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ねこ庭の独り言

ちいさな猫庭で、風にそよぐ雑草の繰り言

北村壽夫氏著『笛吹童子』 ( 上・中・下 三巻 )

2016-12-17 21:00:50 | 徒然の記

    北村壽夫氏著『笛吹童子』( 昭和29年刊 (株)寳文館 ) 上・中・下三巻を読了。

 私が小学校三年生の時に出版された本だ。新諸国物語として語られる、NHKの連続放送劇でもあった。

 夕方になるとこの放送が聞きたくて、従兄弟たちとラジオの前で、一心に聞き耳を立てた記憶が今でも残っている。

 どこで手にいれた本なのか、それさえ覚えていない。来年1年かけて、もう一度読み直し、処分しようと決めた本箱の奥にあった。大学生の頃、高田の馬場の古本屋で買った本かも知れない。懐かしくて買ったものの読むだけの興味をそそられず、そのまま本棚に押し込み、忘れていたのだろう。

 いざ処分するとなると、いかにも時代の匂いがする懐かしさがあった。

 活字は小さくて読みづらく、粗末な紙がすっかり黄色く変色している。内側の背表紙のノリがはがれ、乱暴に扱うとすぐバラバラになってしまいそうだ。それでも定価が160円だ。

 当時の物価を現在に直すと、千円は越すのではなかろうか。敗戦後の物不足の時代だから、こんな本でも贅沢品だったに違いない。

 本の最後のページに、寳文館の出版物の宣伝があるが、これがまた、懐かしい本ばかりだ。みんなNHKの連続放送劇だっもので、ラジオ少年少女名作選と銘打ってある。

   青木茂原作・筒井敬介脚色『三太物語』 

   菊田一夫著『鐘の鳴る丘』

   菊田一夫著『さくらんぼ大将』   

   北村壽夫著『白鳥の騎士』

 私と同年代の人間なら少年のあの日と、貧しかった戦後の日本が、思い出の彼方からよみがえるに違いない。映画にもなっていたから、白黒画面の映像を、心に焼き付けている人がいるかもしれない。

 笛吹童子を三巻とも一気に読んだが、妖術があり、剣術があり、悪人と善人との戦いがありという具合で、荒唐無稽な話が多い。それでも、親子の愛情、兄弟愛、主従の契り、正義や悪などについて、子供向けに分かりやすく、丁寧に書かれているから、小学生だった自分が夢中になるはずと納得もした。

  52年も前の本だから、作者の北村氏も亡くなられているに違いない。上中下三巻の巻末に、それぞれ作者の「あとがき」があるので、記念のために紹介します。

 〈 上 卷 〉

  ・笛吹童子を、上中下の三巻の小説にして、まず上巻ができました。

  ・笛吹童子の放送は、たくさんの人が聴いていてくださいます。映画にしたいと言ってきた会社は、7社もありました。

  ・熱心な投書を下さる方々は、少年や少女や大人や老人や、いろいろです。僕はこの本を、青少年にも壮年者にも老人にも、読んでもらいたいと思います。

  ・そうした広汎な読者層を持つ本が、日本にはあまりに少ないと思います。僕は、そういう狙いで書いています。

  ・笛吹童子の放送が成功しているのなら、その一半は、音楽の福田蘭童、演出の山口淳両氏に負うところ。この機会に感謝の意を表します。

  ・この本も、この前に出ている『白鳥の騎士』も、どんな山の中にも行きわたり、放送を聴いて下さる「新諸国物語」のファンのみなさんに、放送とおなじく愛されることを願います。            

                     昭和二十八年十月  世田谷区赤塚

 〈 中 卷 〉

  ・笛吹童子の中三巻を、皆様の机上におくります。

   ・下巻もできるだけ早く出したいと、せっかく準備をしています。よろしくご愛読ください。
 
  ・放送では、明国の物語が入っていますが、上中下三巻にしても、どうしても、この小説に入りません。やむおえず、割愛しました。
 
  ・ぼくは、放送にも小説にも、主力をこの新諸国物語にそそいでいます。が、これは自由な創作ですから、かならずしも史実にはのっとっておりません。
 
  ・その点ご了承ください。           昭和二十八年十一月
 
 〈 下 卷 〉

  ・とうとう下巻ができました。ご愛読ください。

  ・それから、おことわりしておきたいのは、なにしろ、放送の原作は膨大なもので、とうていこの三巻には書ききれず、放送とはところどころ、筋も違え、省略もしてある点です。あしからず。

  ・また、これは自由な創作で、史実を追っていないこともご了承ください。

                           昭和二十八年十二月

  あとがきで分かるとおり、月に一冊のペースで書いている本だ。
 
 本格小説であるはずもないが、この本が、というよりこの放送が全国津々浦々で聞かれ、子供だけでなく大人や老人にも楽しまれていたのは、間違いのない事実だと思う。
 
 それこそ、古き良き時代の昭和の一面を語ってくれる、歴史の匂いのする本だ。国中がはらぺこで、貧しくて、懸命に頑張っていた敗戦後であった。
 
 このブログを読んでも、おそらく子供や孫たちには何のことか分からないだろう。時代の雰囲気や、空気は、どうしたら伝えられるのだろう。たかが「笛吹童子」、されど「笛吹童子」と、そんな奥深いものもあるのだがそれを伝える力量がない。
 
 子供達への伝承などと気負いたつのをやめ、懐かしい思い出のブログとして終わるべしか。子供の頃が、なつかしい。

  たまには自分一人の楽しみに浸っても、許されるだろう。

コメント (4)
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