですから、私が政商と言った意味も理解されると思います。
こうしたルートを通じ、氏は日本のスーパーマーケットや、ホテルを現地に誘致し、成功しています。日本からも中国からも感謝されているという説明なので、これはもう、直木賞作家や経済評論家の範疇の仕事ではありません。
失敗談は書かれていませんが、成功したりつまづいたり、おそらく氏は億万長者の一人なのでしょう。一箇所に落ち着くこともなく、あちこちに家を持ち、何年か先までの事業計画を常に抱え、資金繰りを工夫し、利益の活用に頭を使い、多忙な日々を送ったはずです。
美食家で、お洒落で、高級品の目利きで、何不自由なく世界を旅行しという人生です。若い頃でしたら、羨むだけでなく憧れたかもしれませんが、今の私には無縁な世界で、羨む気持も生じません。
年を重ねるのは有難いことだと、神様に感謝したくなります。
氏の本が出された当時 ( 平成17年 ) の日本は、どんな状況だったのか、ネットで調べてみました。すべての事実が私には、実感の伴う記憶ですが、息子たちには、どういう記憶になっているのでしょう。
・天 皇 昭仁陛下
・総理大臣 小泉純一郎 ・内閣官房長官 細田博之 安倍晋三
・衆議院議長 河野洋平 ・参議院議長 扇千景
・国 会 通称「郵政国会」
・小泉首相の行った「郵政解散」と、その後の政治手法は「小泉劇場」と呼ばれた。
・JR福知山線脱線事故、土佐くろしお鉄道衝突事故等、鉄道事故多発。
・「京都議定書」発効。地球温暖化対策として、クールビズが官民で積極的に推進。
・ライブドアによる、メディア買収騒動。六本木ヒルズに拠点を置く、ヒルズ族が注目を集めた。中心人物、堀江貴文。
・新語・流行語大賞として、「小泉劇場」「想定内」
・今年の文字として、「愛」
愛知県で「愛・地球博」が開催されたことや、中国で活躍した卓球の福原愛など、「あいちゃん」という愛称の女性の活躍が目立ったこと、「愛」のない虚無的かつ殺伐とした風潮が国内に蔓延したこと。家族間殺人など「愛の無い事件」が目立ったことなどが、選ばれた理由。
新年初のブログとして何も目出度くありませんが、本日はこれで終わります。